第19話:SSS
「主よ。それでは―――」
「うん! 頼んだ!」
オレの言葉に頷いたアーサーが微笑んで。クルルっと、光球になった。
光球に触れると、グググっとその中に引き込まれて。
眩しいって思った瞬間には、ラグナの手のひらに乗っかってた。
グッと全身が小さくなるような感覚が、一瞬したくらいで。苦痛も不快感も、まるで感じない。
「……すげぇ」
陸人がポカンとしてる。
「あぁ」
きっとオレも陸人と同じような表情を浮かべてるに違いない。
食堂からラグナのところまで、本当に一瞬だった。
ガウェインといいアーサーといい、光の帝位精霊超有能じゃん! これなら寝坊してもアカデメイアまで一瞬で着くし。
マジで完璧だよアーサー。君がいてくれて良かった!
「まさか兄さん」
「何だよ?」
「アーサーとガウェインを遅刻対策に使おうと思ってるだろ?」
「いやぁ。そんなことないけど?」
「まったく。二人がアカデメイアに登場したらどうなる?」
「そりゃあ―――皆が騒ぐ」
「また兄さんよりイケメンが増えることになる」
「そうなると今より更にモテなくなる…… わかったやめとく」
冷静になったよ。陸人ありがとう。
だから、‘また’とか‘より’って表現は見逃してやるからな。
「それにしても良かったね。街は無事らしい」
「あぁ」
ドラゴンブレスで破壊された形跡はない。借金増額無し、のようだ。
さすがラグナ!
「二人も無事だったようだな」
「うん。ラグナもね」
「うむ」
ニコリと微笑んだドラゴンは、急に上空へと視線を移して…… 唸り声をあげた。
「掴まれ!!」
ラグナの号令で、オレの全身が震える。
巨大化してるからいつもより声がデカい。だから振動もヤバい。
「―――またかよ」
再びラグナがのけ反った。
つまりドラゴンブレスだ―――そう思った瞬間。
オレたちは【謁見の間】に隔離されていた。
しかも、ドラゴンブレスの様子は見えるように、部屋の一部分が透明になっている。
「アーサー、いい仕事するじゃん!」
「お二人は攻撃を見たいのではないかと思いまして」
「その通り!」」
陸人とつい、声がハモる。
だってそりゃ見たいだろ! 大迫力のドラゴンブレス!
「―――直撃だ」
都市の上空に放たれた黄金色のブレスが…… あっという間に飛び回っていたモンスター達を飲みこんだ。
「すげぇ!!」
陸人がはしゃいだ瞬間に、【謁見の間】が解除される。
アーサー、切り替えのタイミング完璧すぎ!
「うぉぉぉぉ! ラグナかっけぇ!!」
「うむ! そうであろう!!」
オレも陸人に同意!
ドラゴンブレス――― 大迫力でカッコ良すぎだろ。
ラグナ本体が超特大サイズになってるから。派手さも超ド級だった!
てか今のラグナ、いったい何メートルくらいだろ?
三十メートルくらい??
空に浮かんでるから不明だけど。アカデメイアの校舎より更に背が高くなってる気がする。
「主よ。この後はいかがなさいますか?」
あぁ、そうだった。
「なぁラグナ。さっきのって星外のモンスターだよな?」
「うむ。次元の裂け目が都市近くにできたようだ」
「やっぱり、そうか」
「まぁ、今のところ空路での侵入は防げているがな」
「さっすがラグナ! ありがと!」
「うむ! グハハハハ!」
陸人は陸人で、目をキラキラさせながら「カッケー!」を連発している。
弟が嬉しそうで何より何より。
「ところで、その裂け目には?」
「うむ。救星が向かった。持ちこたえるだろう」
なら安心だ。
「裂け目はもう、問題ないと思っていい?」
「ふむ。そうだな。イレギュラーに発生した次元の裂け目は二つ。既に一つが閉じられた」
「閉じられた?」
「うむ。おそらくダンジョンへと裂け目が移されたのであろう」
なるほど。
またも神―――とされる見えない存在の力か。
次にダンジョンに行く時には、お礼の祈りを捧げよう。
癪だけど。あのドヤ顔女神に。マジで癪だけど。
「――――ってことは、裂け目はあと一つか」
「なら必要なのは時間稼ぎだね」
陸人の言うとおりだ。
都市にモンスターが入ってこないようにすればいい。
都市のゲートは閉まっているわけだし、都市を囲む城壁も高くて頑丈だ。そっちから侵入されることはないだろう。
可能性があるとすれば空中ルート。
でも、このルートはこの都市のラスボスであるラグナが守ってくれてる。
「となると、懸念は残り二つか」
陸人を見ると、コクリと頷いた。
「懸念その一。空を飛ぶモンスターが星中に散らばっていく可能性」
「兄さんに同意」
「うむ! 我もそう思う。さすがだな!」
ラグナが嬉しそうに笑って、褒めてくれた。
「で、解決法だけど―――」
「うむ。その点は、とある者が既に対処しておる」
「対処?」
とある者が誰なのかも気になるけど。
名前を伏せるってことは、言えないってことだろうから。
「うむ。飛翔系の星外モンスターに、我を目指すよう暗示をかけておる」
「そっか。なら大丈夫か」
ラグナはサラっと言ったけど。それって、とんでもない強力な助っ人がいるってことだよな。
精神を操る系の能力を持った。魔人族か?
もし可能なら、オレが女子にモテるように助っ人して頂きたいレベルの能力だ。
「じゃあ空飛ぶ敵はラグナに集中してくるね」
「あぁ。まったく問題ない」
陸人の確認に、超巨大化したドラゴンは楽しそうに微笑んだ。
それにしても、少し星外のモンスターに同情するよオレは。
この星にやって来た瞬間、いきなりラスボス直行を義務付けられるなんて。ご愁傷さまです。
「じゃあ懸念その二」
「ブゥちゃん、だろ?」
「さすが兄さん。オレも同意見!」
「ふむ。ブゥちゃんとは―――先ほど消えた異様な気配のことか?」
ラグナ、流石だよ。
ちゃんと気配を感じ取っていたらしい。
「そうそう。さっき星外のモンスターがアカデメイアに乱入してきた!」
陸人が報告すると、ラグナはニコリと微笑んだ。
「弱い気配は感じておった。ちゃんと撃退したのであろう?」
「もちろん!」
「グワッハッハ! よくやったぞ!」
こんな感じで。
陸人とラグナは、小さい頃から仲がいい。
きっと陸人がいつもドラゴン大好きオーラ全開だからだろう。
「倒してくれたのはアーサーとガウェインだけどね」
「ふむ。ちゃんと礼を言ったか?」
「うん!」
そして、こういうとこだ。
陸人のこういう正直なところを、ラグナも大好きみたいなんだよなぁ。
今でも、小型化したラグナが、時折、陸人の部屋で時間を過ごしてるし。暗い部屋のなかで、二人が何やら楽しそうに話し合っている光景を、小さい頃からよく見かけたっけ。
「アーサー、あとガウェインも! 大活躍だったんだよ!」
「ご兄弟やご友人たちのお力添えあってのこと」
アーサーが片膝をついて礼をすると、陸人は笑顔を爆発させた。
少年王アーサーに栄光あれって、何やら楽しそうに物語の一節を唱えている。
「そのブゥちゃんとかいうモンスターだが―――」
「うん。特殊な能力を持つ希少個体っぽかった」
オレの意見に、アーサーも頷いて同意を示してくれた。
「おそらく空間の移動か、物体透過だ」
「兄さんに同意」
次元の裂け目からアカデメイアまで、救星やラグナの警戒をかいくぐった特殊能力。
空間を移動してきたか、城壁やゲートを透過してきたってところだと思う。
「うむ。おそらく前者だ。気配は一瞬で移動した」
「私も、ラグナ殿と同様の見立てです」
ラグナ、そしてアーサー。
強者の二人が言うんだから、間違いないだろう。
「今後を考えると、、、空間の移動を防ぐ手立てが必要だね」
「陸人に賛成」
敵意のある攻撃や侵入者を阻む、か。
う~ん、例えばアレだ。
支えるものが使う【エアシールド】みたいな防御魔法で。都市全体を覆う強固なシールドを張れればいいんだけどなぁ。
「あ! そうそう!! さっき時の精霊クロノが来てくれたんだ」
「そうだった。その報告がまだだった」
なんだか今日は、ラグナへの報告事項が盛り沢山だ
「ふむ。なるほどな。先ほどの違和感はやはり時間停止だったか」
「さすがラグナ! 気が付いてたんだな!」
「当然であろう? ぐわっはっは!!」
おいおい陸人。今日、ラグナを褒めすぎだろ?
まぁ褒めたくなる気持ちはわかるけども。
でもあんまり褒めると、ラグナが調子に乗るぞ? いつもより多めに酒を飲んじゃうぞ? 酔っ払いすぎるとメンドクサイんだぞ?
「クロノがあとで時を止めてくれるってさ! 次元の裂け目の!」
なんだか陸人のテンションが高い気がする。いつもより、かなり高い。
光の精霊とラグナの大技を間近で見たからかもしれない。
「ふむ。さすがだな」
「停止期間は、三十日くらいだってさ」
陸人の説明に、頷いて同意を示す。
「うむ。クロノが関わったなら、間もなく侵入も止まるであろう」
あ、そうだ。
クロノが言ってたっけ。カード集を使えって。
ひょっとしたら、この事態を何とかしてくれるつもりなのかも。
「お~い」
コツンコツンと右手のバングルを叩いてみる。
擬態したスライムはピクリとも動かない。どうやら眠っているようだ......
「まぁいっか。呪文はえっと―――【メモリー・ロード】だっけ?」
すると手首のバングルから、フワリと本が浮き出て。
空中に浮かんだまま、ページがひらひらと捲れていく。
そして一枚のカードが浮き上がり、大きくなっていく。
「兄さん、どうしたのそれ?」
「クロノが言ってたあれ。やってみたんだけど……」
正直、オレにもちょっとよくわからない。
「ふむ。そこに記された文章を読んでみるがいい」
「うん。わかった」
クロノはさっき味方してくれたわけだし。
悪い結果には、ならないよな。
「えっと、大天使ウリエルの御業を代行する。アイギスの盾、発動!」
ゾクリ――― 一瞬のうちに震えた全身を虚脱感が襲う。
カードは静かに光り輝いて。やがてスッと消え去った。
「あれ? 何も起きない感じ?」
辺りを見渡しても、特に異変はなさそうだ。
「ほぅ?」
「ラグナ、どうした?」
「うむ。目を凝らして空を見るがいい」
「空?」
ラグナの示す方向に、太陽の光を受けて輝く何かが見える。
「―――シールド?」
「うむ」
透明のシールドだ。
しかも、超巨大の。都市を丸ごと覆うサイズの。
いや、都市だけじゃない。
城壁の外にある畑や牧場の方まで、光の膜が続いている。
「グワッハッハ! 見事なり! これが名高いアイギスの盾か!」
「知ってるの?」
「あぁ。神々の武具が一つだ。よ~く見ているがいい」
上空から耳障りな泣き声が聞こえてくる。
羽の生えた蛇のような巨大なモンスターが数匹、空から火炎のブレス攻撃を仕掛けてくる。
その炎がシールドにぶつかった瞬間、花弁が舞い散った。ダイヤモンドのようなきらめきの花弁は、静かに、そして美しく舞い上がって。そのまま霧散して跡形もなく消えていく。
攻撃で生じる振動や衝撃音すらも通さない。
いや、それらを全て吸い取っているのかもしれないな。
攻撃を吸い取った部分のシールドが花びらになって。美しく空中を舞っているのかも。
そしてシールドは、まったく欠けてない。
それどころか傷ひとつ、ついてない。
透明なせいで注意しないと見えないけども。
でも、確かにそこにあって。美しく輝き続けている。
「すげぇな」
「―――うん」
スケールも。
そして強度も。
全部、とんでもないレベルだ。
しかも、美しい。
「伝承によれば、この盾は悪意あるものの存在や御業を拒否する」
「じゃあ、ブゥちゃん系の敵が来ても?」
「うむ。空間移動での侵入は不可能だ」
「アイギスの盾ヤバすぎ」
「それだけではないぞ? この盾は、こちら側からの攻撃を通す」
「マジで?」
「うむ。我らは攻撃が可能だ」
なら、ものは試しだ。
こっちから攻撃してみよっと。
「オレから提案。遠距離攻撃を仕掛ける。各自の役割は―――」
ラグナがドラゴンブレス。
オレは魔法だな。【千変の風刃】にしよう。
アーサーも、いけそうならもう一回必殺技を打ってもらって。
陸人は【エアシールド】を展開してもらおう。さっき使った魔法だから、イメージはできるはず。
【エアシールド】は、敵の弱点なんかを解析する魔法でもある。
この機会に、星外モンスターの情報を可能な限り集めておきたい。
「―――って感じでどうだろ?」
「ふむ。良かろう」
「兄さんに賛成」
「主のご命令とあらば」
「よっしゃ! 一掃しよう!!」
星外のモンスターに、この街の力を見せつけてやる!
+++
あのあと、ドラゴンブレスとオレの魔法、そしてアーサーの必殺技が見事に炸裂して。
空を飛ぶモンスターを一掃できた。
で、今は何をしているかって言うと、索敵。
敵の残党がいるかもしれないしね。
念のため巨大化したままのラグナに連れられて、オレたち兄弟は上空をみまわっているわけだ。
ドラゴンの手のひらに座り込みながら。
「綺麗だなぁ」
陸人の言葉を否定する者なんて、きっと誰もいないだろう。
みんな、同じ気持ちだと思うんだ。
「あぁ」
夕焼け色に染まる海に山々、そして都市や畑の風景。
何回見ても、飽きることがない。
マジで最高の眺めだ。
「アーサーは? 気に入った?」
「えぇ。この上なく」
「なら良かった!」
今日、大活躍だったから。
この風景で、少しは癒されてほしい。
「ガウェインも呼べばよかったなぁ」
「今は―――ナナ殿たちをご自宅まで送り届けているようです」
「そうなの? てかなんでわかるの?」
「我らは見聞きしている情報を常に共有可能なのです」
そっか。
それでガウェインもマーメイト事件を知ってたわけか。
「なら、ガウェインもこの景色を見てる?」
「えぇ。たいへん美しい、そう申しております」
良かった。
ガウェインも今日の主役だから。
この景色で少しでも癒されてほしい。
「それにしてもアーサーの必殺技! カッコよかったよ!」
陸人の思い出し絶賛、本日かれこれ十回目くらいじゃないだろうか。
グッと握手を交わす陸人とアーサーの姿を、今日は何回見たことか。
「恐縮です」
でもおかげで、アーサーは握手の良さをちょっとずつ理解してくれてるっぽい。
それにしても、だ。
「いいなぁ。オレはまた見逃したんだよ」
今回の星外による襲撃。
被害もなく、みんな幸せなんだけど。
唯一問題があるとすれば、オレがアーサーたちの必殺技を見れなかったことぐらいだ。
さっきもチャンスだったのに。
ちょうどオレとアーサーが、背中合わせで敵に攻撃をしかけてたせいで。
振り返ったときには、アーサーの必殺技は全て終わってたんだよ。
いつの日か、絶対に見てやる。大絶賛してやる!
「主よ。また力の満ちたときに、ぜひご覧ください」
「うん!」
楽しみは今後に取っておくとしよう。
「ところで兄さん。さっきのカードは? 無くなったの?」
「えっと―――どうだろ?」
空中に浮かんでるカード集を捲って見ると―――欠番はなさそうだ。
「お? あったぞ!」
どうやら残ってはいる。
けど、アイギスの盾のカードは黒く変色している。
そして、カードの端に浮かぶ三十という数字。
なんの意味があるのか、これも全くもって謎だ。
「う~ん。一度使ったら使用不可なのかなぁ」
陸人はどうやら、カード集に興味深々らしい。
「黒色は、使用中の状態を表してるとか?」
「なるほど。連続使用できない系ってことだね」
もしそうなら、あと三十時間、あるいは三十日ぐらいか。
一定時間が経つと使えるようになるのかも。
この点は、おいおい確認していくことにしよう。
「あ、消えた」
カード集。スライムが擬態したバングルっが飲みこんじゃった。
えっと、【メモリー】って呪文で本の形態に戻せるんだったっけ。
まぁ、今は使わないからいいや。
「そういえば兄さん。体調に変化はない?」
「変化?」
「うん。これだけの力を無制限に使えるとは思えないんだけど」
確かに。陸人の言う通りかもしれない。
上空に輝き続ける壮大なアイギスの盾。
持続性、範囲、防御力。そのどれをとっても、とんでもない効果だ。
「う~ん。痛みとかはない。けど体がダルい」
体を触ってみるけど、今のところどこも痛くない。
血も出てないみたいだし。
でも、けっこうダルい。
たっぷり修練した後に匹敵するダルさだ。
痛みやマヒしてるような感覚はないけど、連発はできない感じかも。
何より、このダルさが二倍、三倍って積み重なるのは、オレもお断りしたい。
ひょっとしたら、眠りに落ちてしばらく目覚めなくなるかもしれないし。
眠るのは好きだから、別にそれはいいんだけど。
さすがにバトル中に眠っちゃうのはリスクが高すぎる。
「そっか。まぁダルい程度ならいいけどね。様子見ってことかな」
「陸人に同意。気をつけるよ」
ニシシっと笑いながら、互いに拳をぶつけ合う。
「で、カード集にある武器なんかを使えるの?」
ワクワクを隠さずに、陸人はバングルをツンツンっとつつく。
しかしスライムは動かない。
ひょっとしたらお疲れなのかもしれないな。
「アイギスの盾を踏まえると、その可能性は高いとオレも思う」
他の武具も使えるのかもしれないんだよな。
さっきみたいな、必殺技っぽいカッコ良さで。
そう思うと―――ニヨニヨしてしまう。
アイギスの盾も、こんなにカッコいいわけだし?
きっと、他の武具もカッコいいだろうし?
これを使って星外のモンスターを倒しちゃったら、モテる。
ヤバい。
確実にモテる。
イケボさん素敵な誕プレをありがとう…!
やっぱり、あなたがオレの神様ですね。あなたのことを信じて生きます…!
「兄さん?」
「―――何だよ?」
陸人が生ぬるい目で見つめてる。
またも心の中が読まれたんだろうか。
「まぁいいや。問題は、この力が魔法かどうか、だよね」
「ん~っと、それはどうだろ」
他の人が、さっきと同じことをできるのであれば魔法ってことになるだろう。
あ、そもそもカード集だよカード集。
「カード集ってさ。みんな、こんな使い方できるのか?」
「どうだろ。聞いたことはないけど」
だよなぁ。
イケボさんから誕プレでもらったカード集。
なにかしら特殊なのかもしれない。
今度、連絡が取れたときにでもゆっくり聞いてみよっと。
「ふむ。我の索敵によれば都市の周囲二十キロに気配なし。そろそろ帰るか?」
「了解!」
グググっとラグナが方向転換して。
遠くに、オレの都市が見えてきた。
夕陽を受けて眩く輝くアイギスの盾、その全体像が明らかになってくる。
これは、あの花だ。
かつてダンジョンの報酬として配布され、神々の花と尊ばれている―――薔薇。
巨大な透明の薔薇の花に、都市や周辺施設がすっぽりと覆われている。
「アイギスの盾、ヤバすぎる」
透明な彫刻のようなシールドが、赤い夕陽のおかげで、美しく映えている。
「兄さん、ちょっと兄さん!」
「何だよ。どうし―――た、」
陸人の指さし方角は、都市の東側。
オレたちの都市ホープから十キロほど離れた集落だ。
「―――嘘だろ」
さっきは気がつかなかった。
夕陽のおかげで、その姿が確認できる。
確かに、咲いている。
「兄さん、あっちにも」
よく見れば、他の集落がある辺りにも咲いている。
巨大な、透明の薔薇が。
巨大なアイギスの盾は、ホープ以外の街や集落にも登場したらしい。
「少し揺れるぞ」
ラグナがぐっと高度を上げて―――上空でふわりと停止した。
おかげで、さらに遠くまで見渡すことができる
「ふむ。よもやここまでとはな」
アイギスの盾。神々の武具が一つだって、ラグナは言ってた。
神なんて存在、オレは半信半疑だったけど。
今問われたら、信じると答えるかもしれない。
見渡す限り、遠く、遠く。
おそらくヒュム族の領土にある集落や街の全てが、守られている。
アイギスの盾によって。
「兄さん、綺麗だね」
「―――あぁ」
透明な薔薇が咲き誇るこの景色を、オレはずっと、忘れない。
今日もありがとうございました!
前作でカイトが撮っていた写真や動画が、本作のカード集の正体です!
やっと、作中に登場させられました。




