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やがて再び神となる少年は恋愛に夢を見すぎている   作者: ゆうと
第Ⅰ章:アカデメイア
23/85

第22話:神と兄弟

 



 掃討作戦、大成功! ……だったわけだけども。

 兄さんとオレは呼び出しを受けている。

 救星会議に。

 ランクSパーティ【花龍】のリーダー、ウルルさんが提出した報告書が、机の上に並んでいるわけで。皆さん、複雑怪奇な表情を浮かべておられる。

 う~ん……これはマズい流れだ。

 楽しそうに笑ってるロダン兄ちゃんだけが救い。なんかいい感じにフォローしてね! 頼んだよマジで。

「で、念のために当事者からも確認だ。この内容に相違はないか?」

 父さんが放り投げた報告書には、さっきオレも目を通した。

「……多分」

 た、頼んだぞ陸人って、小声で言われても。

 キリッとした鋭い視線のヘンゼルさんの視線を交わすだけで、兄さんは精いっぱいらしい。 

 まぁ、仕方ないか。

「ありません。【希望(ホープ)】のサブリーダーの名に賭けて保証します」

「そうか」

 父さんが疲れ切った上に思いっきり困った顔しながら、報告書を見つめてる。

 ここのところ、忙しかったもんね。

 ひと段落ってタイミングで、まさかの展開だろうし。

 でも、ごめんね父さん。

 今から、もっと大変な状況になるかも。

 マジでごめんね。



 掃討作戦報告書―――――――――――――――――――――――――

 一.担当階層……女神のダンジョン、第三十層第四室。


 二.担当パーティ

 ・ランクS【深海】、【花龍】

 ・ランクA【紫電】

 ・ランクB【希望(ホープ)


 三.被害状況

 ・死者…… ゼロ

 ・戦闘不能者…… 四十八名(現在、全員快復済み)

 ・行方不明者…… ゼロ


 四.掃討数

 ・【深海】…… 六十体

 ・【花龍】…… 四十三体

 ・【紫電】…… 三十体

 ・【希望(ホープ)】…… 推定二十体


 五.特記事項

 ・特殊個体ヨヨイホ(虎の下半身に像の鼻を携えた人型半獣)

 ・特殊個体ロロイホ(麒麟の下半身に猫の両腕を携えた人型半獣)

 ・両者ともに、デミゴット(人と神のハーフ)と自称

 ・両者とも【希望】のランクS冒険者カイトが討伐


 以上、報告事項に相違なし。

 文責 【花龍】ウルル

 ―――――――――――――――――――――――――


「わかった。本報告書を正式な記録として受理、補完する」

「ウハハハハ! やっぱぶっ壊れてんのは(せがれ)の方だったな!」

「ウルセーぞ鍛冶バカ」

「……ひどいよロダン兄ちゃん」

「で? どうやったらこんなことに?」

 クルドおじさんさんが呆れたように笑って。

 母さんは遠くを見ながらお茶を飲み始めた。

 そんななか、ヘンゼルさんはじっと兄さんを見ているわけで。だから兄さんはさっきから、ソワソワしてるわけで。

 なんだか、蛇に睨まれたカエルって感じだなぁ。

「いやぁ。マジで全く覚えてないんだよねぇ」

 頭を掻いて笑ってみた兄さんに、誰も微笑み返してくれない件。

 ずっと笑いっぱなしのロダン兄ちゃんは別にして、だけど。

 ちょっとだけ、可愛そう。

 ギャグがすべった時の空気感にそっくりだし。

「陸人、カイトは記憶を失ったと理解していい?」

「いえ。ヘンゼルさん、多分……逆です」

「逆とは?」

「兄さんは今、記憶を失っている状態です。いや、今までも、ずっと失っていると考えます」

「では……ダンジョンで一時的に記憶を取り戻したと?」

「はい、そう考えます」

「……オレの封印されていた力が爆発したわけだな?」

「多分そうだよ兄さん」

 うん、間違いないね。

 尻尾の生えた伝説の戦闘民族漫画で例えると、スーパーカイト人ゴット四くらいにはなってたよ。

 マジで強かった。

「……マジで?」

「マジだよマジ」

「それで? 陸人がそう考える理由は?」

 今日のヘンゼルさんは、どうやら兄さんをスルーすることに決めているらし。

 兄さん……なんでちょっと寂しそうなの?

 あ、違う違う。

 今は説明しなきゃ、だ。

「今から話すことを機密扱いにしてください」

「あぁ。申請を受理する」

 父さんの言葉に、救星がみんな頷いて同意してくれた。

 はぁ、よかった―――今からちょっとだけ勇気がいる告白を、しなきゃいけない。

 これで、安心安心。

「あの、俺は転生者です。地球という星で前世を終えてこの星に記憶を持ったまま生まれてきました」

「は?」

「え⁉」

「なんて?」

 父さん、母さん、そして兄さんの驚きコンボ炸裂である。

「カイト兄さんは、転生前の世界でも俺の兄でした。兄さんの転生前の名は海斗(あまと)。そして俺の名は陸斗(りくと)

「陸人、なに言ってんだよ」

「ダンジョンでデミゴッドと対峙中、兄さんはオレの名を呼んで……転生前の思い出について語りました」

「は? どういうことだよ?」

「カイトがデミゴット討伐後、記憶を再度失ったわけは?」

「不明です……が、力を大量に消費したためだと思います」

「転生者の記録や伝説は、確かに至る地域に伝わっている。そういった存在が歴史上、実在したと仮定して。陸人、あなたが転生者であることを示すことは可能?」

「……無理です。しかし、この星の冷蔵庫に水洗トイレといった発明、それにダンジョンの恵みはほとんど、地球の道具や食べ物、技術から構成されています。名称もほぼ同一です」

 みんな、ザワザワと動揺しだした。

 無理もないか。

 だって―――

「つまり……ダンジョンの神も転生者だと?」

 うん。

 ヘンゼルさんの言うとおりだ。

「はい。あるいは、神の眷属に転生者がいる可能性もあるかと」

「陸人。カイトが神、あるいは神の眷属だった可能性がある―――そう示唆しているの?」

「はい」

 さすがヘンゼルさんだ。

 話が早い。

「オレが神か―――ないな」

「なんでだよ?」

「オレが神なら、思い通りにモテモテライフを送れるはずだから」

「……兄さんがモテないのって、そういうとこだと思う」

「―――え⁉ マジで?」

 まったく。

 神をなんだと思ってるんだか。それに恋愛は、自力本願でいかないと。

「……カイト」

「ひゃ、ひゃい‼」

「あなたに転生前の記憶はあるのかしら?」

「いえ。まったくありません!」

「そう。でも、陸人の仮説は否定できないわね」

「神や眷属については推論です。が、兄さんが転生者なのは、俺が保証します」

「では陸人。カイトが転生者、あるいは神やその眷属だったとあなたが判断する理由について、もっと説明してくれるかしら?」

 うん。

 ヘンゼルさんの疑問は、もっともだ。

「承知しました。そのために、俺たちが遭遇した敵とのバトルについて説明します」

 報告書にある通り。

 俺たちは強敵と遭遇したんだ。

 デミゴット―――神と地上の生物とのハーフだ。





 +++




「ムフフン……こんにちは皆さん」

「もっほっほ。でもサヨウナラ、サヨウナラなのよ」

 フロアに響いた声に意識を傾けた瞬間……風、熱気、それから轟音と振動。

 意表を突いた攻撃に、悲鳴がこだました。


「みんな無事か!」

「大丈夫!」

 マジで、兄さんの指示に従っておいてよかった。


「フン!」

 ウルルさんの正拳突きで巻き起こったつむじ風。

 その流れに乗って煙がフロアから引いていく。

 姿を現した敵が楽しそうに舞う姿に、恐怖を感じたんだろうな。

 ナナちゃんがうずくまっちゃった。

「陸人! ナナちゃんをフォロー!」

「わかった」

 うん。ここは予想通り。

 兄さんはナナちゃんに優しい。

 どんな時だって、ナナちゃんを気にかけてるから。


「ムフフン……ヨヨイホよ、この星の生き物は脆弱であるからして?」

「もっほっほ。ロロイホったら。違う、違うのよぉ。私たちが強い、強いのよぉ?」

 クルクルと舞いながらも、隙を見せない。

 さっきの不意打ちといい……ヤバい。

 絶対にヤバいぞコイツら。

「陸人、全体に報告を!」

「うん……解析終了。ランクS相当以上の個体と推定。弱点属性は不明」

 ランクS相当以上。

 信じらんないけど……俺が出した解析結果の妥当性は高いと思う。

 現に、ロロイホの一撃に耐えられたのは個人でランクA以上の冒険者だけだ。

【紫電】リーダーの輝樹(てるき)、サブリーダーの(そら)

【深海】リーダーのゴーシュ、サブリーダーのチェロ。

【花龍】リーダーのウルル、サブリーダーのナルル。

 そしてオレたち【希望(ホープ)】。

 ハルル、イルル、ルルル、ナナちゃんにリーダーのカイト兄さん、そしてオレ。

 最弱パーティだったオレらは、交代で常時シールドを展開してきた。

 だから……助かった。

 兄さんの指示にマジで感謝だ。

 おかげでコイツらの不意打ちが直撃せずにすんだ。

 第十五層から三十層に至るまで、ルルルと交代で頑張ってきたかいがあったってもんだ。


「緊急事態と判断。指揮はワシ、ウルルが執るぞ」

「紫電、異存なし」

「深海も異存ありませんよ」

「希望も、です」

 これは取決め通りの展開。

 緊急時は、各チームのリーダーで意思決定を進めるルールだから。

「やはり、離脱魔法が使えぬ」

「えぇ。空間固定か断絶の能力でしょうね」

「つまり、アイツらをぶっ殺せってことだろ?」

「輝樹兄ちゃん……落ち着いて」

「花龍が接近戦、深海と紫電は魔法で遠距離攻撃」

「紫電、異存なし」

「深海、承知した」

「我ら希望(ホープ)は何を?」

「お主らは待機。ここでシールドを展開し有事に備えよ」

 それはあまりにも、過保護じゃないだろうか。

「希望から提案。召喚済みの精霊の助力を得ては?」

 うん。俺も兄さんの提案に賛成。

 アーサーとガウェインなら、戦力になるはずだ。

「ならん。ホープは全戦力を温存。敵の情報を持ち帰る任務を言い渡す。隙を見て逃げよ」

「紫電は花龍に同意するぜ」

「深海もさ」

 リーダーたちの意志決定には、従う義務がある。

 けど、だけど、それって……

「正直に言おう。わしらはここで死ぬやもしれんが……お主らの退路を切り開こうぞ」

「深海は花龍に同意だ。若者を守る責任が我々にはあるんだよ」

「紫電も同意するぜ」

「忘れるな。これは重要な任務だ。希望の成果に期待している」

「……希望、承知した」

 カイト兄さんが片膝をついて、両手を天に差し出した。

「あぁ。実によき人生であった」

「悔いはねぇぜ!」

「打倒救星が深海の夢。願わくば希望に継がれんことを」

 チームプレートと共に最後の言葉が、兄さんに預けられていく。

「希望がリーダー、カイトが確かに承った。ご武運を」

 歴戦の兵たち、その最後を予感した言葉の重みに―――見ているだけの俺の体が震える。

 兄さんは……立派だ。毅然とした態度で、全てを受け止めたんだから。


「ムフフン……ヨヨイホよ、アイツら我らと戦う気だぞ?」

「もっほっほ。ロロイホ、違う違うのよぉ。逃げられないだけなのよぉ?」

 ピタっと舞いを止めて、値踏みするようにこちらを見つめてくる。

「ムフフン……ゴミ、カス、ゴミゴミばっかりであるからして?」

「もっほっほ。お掃除、お掃除の時間なのよぉ?」

 指さしながらバカにするように笑う敵に、不快感を禁じ得ない。

 それは皆、同じらしい。


「なめるなっ! 参るぞナルル」

「あぁ」

 ウルルさんとナルルさん。

 二メートル近いマッチョないかついおじさんの周囲に、綺麗な花びらが舞い始める。バラ、チューリップ、桜、ひまわり……本当に綺麗だ。

 鮮やかな花びらが、次々に空中に登場してくる。

「ムフフフフン。これはデバフであるからして?」

「もっほっほ。そうねそうね。空間を断絶、断絶しちゃうわねぇ?」

 ロロイホが指を回した瞬間、緑色の壁が二人を囲む。


「―――理解と対策がはやいな」

「だが、空間断絶中はこちらにも手出しができまい。今だ!」

「よっしゃ空!」

「あぁ。手加減はなし、だ。黒炎を唱える」

「では深海も。チェロ?」

「あぁ。問題ない」

 紫電と深海四名による四重詠唱か―――さすがだ。

 シンクロした分だけ威力が高まる高難易度魔法。そして、特殊な攻撃範囲を持つ魔法。


「「「「山海の覇者、名を無明と言う。光の最中にあってこそ輝く人の闇よ。誘え、狂え、泣き笑いて侮蔑せよ。汝の居場所は深遠なる闇の淵にのみあると理解せよ。疑問を抱くことなかれ。問いを放つことなかれ。慇懃(いんぎん)なる振る舞いを慎むなかれ。愚かなる営みの中にこそ汝の全てがある。(いと)え、厭え、厭え……賢者の声に背を向けて辿り着く未来を絶望と呼ぶ。自覚するがいい。汝の本質は悪であると。忌み名を誇るがいい。汝の名こそ無明。その足元が暗く照らされる……」」」」


 速い!

 それに誰一人間違ってないし、呼吸も合ってる。

 さすが高ランク冒険者たち……カッコいいじゃん。

  

「「「「………黒炎(オスキュリオ)」」」」

 詠唱と同時に、詠唱者たちが光り輝く。

 照らし出された二人のデミゴットの影が黒炎へと変質し……敵を飲みこまれた。

 

「ムフ⁉」

「モホン⁉」

 断絶された空間内を漆黒の業火が埋め尽くしていく。

 空間を断絶したことが、仇になったってわけだ。

 ざまぁみろ!


「むっほほん? 我らに炎とは愚かなのであるからして?」

 なっ⁉

 黒炎が、敵に飲み込まれていく。まるで空気を吸うように……腹の中に納まってしまった。

「ムッフフン―――とはいえ熱かったのであるからして? 殺してしまおうか?」

「もほほほほ。いいのいいの、それがいいのよぉ?」

「では―――ムフフフフン」

「ではでは―――もっほっほ」

 楽しそうに舞う敵に、花龍の二人がとびかかっていく。

「「合技……無限回廊」」

 フワリと浮き上がったデミゴットが輝いた瞬間、だった。

 音もなく静かに、結果がもたらされた。

 デミ・ゴッド―――ひょっとしたらSSランクか?

 花龍も深海も、紫電も。

 一撃だ。

 たった一撃で。壁に貼り付けにされてしまっている。

 逃げる隙すら、与えてもら得ない。

 まさに……圧倒的強者。

 あまりの出来事に、呼吸さえままならない。


 この重たい空気を、絶望っていうんだろうな。

「大丈夫だ」

 そんななかで、一歩、前に踏み出したのが―――

「兄さん?」

「オレが戦う」 

 その一歩にどれだけの勇気が必要か―――俺も、三バカ兄弟もナナちゃんも、兄さんと自分たちの差を理解してしまった。

「兄さんに同意」

 ニシシっと意識的に笑って。

 全てを託す勇気だけは示そうと、頑張ってみる。

「あぁ。頼む」

「お前に賭けるしかねぇ……すまない」

「死ぬときは一緒だからな」

 三バカ兄弟も、怒りをにじませながら冷静な判断を下してくれた。

 クルドおじさんとの修練の成果、だろうな。

 シールドの外に出たら、俺たちは一瞬で倒される可能性がある。

 高位の冒険者ですら、あっという間にノックダウンしたわけだから。

 兄さんが動揺しちゃうような、足を引っ張る状態は回避しなきゃいけない。

 だから……ここに居るのが最善。

 悔しいけど、これが現実だ。

「アーサー、ガウェイン。緊急時は【謁見の間】でみんなを守って」

「承知しました」

「ご武運を」

「うん。任せたよ」

「兄さん! あの……」

 なんて言っていいのか、何を言えばいいのかわかんない。

 けど、けど……行かないでとは、言えない。

「あぁ、気をつける。じゃあ行ってくるな!」

 ニシシっと笑いながらシールドの外に出た兄さんは、トール先輩から借りてるって言ってたペンダントに手を伸ばした。

 あっという間に、兄さんの手のひらにしっくりくるサイズのハンマーへとペンダントが姿を変えていく。不思議な武器だけど……ヤバい武器だってことだけはわかる。

「行け」

 兄さんがそのハンマーを放り投げた瞬間、だった。

 デミゴットの二人が空間断絶を再展開して。

「おかしい、おかしいのよぉ!」

「ぜ、全力で防ぐのであるからして!」

 なんとか、直撃を免れようと力を振り絞っている。


「ロココさん……聞こえる? オレに力を貸してほしい」

 兄さんが天井に語り掛けて、瞳を瞑った。

 神への祈り、だろうか。

 ちょっとだけ、違和感を感じる。

 だっていっつも、神様を信じてないって言ってるから。


「お願い……皆を救いたいんだ」

 不思議な沈黙が漂う。

「もっと」

 兄さんの祈り声が、切実に響いた。

「ダメだ……もっと! もっと力を! いいから――――寄越せ!!」

 珍しい怒鳴り声に、俺が驚いたのもつかの間。

 だって―――もっと驚く光景を目の当たりにしたから。

 兄さんの体が、プラチナに輝くオーラに包まれている。

「―――うん。ロココさんの見立て通り。分神体を吸収したっぽい。ありがとう」

 神々しいって、こういう感じなんだろうか。

「か、カイト君なの?」

「あぁ。そうだとも言える、ね」

 その問いかけに苦笑した兄さんに、ナナちゃんは赤面して。

 そんなナナちゃんに照れることなく、兄さんは優しく頭を撫でた。

「カイト……マジで大丈夫か?」

「ハルルに同意……兄さん大丈夫?」

 いつもと様子が違いすぎる。

 さらっとナナちゃんに触れるなんて、いつもの兄さんならありえない。

「陸……あぁ、陸だ。本当に陸だっ」

「へっ?」

 強く、ハグをされてからだ。俺が違いに気が付いたのは。

 いつもとは違う、けどとっても懐かしい呼び方をされてるってことに。

「また会えてよかった」

「まさか……海斗(あまと)兄ちゃんなの?」

「あぁ。兄ちゃんに任せとけな」

 ポンポンっと、優しく頭を撫でる仕草のせいで、不意に涙がこぼれた。

「兄ちゃん! 大魔王からは?」

「逃げられない、だろ? 名言だよなぁ」

「うん……うんうん!!」

 間違いない。

 やっぱりカイト兄さんは、海斗兄ちゃんだったんだ。 

 見た目がそっくりすぎるって思ってたんだよずっと!


「ムフフン……ヨヨイホよ、アイツはヤバそうなのであるからして?」

「もっほっほ。大丈夫、大丈夫なのよぉ。私たちは強い、強いのよぉ?」

 ようやくって感じで敵がはじき返したハンマーが、兄さんの手元に戻ってくる。

「強い? お前らゴミが?」

「「合技―――炎輪乱舞」」

 兄さんのゴミ発言に素早くブチ切れたデミゴッドが、巨大な火の輪を複数放り投げて来た。

 でも、なぜだろ。

 全然、怖くない。


「精霊召喚の神権を発動―――イグニスとルクスよ。ここに」

 兄さんが天にかざした両手から、ドーベルマンに似た大きな犬と、輝く狼が姿を現す。

「頼んだ!」

「あぁ、任された。イグニスが炎に命じる。我が糧となれ」

 イグニスと呼ばれる精霊が、炎を招き寄せて……調伏した? 火輪が静止して、イグニスの体に吸い込まれていく。

「なっ⁉ 我らの炎が」

「こんなはずは、はずはないのよぉ」

「……なんとも質の低い炎だ。たわいもない」 

「イグニスに負けてらんないなぁ。ルクスが光に命じる。傷つき人を疾く癒せ」

 綺麗な狼が命じるまま、周囲の光が粒子になって―――倒れている全ての冒険者に降り注いでいく。

 体の欠損や火傷があっという間に回復し、冒険者たちに血の気が戻ってしまった。

「二人ともありがと! 助かった!」

「いいのさ。では、失礼するね」

「ケッ……また呼べよ」

「うん! サンキュー!」

 手を振る兄さんは、笑顔のまま光り輝き続けてて。

 プラチナ色のオーラが、不思議とよく似合ってる。ちょっとだけ、いつもよりカッコよく見えるから不思議だ。

 ナナちゃんも、ずっと赤面してるし。


「クソっ!こんなはずはない、ないのよぉ!」

「調子にのってはいけないのであるからして!」

「はいはい。じゃあ、オレの番―――魔装降臨」

 え⁉ 兄ちゃんそれって……悪魔のコスプレ?

「グラン・グリアモールを起動……成功―――宵の明星ルシファーの力を代行し命じる……宵闇が冷たい心を食い漁る」

 その言葉が支配するように、冒険者たちのうめき声が静まって。

 皆、心が休まったのかもしれないな。

 眠りについている表情が、穏やかになったし。 

「続いてメモリー・ロード。ツクヨミの神権を代行し奥義影法師を発動……転送先を固定! 意識のない者をホープ、アカデメイアの食堂に強制送還」

 ズブズブと、希望以外の冒険者が自分の影に飲み込まれて―――消えた。

「さらに禁断の果実を使用―――【虚王奉天滅刻蛇(きょおうほうてんめっこくじゃ)】、発動」

 兄さんの籠手から浮かび上がったリンゴ。

 それを齧った瞬間、真っ赤な果汁が兄さんの口元から首筋に広がって。

 したたる果汁が蛇の形になっていく。

 大きく口を開いた大蛇に、兄ちゃんが飲みこまれてしまった。

 エサを食べて成長したって感じなのそれ?

「なっ⁉」

「に、逃げるであるからし……」

 さらに巨大化した漆黒の大蛇が、敵の最後の言葉を遮った。

 二体のデミヒューマンを一瞬で飲みこんで……爆散した。

 あとに残されたのは―――兄ちゃんだけだ。


「この星に手を出すことは許されない」

 少し微笑んだ表情で、俺は異変に気づくことができた。

 あれは、寂しいときの笑顔だってわかっちゃったから。

「陸、元気でやれよ?」

「兄ちゃん、ちょっと待っ―――」

「皆、オレ―――カイトのことをよろしくな!」

「待っててば‼ 兄ちゃ―――」

「ロココさん、禁断型神権発動―――分神体創生。上のことは頼む…よ」

 兄さんのプラチナ色のオーラが消え去って。

 ぐらりと倒れ込んだ体を、駆けつけたイルルが受け止めた。

「兄さん!!」

「「「カイト!」」」

 のんびりと寝息を立てている兄さんを、皆で抱きしめた瞬間だった。

 救星が、支援にやってきたのは。






今日もありがとうございました!

一瞬、転生前の記憶を取り戻した?カイト。

そして陸人の秘密も、やっと明らかに。

ようやく、異世界転生ものっぽくなってきました!



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