第30話:未知に強い男
うん。
やっぱ兄さんは……スゴイ。
初合流メンバーが混じってるのになぁ。
はやくもみんなの特徴を捉えて、的確に指示を出してる。
それに、初めて来た世界樹の内部。ここ、まるで天然のダンジョンって感じなのになぁ。
マッピングが完璧。
俺たちがどの方角から来たか、どのルートは確認済みか。
兄さんが全部、完璧に記憶してくれてるおかげで、迷子にならずに済んでる。ここまで、無駄に歩きまわったり、魔獣とバトルしたりせずに済んでるから、最低限のエネルギーしか消費してない。
ほんと……ここまでくると、兄さんは全てを把握してるって気がする。
仲間とこの洞窟の特徴、そして……直近の未来の全てを、ね。
「ハルイル、下がれ! ヘンゼルさん!」
「その次は、私やね?」
「はい!」
天井に擬態してた巨大なナメクジの落下を、ハルイルは少し余裕をもって回避できた。
落下した瞬間、ヘンゼルさんがシールドで捕縛。
カグヤさんが余裕をもって威力を抑えた火炎魔法を唱えて……うん、勝負あった。
兄さんはこんな魔獣が生息してるなんて、知らないはずなのになぁ。
まるで最初から、こういった敵襲がありうるって想定してましたけど何か? って感じで、事態の悪化を未然に防ぎまくってる。
今だって、兄さんが素早く指示しなかったら、ハルイルコンビはナメクジに押しつぶされてたかも。最悪、そのままジワジワと捕食されてたかもしれない。
ナメクジのヌメヌメした身体は掴みにくいし。三メートルを超える巨大個体ともなると吸着力ヤバいから、仲間を引きはがしにくい。
だから、一度下敷きにされると……かなりやっかいなことになる。
魔法で仲間を傷つけないように焼き殺すか、怪我覚悟で強引に仲間を引きずり出かしないといけない。でも、引きずりだそうとしても、種によっては毒でマヒさせられちゃったりするから、それが上手くいかないと―――窒息死することもある。
「カイト、サンキュ!」
「ハルルに同意! サンキュ!」
「おう!」
三人でハイタッチをして、互いを元気付けてる……感じだけど。
でも、兄さんのことだから、ハルイルの状態をチェックしてるに決まってる。
疲れてないか、怪我はないかってね。
「ヘンゼルさんにカグヤさんも、ありがとうございました!」
「いや、問題ない」
「いえいえ、お二人が無事なんは、カイトさんが的確に声をかけはったからですよ」
ヘンゼルさんとカグヤさんからも、兄さんは高評価を獲得中みたいだ。
二人だけじゃない。ジェイもモネもミルルも、借金二千万ジェムで引いてたけど……今は兄さんを見直してるっぽい。
つまり兄さんの株価、このダンジョンに来てからずっと爆上がりしてるんじゃないかなぁ。
「しばらくは敵襲はなさそうだから、水分補給を各自で!」
「「「了解!」」」
ほら、まただ。
時たま、あるんだよね。
この感じ。
いつの間にかみんな、敵襲がないことを信じちゃってる。
兄さんへの信頼といっていい。
もっと言えば、まるで兄さんが未来を確実に見通してるって……みんな無意識に信じちゃうって感じ。
勘が鋭いっていうのかなぁ。
ボンゴレ家族の主人公的にいえば、超直感っていうの?
これって絶対、転生前からのスキル継承だと思う。
転生前、すでに兄さんが持ってた不思議な力を転生後に引き継いだに違いない。兄さん、異世界転生ものをわかってるじゃあないか!
それに多分、予知ってめっちゃレアスキルだと思うよ?
簡単に言うと、兄さんがヤバいって言ったら、絶対にヤバいんだよね。
アドバイスに従ってトラブルを回避できたらラッキー。
信じずにアドバイスを無視すると、兄さんがヤバいって言った通りになっちゃう。
大ケガをしたり、立ち往生したり……色々あったなぁ。
この話題になると……俺はちょっと心の古傷が疼く。
兄さんと初めてした兄弟ゲンカのことを思い出しちゃうから。
あれは俺が幼稚園に入ったころだったと思う。待ちに待った花火大会当日! ちょっと早めに家を出ようとしたその時になって……兄さんは急に、行きたくないって駄々こねたんだ。
「えっ⁉ なに言ってんのコイツ?」って感じだったよ……幼いながらに、ね。
だってさぁ。父さんも母さんも、縁日でいろいろ買ってくれるって言ってたんだよ?
俺も兄さんも、三日くらい前から「焼きそば食べたい」とか、「綿あめ食べたい」とか、金魚すくいはダメだって言われてムスっとしたりとかしながら、ずっと楽しみにしてたんだよ?
なのにさ、急に泣き叫び始めて。
皆の手を引っ張って。絶対に行っちゃダメだって兄さんが喚いたから……父さんも母さんも根負けちゃってね。
毎年、夏休み一番の楽しみなのに。
それを奪った兄さんを許せなくてさ。
俺はつい……大嫌いって言っちゃったんだ。
兄さんのせいだって、大嫌いだって、泣きながら何回も言っちゃったんだよ。
兄さんも兄さんで、俺につられてもっと泣き叫んじゃってさ。でも、「リクが大事だから絶対行っちゃダメ!」って、譲らなくて……何度も何度も、ごめんなって言ってくれたんだ。
俺も兄さんも泣き疲れて寝ちゃった翌朝、どこのテレビでも大きなニュースになってて。ガキだった俺にもようやくわかった。兄さんが行っちゃダメだって言った理由が。
俺も、父さんも母さんも、兄さんが命を救ってくれたって、わかった。そっから先、一度も、俺は兄さんを疑ったことがない。
だって、バカらしいでしょ?
自分が嫌われてもいいって覚悟で、オレのことを守ってくれる人を疑うなんてさ。
「陸人、大丈夫か? ルルルは?」
「大丈夫。でもお腹空いたぁ」
「うん、大丈夫! あと俺もルルルに同意」
「ならもうちょっと行った先で休むか」
「もうちょっと?」
「あぁ。ここは巣穴に近い……気がする」
「うん、わかった」
やっぱり、兄さんが転生前の力を引き継いでる可能性はある。
未来を予知する超直感を。
転生前は実際、この能力のせいで、兄さんのことを気味悪がる人も結構いた。つまりそれは、兄さんの能力が本物だって、大なり小なり多くの人が信じたってこと。
この能力のやっかいなところは、人を助けると兄さんが不気味がられ、人を助けられないと兄さんが悲しむって点にある。能力の結果で誰かが救われても、救われなくても、兄さんが傷つくことになる。
たくさんの言葉、たくさんの視線がきっと、兄さんを傷つけたんだと思う。いつの間にか兄さんは、だんだん学校に行かなくなって。
俺にできることは、あんまりなくて。悔しいなって―――ずっとそう思ってた。
引きこもりがちな兄さんと、割とアクティブだった俺の共通話題が、アニメに漫画、ゲームでさ。深夜まで盛り上がって、よく母さんに叱られたっけ。
今だから白状できるけど……。
俺は兄さんに伝えたかったんだ。人を救うヒーローやヒロインはカッコいいんだって。特殊な力があっても変じゃないって。
だから兄さんは、悪くないって。
直接そう言うのは恥ずかしいから、素直に伝えられなかったけどね。
同じ失敗と後悔を、繰り返したくない。
「止まれ……その窪みが怪しい。支えるもの、用意」
おっと、俺とルルルの出番だ。
「「了解っ」」
シールドを展開し、皆を包み込む。
パッと見た感じ、樹木の窪みにしかみえない。
でも兄さんがこういうってことは……出てきた!
巨大な熊タイプの魔獣!
俺も魔法を重ね掛けして、シールドの強度を増しつつ……敵を解析っと。
「報告! 弱点は風。物理攻撃への耐性が高いっぽいし、攻撃力ヤバめ」
危なかった。
魔獣の巣穴だって気づかずに前を通り過ぎて……横から不意を突かれてたら大惨事になるところだった。ここの通路、かなり狭い。退路も確保できない。そんな状況で、横から一気に間合いをつめられて……パーティが分断されてたら、みんなパニック状態になるところだった。
「風の攻撃魔法―――ヘンゼルさん! カグヤさん!」
「わかった」
「了解です」
ハイエルフの二人がすぐさま詠唱に入る。
とんでもなく詠唱が早い……それに正確。
長文で複雑な呪文を丸暗記して高速で唱えるとか、ハイエルフの知力はマジでヤバい。
「しゃあ! さすがですお二人とも!」
唱えるもの―――ヘンゼルさんにカグヤさんの二人は、このパーティの巨大な大砲みたいなもんだよね。
切り裂くものの四人は、俊敏性や機動性に長けた小型戦闘機みたいなもの。
支えるものは母艦って感じだ。
そして癒すものが補給部隊ね。
パーティのリーダーは母艦の船長であり、司令官でもある。
いざとなれば頼りになる精霊の強力な一撃で戦況をひっくり返せる。秘密兵器ってやつだな。
役割分担を明確にし、それを全うすることがチームに安定感をもたらす。
それにさ、俺、思うんだよね。
この世界の魔法を考えた人って、相当なゲーム好きに違いにないって。
バフやデバフって考え方、パーティで役割分担をしあうって仕組みは、基礎基本。弱点を解析して対処法や戦略を考えるってところは王道なだけあって、攻略感が得られていい感じだ。
なにより、実際に未知の敵と戦ってみてわかった。守りを固めながら敵の弱点を解析できるように魔法を構成している点は、なかなか秀逸。
あと、ゲームならさ、魔法の入手には、ある種の制限がある。
レベル上げないと魔法を手に入れられない、覚えられないってパターン。お金をためないと購入できないってパターン。何かしらのダンジョンを攻略したり、アイテムを手に入れないと魔法を覚えられないってパターンがほとんど。
そして、大概の場合、一度手に入れたら、マジックポイントがある限り、安定してその魔法が使用可能なんだよね。
でも、この世界はちがう。
発見された魔法に必要な詠唱文は全て、開示されている。
フリー素材みたいなもん。
魔法の使用する権利が、全ての人たちに認めらてるってところが、いい。
だって、特定のキャラしか魔法が使えないなんてさぁ、現実的に考えれば、面白くないじゃん。入手するには生まれ変わって別の人生やり直すしかないわけじゃん? それ、現実世界だと縛りがきつすぎるよねマジで。
あと、魔法の効果も、この世界じゃ、努力すれば高められる可能性が、全ての人に開かれてるってことだ。頑張りがいがあるってことなわけで。ここも、いい。
結果を具体的にイメージできること、詠唱文を正確に唱えられること。この二つが魔法の効果を決定づけるって言われてる。
魔法の結果を具体的にイメージするにも、詠唱文を正確に唱えるにも、練習あるのみ。実践あるのみ、だ。
この発想って、ゲームのプレイヤー視点じゃなくて、ゲームの登場人物になり切ってリアルに考える視点も持ってないと、生まれてこない。
つまり、この世界の魔法を創った人、あるいは神は、ゲームをプレイしながらキャラ視点でその世界観を楽しめる人―――つまり相当のゲーム好き、ってことだと思うんだよね。
そんな人、この星にいる?
だって、この星にはゲームがないんだよ?
そう考えたらさ、この星で唯一、そんなことができるのって兄さんくらいじゃないかなぁって思うんだけど。
だから兄さん、やっぱり神様なんじゃないの?
こないだまで魔法を生み出す神様業やってましたって言われても、俺、驚かないよ?
「陸人、疲れた?」
「大丈夫! てか兄さんの読み、あたったね。さっすが兄さん!」
「照れるじゃんか! まぐれだよまぐれ!」
下手な口笛は、照れ隠しの証だ。
でも……まぐれ、ね。
俺は、必然だと思うけど。
巣穴が近いってことが読めたのも……この星に転生したのも。
いやむしろ、運命だよ運命。
うん。
兄さんがこの世界に転生してきたのは、運命なんだよ。
だってほら、魔法に精霊、神様みたいな特別な存在や特別な力が、この世界じゃ当たり前だから。
ちょとくらい予知ができるくらいで、この世界じゃ変だって思われない。むしろ、高評価ポイントだと思うし。
「カイトの勘、マジで冴えてるよなぁ」
「ハルルに同意! 頼りになるぜ!」
「イルルに同意! カイトのおかげでかなり楽!」
「だろ? 実はオレできる子なんだよ? 普段からもっともっと褒めやがれっ」
ほらね? 高評価でしょ?
ワシャワシャっと頭を撫でる三バカ兄弟に、嬉しそうに調子に乗って見せる兄さんは、なんだか楽しそうだ。
でも、まだまだ足りない。
もっと、もっと……楽しんでほしい。
地球にいたときの分も合わせて、ね。
「てかカイト、その勘を恋愛方面に使えればモテるのになぁ」
「「ハルルに同意!」」
「ウルセーよ⁉」
うん。
その点は俺もハルルに同意。
なぜかナナちゃんまで頷いてるけど、兄さんは……気づいてないか。
よかったよかった。
それにしてもなんで、その勘っていうか、未来を見通す力が、恋愛方面に発揮されないわけ?
女性の機微、えっと、例えば今これ言ったら不機嫌になっちゃうとか、逆に喜んでもらえる、とか見通せそうじゃん。
う~ん………なんでだ?
あ、ひょっとしたら兄さん、無意識にさぁ、恋愛面でのチート行為は禁止ってマイルールでも働かせてんじゃないの?
「さてと。ヘンゼルさん、こっからいよいよ後半戦突入って感じですよね?」
「あぁ。英知の箱はこの先の回廊のどこかに眠ると考えられている」
「わかりました。大詰め、つまりこっから先、魔獣に加えて侵略者―――半獣半人タイプのモンスターとの戦いが激しさを増すと思う」
「それに、耳に入れて置こう。世界樹イブの深部には……野生のドラゴンが生息していると言われている」
「……だってよみんな。まぁ、ラグナより強くはないだろうから、気にしないでおこう」
いや兄さん、さすがにそのハードルの下げ方は無理があるって思うけど。
ラグナ以下って、ほぼこの星の生命体全てが含まれる括り方だからね?
それじゃ、誰もなんっにも安心できないからね?
「それにさ、デミ・ゴッドみたいな強キャラが連続お代わり状態ってこともありうると思うんだよなぁ」
兄さん、ちょっと別次元に行ってお代わりをお断りして差し上げて?
てか、それもう超直感―――ぶっちゃけ今の予知だよね?
絶対、連続お代わり状態で強キャラがガンガン出てくるパターンだよね?
「そこで、だ! 前チラッと言ったと思うけど、試してみたいことがあってさぁ」
ニヤリと、兄さんが笑った。
なんかイタズラを思いついた時の表情だ。悪だくみするぞって感じがちょっと、ドキドキする。
「兄さん、何するの?」
「よくぞ聞いてくれた弟よ!」
大天使ウリエル様も言ってたけど。
兄さん、もっとこの星を自由に楽しんでよ。
地球にいた頃にできなかった分、思いっきりさ。
それに俺は、もっと多くの人に知ってほしい。
俺の兄さんはスゴイんだって。
もっともっと、みんなに認めてもらいたい。
俺の兄さんはスゴイんだって。
俺に、もっともっと……兄さんを自慢させて。
兄さんがスゴイってこと……みんなに伝えさせて。
そのついでにさぁ。
俺のこと、もっともっとワクワクさせてくれよな?
今日もありがとうございました!




