第26話:紋様
「はぁ~~~ヤベェ」
「な? 気持ちいいだろ?」
わが家のキャンピングカーに設置されてる巨大温泉。
三バカ兄弟と陸人、それにジェイも。
みんな湯船でぐったり。
まぁ、いわゆる裸のお付き合いってやつだ。
「あぁ………だけどよぉ」
「あ、紹介がまだだったな。あの酒樽に頭ツッコんでんのが、わが家のドラゴンーーーラグナだ」
「ぬ?」
「じぇ、ジェイだ。よろしく頼む」
ぷっ……クククっ!
見たぞ?
さすがのジェイも身震いした!
まぁ、至近距離でドラゴンの顔を見る時は………ほぼ死ぬ時だもんな。
気持ちはわかるよ。
「うむ、よろしくな。お主は………どうだ温泉は?」
「さ、最高だ!」
「うむ。わかっておるではないか」
「いやラグナは温泉にいすぎだって」
「むっ。ちゃんと狩りにも出ておるぞ?」
「まぁ、それは助かってるけどさぁ」
おかげで食材の心配はしなくて済んでるよ。
父さんたちの弟子たちの分も、ちゃんと賄えてるし。
「ところでジェイよ、お主のその紋様は?」
「……ん? これか?」
「あぁ。オレも気になってたんだ。でも聞いていいもんかそれ?」
「本当は極秘事項なんだぜ? でもよぉ、お前らにはすでに見られてるしな!」
え? マジで?
「それ極秘事項なの?」
「あぁ。バレたと知られたら……うっとおしい奴らに捕まっちまうのさ」
「そっか。なんか悪ぃことしたみたいだ。申し訳ない」
怒られるときは、一緒に怒られてやるからな?
「済んだことは構わねぇよ。おかげで一緒に温泉に入れたしな! それにお前に質問しやすくなったしよ!」
湯船のヘリに立ちあがったジェイは、少し全身に力を込める。
「三番! 仕上がってるよ~! 土台が違うよ土台がっ!」
陸人? なにその掛け声?
なにか面白いネタなら兄さんにも教えて?
「う~む。やはり……そうか?」
あ、そうだった。
筋肉が張ったおかげでよく見えるようになったけども。
ん~その全身に浮かんだ紋様は……何だ?
病気の痣……いや、ひょっとしたら呪いか?
何かの文字にも……見えなくはないけど。
「やっぱカイトにも読めねぇか?」
「あぁ、悪ぃな。サッパリだ」
「なぁに、いいってことよ。ま、ダメ元だったしよ!」
「で、その紋様がどうしたんだ?」
極秘事項だって話だったよな。
そういうの……ぶっちゃけ興味ある!
「じゃあちょっと語らせてもらうぜ? 俺様はもともとホワイトタイガーの獣人だったのさ」
ん? だったって……どういうことだ?
フワリと揺れ動く尻尾は、確かにホワイトタイガーっぽい。
それに確かにジェイは、色白だし。
「でもある日、全身にうっすらこの紋様が浮かんでよ」
足首から太もも、臍に腹筋や胸筋、そして首筋に至るまで。
謎の白文字のような紋様が広がっている。
入れ墨とは違う、痣のような不思議な紋様だ。
「で、髪の色も変わっちまったのさ」
そっか。
ホワイトタイガーなら白髪だったのかもな。
でも今は、深く輝く青い短髪にキリとした目鼻立ちに細マッチョとかもう……ヤンチャ系イケメンって感じで腹立つなマジで。
「まぁ服着りゃすむし、体調も悪くねぇ……ってことでオレ個人は紋様を無視してたんだけどよぉ」
「つまり、無視できなくなったのか?」
「あぁ。アイギスの盾が発生した時さ。紋章が青く輝いて……俺様は意識を失った」
ゆったりとした動きで体を捻って………どうした?
ん? なんだその背中の紋様。
まるで……背中がキャンパスみたいだ。
そのキャンパスに、太陽や星々、巨大な神殿や剣を模した紋様が浮かんでる。
「そこでよ、カイトに質問だ。俺様の紋様は、お前が発動したアイギスの盾と関係あるんじゃねぇか? なぜ、俺様はこうなった?」
「すまん。またまたサッパリだ」
「……そっか」
「ラグナはどう?」
「ふむ………なるほどな。お主は――――やはりそうか」
「お? ラグナさんは、なにか知ってんのかい?」
「すまんが……我にも確証はないのだ。カイトといれば自ずから明らかになるであろう」
お、さっすがラグナ!
ナイスアシスト!
「なら仕方ねぇ。困ることがあるわけでもねぇし……まぁ、気長に考えるか」
「じゃあパーティに入ってくれよ! オレといると何かわかるかもしれねぇぞ?」
「ん? なるほど……それもそうだな。じゃあ、よろしく頼むぜ!」
「あぁ。こちらこそな!」
「―――よっしゃあ! 皆、仲間の加入だ! 風呂上がりはバーベキューな!」
「「「「「っしゃあ! 歓迎するぜジェイ!!」」」」
「お、おぅ。よろしくな?」
ふっふっふ。
ジェイのヤツ、みんなのハイテンションに驚いてやがるな?
まぁ、すぐにわかるって。
さっそく、このパーティに入って良かったって思わせてやるからな?
まずは自慢のバーベキューで!
+++
「……いやマジでヤバかった。お前のあの、アレだよアレ!」
「ガーリックライス?」
「そうそれ! 焼肉も美味かったしよぉ~。あの組み合わせのアレも……」
「最高だったろ?」
「マジで! お前の飯最高! 俺このパーティ入って良かったぜ!」
「サンキュサンキュ!」
ふっふっふ。
やっぱ仲間の心を掴むにはまず胃袋から、だ。
イルルとルルルも胃袋から友情が始まった感あるしな。
「カイト! 急げ!」
おっと。
父さんもう会議室に着いてるじゃん。
ヤバい。ジェイと飯ネタで盛り上がりすぎた。
「ごめん!」
ニシシっと笑ったのに……父さんは難しい顔のままってことは――――マズい。
嫌な気配がビンビンする。
「戦闘の用意はしてきたか?」
「うん。みんな用意して来たけど」
模擬戦かなんかするの?
「よし! よく聞けをお前ら。事態急変だ。ハイエルフの代表団が里に戻られた」
「急変? てか戻った?」
今日、新たな提案をして再交渉の予定だったよね?
「代表団からお一人、説明に残ってくださった」
ペコリと頭を下げたこのショートヘアの超絶美人は確か……ハイエルフの代表団の一人、カグヤさんだ。
超絶美人の。優しい笑顔が印象的な色白の可愛い系エルフさん。
それに喋り方が……ズキュンとくる。
「ウチらは里に帰らなあかんくなってん。ごめんな?」
あ、ヤバい。
やっぱ超カワイイ。
「あの……カイトはん?」
「え? あ、すいません」
美人との対談だ。
うん、気合を入れないとな!
「戻ったというのはえっと……何事ですか?」
「ウチらの世界樹の森に来よったらしいんです」
「来たって……まさか?」
まさか星外の敵は、アイギスの盾が解除されるのを待ってたってことか?
世界樹をねらってる?
「えぇ。星外の魔物です」
「な、ならオレらが行きます! 今直ぐに!」
「おおきに。でも、今から戻ったとしても、もう……」
「大丈夫です!」
「大丈夫って……どういうことです?」
「説明する時間も惜しい。オレらができることを見てください!」
「……わ、わかりました」
あとは……メンバーだ。
【希望】だけでいけるか?
規模が読めないし、できたら救星からも支援を受けたい。
強力な範囲攻撃魔法を持つ―――
「ヘンゼルさんお願いします!」
「あぁ。私が適任だろう」
―――っしゃあ! これで百人力だ!
「おいこらバカ弟子。お前も行って来やがれ!」
ん? モネも来るのか?
金属性の扱いに長けたドワーフがいれば……ありがたいのはありがたいな。
「え、いやですよ。師匠が行くですよ」
いや、ロダン兄ちゃんは、ここで待機だろう。
カルラさんから兄ちゃんが離れるはずがない、もんな。
「へぇ~、そうかい。世界樹の樹脂が入手できるかもしれねぇんだがなぁ」
「い、行く! モネがやっぱり行くですよ!」
「モネちゃんが行くなら私も行く! いいよね師匠?」
はっ⁉ ミルルそんなに急に⁉
ちょ、大胆すぎるって。
そんな急に背後から抱き締められると……ヤバい。
せ、背骨が、折れ……折れっ。
「あぁ。ミルルも行っておいで」
「やったぁ! 師匠ありがと! カイトよろしくね!」
「―――ふぐっ⁉」
も、マジで無理。
「ミルル、兄さんを離してあげて。死んじゃいそうだから」
「え⁉ ごめんごめん!」
「いや………平気平気」
陸人、ありがと。
命の恩人だよマジで。
「―――ねぇ。ミルルってカイト君ねらいなの?」
な、ナナちゃん!
違うんだよ? オレはナナちゃん一筋だからね?
「うん! だって一番、お金持ちになりそうだから!」
「あ、ズルいですよ。モネもそう思い始めてますよ!」
来た!
モテ期到来!
神様ありがとう!
オ、オレはナナちゃんひと筋だけど?
ま、まぁアレじゃん?
モテるのは仕方ないじゃん?
「でもね。カイト君……すんごい借金あるよ?」
なっ⁉ ナナちゃん?
「「………本当に?」」
「……………………………うん」
本当です。
結構あるよ。
「「幾らくらい?」」
「……二千」
「「………二千?」」
「………………………万ジェム、です」
「「…………………」」
うん。
ランクSの冒険者くらいになると、わかるんだからな?
ん~、およそ二メートル。
周囲から、ミルルとモネの気配が去っていったことぐらい……わかるんだからな?
クソっ。
短いモテ期だった!
「さぁ兄さん。グダグダしてないで出発しよう。スライム起こして!」
「……うん」
弟よ。
もうちょっと兄さんに優しくしてくんない?
兄さんのモテ期が終わったんだぞ?
「兄さん?」
「はいはい。スライム、【メモリー・ロード】、ブゥちゃんの力を行使する。行先は……えっと?」
「あぁ。世界樹の森だ」
さすがヘンゼルさん。
頼りになる!
「だってさ。行ける?」
フルフルっと震えたスライムさん……どこ行くの?
え、そこ行くの?
勇気ありすぎだろ………いやお前、ヘンゼルさんにハグしてもらうとか、マジかお前。
でも、覚悟しとけよ?
ほらな?
ヘンゼルさん、撫でるの超絶下手なんだって。
捻じれ切れそうなくらいブルンブルンしちゃってるじゃん。
あ、逃げた。
でもちょっと寂しそうなヘンゼルさんも………超絶お綺麗です。
「兄さん!」
「あ、そうだった。ゲートモードになったってことは……行けそうだ!」
ってことはスライムちゃん、目的地に行ったことある人からイメージをもらわないと、移動用のゲートを創れない仕組みなのかもな。
それでも十分すぎるくらいに便利能力だけど。
後でいっぱい褒めてやるからな!
「う、うそよね? あれって世界樹の森にしか見えへんねんけど……まさか空間移動⁉」
「カグヤさん正解! 出発準備できてますよね?」
「え、えぇ。すぐに仲間を追うつもりやったし」
「じゃあ父さん、【希望】、それにミルルとモネにヘンゼルさんで討伐に行ってくる」
「あぁ。自信もっていけよ?」
「わかってるって!」
ニシシっと笑うと、グッとハグされた。
心配、なんだろうな。
「父さん……大丈夫だよ」
「あぁ、知ってるさ。リーダーとしての務めを果たせよバカ息子」
「……うん」
「おいヘンゼル! せがれ達を頼んだぜ」
「任された」
父さん、親バカすぎるって。
陸人も……照れてるじゃんか。
「おいカイト!俺様も行くぜ!」
「マジで心強い! あ、そうだジェイ。向こうに到着次第、アイギスの盾を発動するからな?」
カード集、あの三十のカウントダウンは……三十日だった。
それはアイギスの盾の持続時間でもあり、再使用に向けたチャージ時間でもあるっぽい。
カード集のアイギスの盾は、黒から元の神々しい色彩に戻ってるし。
きっともう使えるってことだろ。多分。
「あぁ、わかった。俺様がどうなるか……確かめてくれ」
「了解」
「ふむ。では、俺も同行するとしよう」
「マジで?」
フワフワと飛んで肩に乗っかったのは――――ラグナだ。ミニサイズの。
「うむ。ジェイが気になるしな」
「サンキュ! マジで助かる!」
これで怖いものなしだ!
「よっしゃ! 世界樹保護ミッションだ!」
「「「「「「「「「「 おぉ!! 」」」」」」」」」」
くぅ~、いい感じだ。
駆けだしたオレの背中をみんなが追いかけくる感覚!
「行くぞ!」
掛け声とともに、勢いよくダッシュでスライムのトンネルを潜ると………そこは世界樹の森――――その上空でした。
………ウケる。
地面に到着と同時に死ぬパターンだこれ。
でも、大丈夫!
「ラグナ!」
「うむ。さっそく出番のようだな」
さっすがラグナ!
マジで頼りになる!
みんな……大丈夫っぽいな。超巨大化したラグナの背中、超巨大だし。
オレら全員乗っても、全然余裕ある。
「見よ。アレが巨大世界樹―――イブだ」
「了解! 行くぞジェイ!」
「わかったぜ!」
「スライム―――【メモリー・ロード】!」
連続で働かせてごめんな?
「大天使ウリエルの御業を代行する! アイギスの盾……発動!」
ゾクリ―――またも全身が震える。
ヤバい。
やっぱ、虚脱感がすっげぇ。
「ジェ、ジェイ? 大丈夫か?」
「…………」
マジだ。
ジェイの紋様、マジで青白く光り輝いてる。
呪いにしては美しすぎる輝きだ。
「に、兄さん! 上!」
「なっ⁉」
あれ……次元の裂け目か?
デカすぎだろ。
なんて規模で攻めてきやがるんだ!
こっちは新ダンジョンの設置前だってのによ。
ラグナは――――前方の敵に攻撃するつもりっぽいな。
なら上空のはこっちで対応するしかないか。
「クソっ! 精霊を召喚する」
けど、ヤバい。
けっこうダルい。ちゃんと呼べるか?
あ、アーサーとガウェインに……頼むか。
「カイト。ここは任せてくれ」
「――――え?」
ジェイなの?
こ、この、ピリピリする感じ。
まさに圧倒的強者の存在感ってヤツだ。
でも、あったかい。
イエローダイヤのような眩いオーラが、オレらの不安を拭い去ってくれる。
「お前……本当にジェイか?」
ニヤリといたずらっ子のように笑いやがった。
その背に満ち溢れる――――光のオーラ。
………まるでそれは伝説の……
「我が名は――――」
今日もありがとうございました!
世界樹攻防編に突入です!




