第24話:家族旅行
「じゃあ、十分後に出発するぞ!」
「「「「おぉ!」」」」
父さんの号令に、たくさんの声が応えた。
馬車四台、結構な人数が同行することになった。
あの、衝撃的な称号授与式から三夜。
個人としてもオレにいろいろと報奨があったけれども、まったくモテに繋がらなかったのでそれは置いておいて。
オレたちは、ようやく家族旅行に行けることになったわけだ。
行く先は連合会談、その開催地である竜人族の里!
到着まで、だいたい一週間かな。
竜人族の里は母さんとクルドおじさんの生まれ故郷なわけで。
だからオレも何回か行ったことはあるんだけど………なんだかんだで約三年ぶり? じいちゃんは……まず間違いなく元気だろうな、うん。心配するだけ無駄ってもんだ。
ばあちゃんも元気だろうけど………特性の麹料理、久しぶりに腹いっぱい食べたいなぁ。
あ、ヤバい。腹減ってきた。
「なぁカイト!」
「ん? どうしたルルル?」
「カイトはどっちに乗るんだ?」
ん~、どうしよっかなぁ。
大和ファミリーにクルドファミリー、救星メンバーが勢ぞろいの旅だから。三バカ兄弟と同じ馬車に乗るのも楽しそうだけど。
でも、せっかくの家族旅行だしなぁ。陸人の快復を祝う記念旅行でもあるし。
うん、やっぱりここは……
「家の馬車にしとくな」
「そっかぁ。じゃ、じゃあさ! 昼飯はそっち行くから!」
「うおっととと―――りょ……うかい!」
おぉ……さすがルルル。
この箱いっぱいの食材は、自分の飯用食材ってことね。
大量だけど、わが家の特殊冷蔵庫なら大丈夫だ。
「それで……一食二ジェムくらいでもいい?」
「いや、食材分けてもらえるならタダでいいって」
どうせ自分の家の分、同行する【救星】の弟子たちの分も一緒に作るし。
「なら俺らの分も頼んだ!」
「はいはい」
ハルイルも追加ね。
「カイト君! 私たちもいい?」
「も、もちろんだよナナちゃん!」
それって……旅行用の装備? カーキ色のハーフパンツに腰までの赤いローブが、とってもよくお似合いです。
「じゃあ、ナナちゃんたち三姉妹分も……あ、ココ、トト、リリの分も作っちゃうね」
「ありがとう! 旅の間中、カイト君の料理が食べれるなんて幸せ」
「じゃ、じゃあ昼はうちの馬車に来てね」
「うん! みんなにも伝えておくね」
ウフフフフって楽しそうに去っていくナナちゃんの後ろ姿の可憐さ。
はぁ……いつか【カメラ】の魔法で撮影したいなぁ。
「で、食材は足りるのか?」
「我らの分はどうなる?」
ズラリと馬車の前に並んだのは、わが家の精霊たち。
紅蓮に黄龍は護衛役として同行。姿は見えないけど、アーサーとガウェインもいるはずだ。
それに、いつもは畑や氷室で農業や製氷してくれてる土の精霊ノームと水の精霊ウンディーネ、雪の精霊の雪ん子も、今回は一緒なんだ。
「も、もちろん大丈夫だって! トウモロコシやジャガイモなんかの野菜、魚も育ってるし!」
なんなら、皆が大好きな白いカルピイスなる飲み物も冷えてるよ。
「ならばよし!」
おぉ、精霊まっしぐら。
精霊たち、嬉しそうだなぁ。
今回、大活躍する魔法は合体魔法キャンピングカー。
精霊大好きキャンピングカー。
馬車の荷台に入ると、そこに広がっているのは、そこそこ広大な土地と家!
このおかげで、旅行しながら農業や酪農もできるし、精霊たちの居場所になる自然豊かな癒しスポットになる山とか草原とか川とかも完備されてる。
この魔法をつくった人? 神? 、マジ天才!
「荷入れも済んだな? 精霊も……乗ってるか」
「うん、大丈夫!」
「なら次は――――あぁ、そうだ。コイツらの食事も頼む」
「ん、わかってるよ」
馬車の前にズラリと並んだ、新米パーティたち。
父さんが【ラグナロク】に受け入れた【雷刃】、【聖火】、【雪月花】。食事合計十二名だったっけ。
「よ、よろしくお願いします!」
「こちらこそ。よろしくお願いします!」
「俺らに手伝えることがあったら言ってください!」
【聖火】のリーダーで、ヒュム族の陽太さん。獣人族の青年ヒイロさんと、エルフの女性が二人。男女二組のカップルパーティなんだよね【聖火】って。
微笑ましいって言うか――――
「ほら陽太、ボタンが一つ外れてるわよ?」
「ご、ごめんよ」
ぶっちゃけ、羨ましい。
オレも笑顔で身なりを整えあえる恋人が欲しいなぁ。
「だっせーな陽太!」
「……ヒイロも笑ってる場合じゃないわよ?」
「マジで?」
「ホラ、口元にソースついてたわよ」
「ん? サンキュ!」
ふむ……これがアレか。
カップルが起こす自然現象……イチャイチャってやつか。
ゾワゾワする。背中が。
で、なんかよくわかんないけど、胸がザワザワする。
オレが思春期だから?
「後で散歩デートしような?」
「うん!」
そうそうそう。
キャンピングカーのなかって、デートにピッタリなんだよね。
けっこう広いしさぁ。
それに、草原や川もあるし。のんびり寝転がったり、ちょっと水浴びをしてキャイキャイしたりとかね。
ホントにデートにピッタリなんだよね。
まぁ、もちろんオレはデートしたことないけど?
「じゃあ俺らは釣りデートな?」
「そうしましょ」
釣りがデートに。
いや、そもそも食糧調達の打合せ的な会話中になぜ、互いのおでこを重ね合う必要があるんだろうか?
こ、これはもう、あれだ。
オレがちょっとうっかりして陽太さんとヒイロさんの何かにワサビをたっぷり入れちゃう可能性がある。
うん、気を付けねばなるまい。
「よぉ! 大和のせがれ!」
「世話になるわね」
「ロダン兄ちゃん! あとカルラさんも!」
見た目はヒュムの少年ぽいけど、兄ちゃんは救星の鍛冶師。
つまり、超凄腕の鍛冶師なんだ。
ふっふっふ、もちろん抜かりはない。
食事なんかの世話の代わりに、道中、キャンピングカーの施設で鍛冶を教えてもらう約束なんだ。
超楽しみ!
「コイツが同行する弟子だぜ。よろしく頼まぁ!」
「モネですよ。よろしくですよ」
「―――っ⁉ こ、こちらこそ! よ、よろしくおねがいします」
ペコリと頭を下げたドワーフの少女は美しい桃色の髪で……カワイイ。
背中に背負ってるリュックからでっかいハンマーが飛び出てるけど……カワイイ。
「こっちが私の弟子ね。挨拶を」
「はぁい姉さん! カイト君だよね? 私ミルル! よろしくしてあげる!」
「…………よ、ヨロシクオネガイシテアゲル?」
け、けしからん。
ミルルさん、それはほぼ水着なんじゃないですか?
長く美しい茶髪を束ねて、健康そうに日焼けした素肌がもう、もう、もう。
直視できないんで、ローブとか羽織ってもらっていいですか?
「あ、そーだ! パパがねぇ、カイト君によろしくって言ってたよ!」
「えっと、パパって誰です?」
「ミルルはウルルさんの娘なのよ。気を付けなさいね?」
「ひゃい! き、気を付けます!」
ウルルさんって、あの【花龍】のリーダーの。ムキムキマッチョの。
あのウルルさんから、こんな可憐で素敵な娘さんが生まれるとは………神様、ありがとうございます。
「あ、カイト君! 口開けて?」
「ひゃい!」
「これ、お近づきの品ね?」
え? それってリンゴですよね。
ま、まさか……あ~んってすればいい流れですか?
「はいどーぞ!」
「…………あ、アリガトウゴザイマスっ」
リ、リンゴが―――く、口に触れ…触れ………ない?
「ゲ、ゲフ……ゲホッン」
「あ、ごめごめ。力入れすぎちゃった!」
「―――――――いえ、ダイジョブです」
オレ、初めて知りました。
リンゴって片手でジュースに変換できるんですね。
一瞬で芯まで砕けてるって………怪力すぎるじゃん。
それもう、煉獄のサファリパークで見たゴリラレベルじゃん。
こんっなにカワイイのに………華奢に見えるのに、ほぼほぼ筋肉ゴリラじゃん。
「ウルルさん以上の怪力だから。気をつけるのよ?」
「カルラさん、よぉくわかりました」
ヒラヒラと手を振って去っていくミルルさんとモネさん。
うん、とんでもなくカワイイ。遠くから眺めるだけで幸せな気持ちになれる件。
まぁ、ナナちゃんほどではないけどね。
でも、カワイイがたくさんある旅……悪くないよな、うん。
これはもう、起きるでしょ?
長旅の最中、ちょっとしたトラブルがあって……思わず仲良くなっちゃう的なイベント、起きるでしょ?
いやオレが神なら起きるね。
いやもう、起こすよね! 自分で!
そうだ! 何かしらのイベントを自作自演してみよっか。
……ふむ。
我ながら悪くない考えかもしんない。
アカデメイアはまだ休止中だし、結局、恋愛イベント全く起きないし。
だったらもう、この片道七日間の旅で……恋愛イベント、起こしてやろうじゃあないかっ!
あ、でも問題がある。
オレって多分、旅の間中、かなりの時間を台所で過ごすことになるよな?
無理じゃん。
イベント、起こせないじゃん。
う~ん……どうしたら…………あ‼ そうだ!
またあとで、光の精霊さんたちを召喚しておこう。
料理、マジで上手だったし。
父さんたちに帯同する商人の馬車もあるから……合計四台、合計七十人くらいか。結構な数だし、やっぱり光の精霊にお願いしよっと。
もちろん、家族とナナちゃんの分は、オレが全力で作るけども!
よし! これで問題なし!
七日間の恋愛旅行、開始準備万全!
「ん? どうした?」
フルフルとバングルが震えたってことは……おぉ、目覚めた?
「お前も協力してくれるか?」
プニプニした頬? を突くと、スライムは嬉しそうにプルルルルンって微笑んだ。
可愛いんだよなぁ、マジで。
ん?
「あ、どこ行くんだよ!」
「カイト、出発するぞ!」
「ちょっと待って父さん……スライムが――――」
でっかくなっちゃった?
いや、伸びたのか? 巨大な壁になったと思ったら、指輪みたいに真ん中が開いていって………
「……ん? それってまさか……ブウちゃんのカード?」
「プルプル!」
「えっと……魔人ブウちゃんの力を代行する?」
「プルルルルン!」
え、マジ?
なんか嫌な予感するんだけど?
え、なんで光るの? ねぇ何するつもりなの?
ねぇスライムさん、ちょっと待って――――くれないのね。
「なぁ――――カイト。父さんの見間違いか? あれって―――」
「………うん、多分そうだと思う」
ブウちゃんの特殊能力―――空間移動。
まさか、使えるようになってたとは。
「スライムをくぐると、そこは竜人族の里でした」
テクテクと進む馬車四台が通り抜けると、スライムは嬉しそうにオレの胸に飛び込んできた。
うん、かわいい。
オレのためを思ってやってくれたんだよな?
ありがとう、マジでありがとう。
うんうん、悪いのはお前じゃないよ。
悪いのは………オレの恋愛運だ。
馬車で移動二十メートルじゃあ、起こせないよね恋愛イベント。
お願い神様、誰かオレの恋愛運をなんとかしてください。
マジで神様、よろしくお願いします……って神様オレかもしれないんだった。
超ウケる。
全然笑えないけども。
…………………はぁ。
+++
「ククイじいちゃん!」
「おぉ陸人や……あぁ、よかったのぉ」
「ちょっと、くすぐったいって! 髭!」
「これ! 少しは我慢せんか! ほんに、ほんに良かったのぉ」
ククイじいちゃんが、ムギュっと陸人を抱きしめてる絵面を、なんて表現したらいいのやら。長い白髪を後ろで束ね、作務衣をまとった爺ちゃんは、超絶マッチョだ。
そんな身長二メートルちょっとのいかついマッチョが、陸人をひょいと抱えてクルクル回転しながらハグをしているわけで。
うん。
マッチョリーゴーランドと名付けよう。
煉獄で昔乗ったメリーゴーランドにちなんで。
「お久しゅうございますお父さま」
「ご無沙汰です義父よ」
「ククイじいちゃん、久しぶり」
「おい! 陸人に早く菓子を持ってこんかっ」
「はっ、ただいま!」
じいちゃん…………オレらのことはスルーかよ。
マッチョリーゴーランドの前で、片膝をついて挨拶をする大和ファミリーとクルドファミリー……なんてシュールな絵面なんだ。
ククイじいちゃんの孫バカっぷりに、護衛や秘書官は目を見開いてるし。
まぁ、それもそうか。
母さんの父さん、つまりオレらのじいちゃんにあたる竜人族の大貴族ククイと言えば、知らない人はいないだろう。
寡黙な武人で、質実剛健。
部下からすれば、愛想の悪い、いかにも気難しい上司って感じなんだよなぁ。
でも、弱者に優しく強者に屈しないけども、自分にも他人にも厳しい。
とある会議でのこと。庭が美しくないと大勢の前で管理者に八つ当たりを始めたバカ大臣に腹を立てじいちゃんは、会議室に隣接する庭の大岩を砕いてまわり……石庭に変えてしまったっんだって。「手入れは済みましたぞ」って告げながら、会議を進めてしまったって話は有名だ。
こんなエピソードが結構あって、近寄りがたい上司だけど部下や弱者からは人気があるし、実際……まぁカッコいい生き方だよなって思う。
分け隔てなく自他に平等。
でも、例外がひとり。それが……
「義父よ。そろそろ陸人を離してください」
父さんだ。
「大和よ。老い先短い老人の時間を邪魔するものではないぞ」
「あんたあと百年以上は生きるでしょうが」
「あと百年しかないのだ。孫との時間を奪うでない」
ククイじいちゃんと父さんは超絶仲が悪い。
なんでも、大事な娘を取られた恨みってやつなんだって。
母さんから父さんを口説いたって話だったけど、当時はまだ異種族間での婚姻についてはレアケースだったらしくて。父さんが言うにはいろいろあったんだってさ。
恋愛や結婚って、相手が好きってだけじゃ上手くいかないんだなぁって、話を聞いたときにはなんとなく思ってたけど。
でも、今なら、よくわかる。
オレも怪力のミルルさんとお付き合いすることになっちゃったりしたりしたとしたら……うん、ウルルさんにご挨拶に行く勇気はない。
ワンパンで、世界の果てまで吹き飛ばされるとみた。
父さん、マジで勇気あるじゃん。
うん、ちょっと見直した。
「義父殿、そろそろ国王との謁見です。陸人を離してください」
「ならん」
そうなんだよ。
オレたちとクルドおじさんの家族は今、城に招かれてる。クルド叔父さんのお父さん、つまり現竜人族国王との謁見のために。
なんでも、国王や偉い人達は今、慌ただしく迎える準備をしてくれてるんだって。
予定より七日早く到着しちゃったせいらしい………マジでごめんなさい。
で、その準備時間、つまりこの待機時間を、文字通りダッシュで城に駆けつけて来たククイじいちゃんと過ごすことになったわけども。
う~ん、なんだかとっても嫌な予感がする。
「まったく、とうとう耳が遠くなりましたか?」
「ほう?」
「なんだ、聞こえてるじゃないですか。なら陸人を―――」
「ならん。物証な世の中じゃ、陸人はここで儂が守っておこう」
「大丈夫です」
「ほほぅ? ではお前に娘と孫が守れるのか? でなければ孫と娘を置いて帰れっ」
「耄碌ですか? 対戦成績はオレの五十一勝五十敗では?」
「はぁ~かなわんのぉ」
「………何か?」
「若者が過去にこだわるとはなぁ。お主の方が儂よりよっぽど爺くさくてかなわん。まったくのぉ」
「……過去から学べぬとは浅はかなガキと一緒ですね?」
「ぬはははは! よくぞぬかしよった! 良かろう! 相手をしてやる、着いて来いっ」
立ち上がった父さんとククイじいちゃんに、呆れた顔で付いていくクルドおじさん。
そして、じいちゃんに抱えられたまま去っていく陸人。
何か助けを求める声がするけど………すまん弟よ。兄ちゃんは無力だ。
「何をしておるカイト! お主もさっさと来んか!」
「えぇ~、いいよオレは」
「さっさと来い!」
「―――っ⁉」
じ、じいちゃん。動きが早すぎるって。
えっ⁉ ちょ、抱えないで。ナナちゃんが見てるから!
「花龍ウルナルコンビの評価が正しいかどうか、お手並み拝見じゃな」
「ちょ、誰か! 止めて!」
だ、ダメだ。秘書官や護衛の人も、笑顔で付いて来てる。
かわいい(?)孫との再会をバトルで祝う御大を、止める気はないってことらしい。
頼みの三バカ兄弟は……ダメだ。
ニヤニヤ笑いながら手を振ってやがる。
「そ、そうだ! じいちゃん! ハルイルルル三兄弟も相手してやって!」
友よ。
傷つくときも病めるときも、オレらは一緒だろ?
「もちろんじゃて! さっさと来い!」
「「「よ、よろこんで!」」」
おいおい、よせって。
照れるじゃんか。
そんな見つめるなよ。
ちょっと表現できないくらいやんちゃな表情も、カッコいいぞ三バカ兄弟。
ちょ、だから止めろってば。そんな眉間に皺を寄せるくらい一生懸命見つめられたら、恥ずかしいだろ?
今日もありがとうございました!
スライムを飼いたい。。




