第29話:世界樹の天然ダンジョン
Side:ナナ
陸人くんは、私の王子様なの。
だって、カッコいいから。
あ、誤解しないでね。
見た目もだけど、それだけじゃないの。
えっと、もちろん見た目も大好き。
大和おじさんにそっくりで、カッコいいの。
黒い髪を短めにして、健康さや爽やかさを全面的にアピールしてるところも素敵。
それに、鍛えられた肉体も好印象。
陸人君、ずっと部屋から出れなくてたいへんだったのに。
でも、冒険者になる夢を諦めずに、ずっと地道に頑張って筋トレしてたって証拠だもんね。
陸人君のひたむきなところも、心構えみたいなところも、ナナは大好きなの。
それにナナを守ってくれる。
ずっとそうなの。
最初に守ってくれたのは五歳のとき。ナナの誕生日で、演奏を披露したときのこと。
海人族なのに、お姉ちゃんに比べて演奏が下手なナナは、途中で泣いちゃったの。
一人だけずっと音を外して、一人だけずっとテンポが合わなくて。恥ずかしくて、悔しくて。
でも、近寄って来た陸人君が頭を撫でてくれて―――
「俺も竜人族だけど体が弱いんだよね。でも、それってこれからいっぱい成長できるってことなんだよ。わくわくしない?」
―――そう、楽しそうに笑ってくれたの。
ふふふ。
イケメンでしょ?
だって、陸人君は、ナナの心を、そして未来への希望を守ってくれたんだもの。
だから同じパーティになれてナナは幸せ。
デミゴッドのブゥちゃんが襲って来た時も、ナナは怖くなかった。
陸人君が背中で守ってくれたから。
ナナの視線にブゥちゃんが入らないように、背中で視線を遮るように守ってくれてたから。だからナナは、冷静に行動ができたの。
それに……今もそう。
「ナナちゃん、大丈夫?」
「うん!」
汗を拭いながら、呪文の詠唱と敵の解析を繰り返して……疲れるてるはずなのに。
たまにね、ナナの居場所を確認するように振り返ってくれて……微笑んでくれるの。ナナを安心させようとしてくれてるんだって思う。
そこが、カイト君と違う。
カイト君はね、ナナのこと好きなんだろうなぁって思う。
なんとなく、だけど……カイト君は、ナナのことを一番には考えてくれない―――そう思うの。
だって、陸人君にナナのことを譲ろうってしてる気がする。
それって、陸人君の幸せを願ってるってことなんだろうけど……ナナ的にはちょっと寂しい。
それにカイト君がナナを好きなのは、きっと、ナナが陸人君のことを大切にしてるからなんじゃないかなぁって。
光に苦しんでた陸人君に、ナナは夜、全身を真っ黒に塗って、大事にしてる自慢の綺麗な髪も、黒く染めてもらって……真っ黒なローブを着て、会いに行ってたの。陸人君の物語を、いっぱい教えてもらったてねぇ……ふふっ、楽しい時間だった。
もちろん、ナナだって、好きな人には綺麗だって思って欲しい。そのためにおしゃれだってしたいし、ちょっとだけお化粧もしたいって思ってた。
でも、綺麗やカワイイは陸人君に会うには邪魔だって気づいたから。
恥ずかしいって思ったけど、陸人君に会えないのが嫌だったから。
そんなナナを見かける度に、カイト君はいつも遠くから微笑んでくれた。ありがとうって、小声で言いながら。
だから思うの。陸人君を好きなナナを、カイト君は好きになってくれたんだろうなぁって。
うん、やっぱりカイト君の一番は陸人君の幸せなんだろうなぁって、ナナは思う。
ナナじゃカイト君の一番にはなれない―――そう思うのよね。
それにね?
カイト君は、恋をしてるって状態を楽しんでる気がして。
その対象が、今、たまたまナナだってだけだと思うのよね。
だってほら、陸人君みたいに、直接的な行動で好意を示してくれたことがないから。
モテたいっていっつも騒いでるって、ハルル兄さんが言ってるけど。
恋をする状態、モテてる状態を楽しんでみたいって言ってるだけなような気もして。
ナナとは恋愛観が違うのかなぁって思う。
あ、ナナもたくさんの人が好きだよ?
光の精霊ガウェインさんも素敵だし、大天使ウリエル様も素敵だったし、もちろん陸人君も大好きだし。
いっぱい、おしゃべりもしたい。
だって、好きな人にはナナのことを知ってほしいもん。
ナナのことを好きになってほしいもん。
たくさんの人に出会って、関わって、ナナの一番好きな人を探したいし、ナナのことを一番にしてくれる人を探したい。
ナナはモテたいわけじゃなくて、探したいだけなの。
一番を……私の王子様を。
「いったん退くぞ! ガウェイン、汝の意を示せ!」
「承知」
【謁見の間】。
光の精霊さんたちが創ってくれる異空間。
光の精霊さんたちが認めた者しか入れない空間。
この力のおかげで、ナナ達は休憩を取ったり、作戦を立てたりできる。
世界樹の内部は天然のダンジョンみたいになってて、野生の魔獣が出たり、星外の敵が襲ってきたり。
もう、たいへん。突入してから三時間は経ってると思うけど……みんな凄い。
支えるものの陸人君、ルルルは肩で息をしてる。モネちゃんも。
シールドを張ったり敵の弱点を解析したりと、集中力の必要な役割だから。
切り裂くもののハルル兄さんとイルル、ミルルにカイト君、ジェイさんも、ちょっと疲れ気味。
カグヤさん、ヘンゼルさんはまだ余裕がありそう。
流石って感じ。
でもきっと、一番元気なのは私。
癒すものの私は、ほとんど出番がなかったから。
だから今、私が動かないと。
「みんな、飲み物と軽食を配るね。カイト君が作ってくれたから味は最高よ!」
「「「「「っしゃあ!」」」」」
さすがカイト君の料理。
男の子たちは一瞬で元気を取り戻したみたい。
「「「うめぇ!」」」
「兄さん……天才」
「褒めすぎだって。鳥の香草焼きをパンに挟んだだけだぞ?」
うんうん。いっぱい食べる男の子って、いいよね。
ナナも食べよっと。
「はぁ……美味しい」
本当に、美味しいなぁ。
カイト君の料理には絶対叶わないって思う。
それを毎日食べてる陸人君って、舌が肥えてると思うの。
もっとナナも料理を頑張らないとね。
「カイトのご飯、本当に美味しいですよ!」
「ミルルもそう思うの! もっと食べてアゲル!」
モネちゃんとミルルちゃんも、大絶賛してる。
ミルルちゃんなんて、またカイト君を抱きしめてるし。
「ホンマやわぁ。これはエルフ向けに味付けしてくれてはるの?」
「はい! ほうれん草を練り込んだパンを焼いてあったので……」
「焼いた? まさかこのパンも手作りしはったの?」
「えぇ」
「はぁ~、それはすごい。カイトさんの恋人になる人は幸せものやねぇ。私も立候補しとこかなぁ」
カイト君、顔……真っ赤だよ。
カグヤさん、確かに綺麗だけど。
でも、ナナのことが好きなら、そういうのはちゃんと断らないと。
ミルルちゃんのこともそうだよ。
もっとちゃんと離れないと。
そういうところがもう、もう、違うと思うの。
ナナのことを一番にしてくれてないって感じがするの、そういうところだと思うの。
「からかうのは止めてください……ところでヘンゼルさん、の、残りはどれくらいですか?」
「あぁ。だいたい三分の一程来た―――そう考えていい」
「考えていい?」
「英知の箱は最深部にあると聞くが、正確な場所は不明だからだ」
「なるほど。そうですね。ここはダンジョンじゃない。だから階層がない。つまり、現在の到達度を正確に把握できないのは仕方ないってことか」
「あ、それなら報告! さっきアネモスにお願いして調べて来てもらったの」
「マジで? ナナちゃんありがと!」
「うん! アネモス、報告お願い」
「心得た。この先二百メートル直進すると、池と滝があった」
「池と滝?」
「うむ。進むには滝の上に登らねばなるまい。だがそこで……星外の魔物が三十程、待ち構えておったぞ」
「なるほど。敵は高いところに陣取って、オレらをそこで迎撃して……あわよくば撃退、最悪でも時間稼ぎをするつもりってことか」
「あぁ。私もカイトに同意する。つまり私とカグヤの出番、だな」
「えぇ。ほなら長距離からの高火力魔法で先制攻撃をしかけましょう」
「ならオレも手伝います。時間差で」
「あぁ。カイトは私とカグヤの攻撃後、敵の状況を見て時間差で追撃する……」
「なら主よ。その後に、私とガウェインの力で滝の上までお運びしましょう」
「頼んだ!」
「申し訳ない。光の届かぬこの地では、短距離の移動くらいしか叶わず……力不足を痛感しております」
「そんなことないって! アーサーとガウェインのおかげで、こうやって休めるわけだし!」
「恐縮です」
「それにモネ! モネが攻撃を吸収してくれるおかげで、支えるもののシールド維持が楽になってるだろ?」
「そ、そうですか?」
「兄さんに同意!」
「俺もカイトと陸人に同意。ありがとうねモネちゃん」
「陸人さんとルルルさんのおかげで、モネも安心できるですよ」
「それにミルルとジェイ! ふたりのおかげで、ハルルとイルルの力をかなり温存できてる。前衛に厚みが出たからオレも冷静に全体を見渡せる余裕が持ててるよ!」
「あったりまえだろ? 俺様は強ぇからな! これからも期待してくれていいぜ!」
「ミルルも! もっと頑張ってアゲる!」
「カイトに同意。正直、獣人族がここまで強いとは思ってなかったけどな」
「ハルルに同意。かなり楽だぜ正直」
うん。
カイト君のこういう優しいところは、ナナも素敵だなぁって思う。
あなたが居てくれて良かったって言葉かけが自然にできるのって、ポイント高いと思うから。
モネちゃんとミルルちゃんのことも、さっきからずっと褒めてるし。
新メンバーのジェイさんが馴染みやすいように、みんなと戦力が以下に向上したかを確認してるし。
正直、凄いなぁって思う。
敵わないなぁって、思う。
えっとね、カイト君に会うまでは……ヒュムの子どもなんて海人族の赤ちゃんレベルだって思ってた。心身も、知的能力も。
でも、これはナナの偏見だった。
種族で物事を決めつけちゃいけないって、カイト君から学んだんだよ?
みんなの関係性をつくるっていうの?
パーティとして、集団としての力を高める関係性づくりって重要なんだよね。
一+一は二じゃなくて、パーティの戦力を何倍にもしてくれる相乗効果をもたらす中心には、リーダーが居るんだって、パパがいっつも言ってる。
このパーティには、そこにカイト君がいるの。
カイト君の声掛けと、カイト君が居てくれるって安心感が、【希望】の土台なんじゃないかなぁって、ナナは思うの。
そして、カイト君が皆に寄せてくれてる信頼感も大きい。
最後にはオレがなんとかするから挑戦してみろって感じ?
ここは任せる! って、ランクSの強い人から信じてもらえるって高揚感?
戦闘中、みんなちょっとハイになって力が思いっきり発揮できちゃうのは、カイト君のおかげなんだなぁって、今日も思った。
うん。
カイト君はやっぱり、とっても素敵。
みんなのことを見て、みんなの関係づくりをしてくれるところが、とっても素敵。
そっか。
だからか。
誰か一人と自分との間にだけ特別な関係づくりをしないから……カイト君は恋愛には向かないのかも。
ナナを一番にしてくれないのも、カイト君のそういう優しさのせいなのかも。
でも、ナナ、気づいちゃった。
皆を大切にできるところがカイト君の一番の魅力なんだよね?
ナナを一番にしてもらったら、カイト君の魅力はなくなっちゃう。
だから……仕方ないよね。
ちょっとだけ残念だけど。
生前からの兄弟だっていう陸人君以外は、カイト君の一番にはなれない。
だから、だから仕方ないよね。
「主よ。そろそろお時間かと」
「ん? あぁ、そっか。神気だね神気。わかってましたとも!」
「…………兄さん」
ちょっとだけ抜けてるところがあるカイト君、カワイイと思うけど。
仕方ないよね、うん。
「そ、そうだ! みんなにあと一つだけ、相談があるんだけど……」
「相談?」
「大天使ウリエル様が、もっと自由にしろって言ったじゃん?」
「うん、言ってたね」
「だからあとで、ちょっと試したいことがあってさぁ」
「……はいはい。兄さんの好きにしていいよ」
「陸人? 最近オレにちょっと冷たくない?」
「冷たくないよ。でも、諦めつつはある……」
「諦める? 何を?」
「兄さんが人である可能性を、だよ」
「オレ、人だよ?」
「そうだね。でもやってることはもう人じゃないよね」
「……知ってた」
「でしょ? だから好きにしたらいいよ! 俺、その方がワクワクするから!」
ニヤリと笑った陸人君のちょっとダークな感じも……カッコいい。
ハルル兄さんたちも、ジェイさんも一緒になって、ニヤリと微笑んでる。
ホント、なんでだろ?
男の子って、ちょっとやんちゃな一面をみんな持ってて。
言葉にしなくても、そこのところで通じ合うみたいな感じがして。
こうやってじゃれあうというか、仲良いなぁってわかっちゃう姿を見ちゃうと……たまに、ね。
妙に……ドキドキして。
尊いなぁって……思っちゃうの。
ホント、なんでだろ?
今日もありがとうございました!




