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やがて再び神となる少年は恋愛に夢を見すぎている   作者: ゆうと
第Ⅰ章:アカデメイア
2/85

第1話:少年は夢を見る

 


 夢を見ている。

 真っ暗な空間に浮かぶオレに、降り注ぐ謎のイケボ。

 最近いつも見る夢だ。


「……ギフト? 創造神からの?」

『はい。前世での功績に対し、二度目の転生を迎えたカイト様へ』

「遠慮します」

『間もなく十二歳、、サービスパックAの期限です。開封しますか?』

「だからいらないって!」

『期限が迫っています』

「前世って何? 二度目の転生って何?」

『…… 感度不良。回答不能』

「え? 自分で言っといて?」

 オレは頭を抱えて、小さく溜息をついた。

「何度めだっつー話だよ……」

 ここ最近、毎夜続くこの夢。

 オレの平凡な日常を乱すこのささやかな出来事。頭痛の種だ。


『期限が迫っています。開封しますか? 』

「無視か…… わかったよ。開封する」

 もうオレの根負けでいい。

『オーダー承りました!』

「仕方なしだからな!」

 大声で届けた抗議には反応がない。

 小さな舌打ちも効果はない様だ。

「人の夢をさんざん邪魔していてさ…… あ」

 ひょっとしたら。

 いや、結構可能性高いんじゃないだろうか。

「この夢を見せてるのイケボ様なんだろ? オレの好きな夢を見せてくれよ!」

 これが取引条件だ。

『夢ですか?』

「ナナちゃんの夢が見たいですお願いします!」

『ナナちゃん? 』

「そうそう!ラグナおじさんの次女で、超絶可愛いんだよ!」

『超絶可愛い?』

「そう! おしとやかで色白でマジ女神!」

『ターゲットを確認中……』

 体がゾクゾク震えてくる。

「シチュもお願いしていい?」

『……』

「ナナちゃんと煉獄(れんごく)デートで! できたら映画観ながら手をつないでさぁ。桜餅をあ~んとかしちゃうんだよ。そんなちょっといい感じのシーンを盛りだくさんで!」

『………… 』

「なぁちょっと! イケボさ~ん?」

『…… オーダー承りました』

「あなたが神か!? 最高の誕プレありがとう!」

 胸を抑えて深呼吸を繰り返す。

 表情のニヤニヤが抑え込めない。

 デート、、、、なんて甘くて胸の高鳴る響き。

 毎秒、ドキドキとワクワクするに違いない。

 世界の中心はオレにちがいない。そう思うくらいの幸福感!!

『…… ターゲットの画像入手中』

「おぉ……」

『画像を動画に挿入中…… 合成終了』

「……」

 い、いよいよですね…… ゴクリ。

 

『ホラー映画【叫宴(きょうえん)】を鑑賞中と設定』

「……え?」

「手を握り合って互いの口に桜餅を押し込みあうシーン合成。再生しますか?』

「…… ちょっと思ってたのと違う。けどいい!お願いします!」

『オーダー承りました』

 ナナちゃんと映画デート!! あ、鼻血出そう……




 +++



「……カイト?」

「ナナちゃん?」

「カイト?」

「うん! ナナちゃん大好き!」

 あれ? ナナちゃん、思ったより筋骨隆々なんだね……

 女の子って、全体的にふわっとして柔らかいイメージだったけど

 まぁ夢だし、こんなもんか…

「……なに寝ぼけてんのカイト!! 誰がナナちゃんよ!」

「いだっ!? ちょ、母ちゃん!? 」

「起きなさい!」

「もぉ~!! マジないわ~。母ちゃんマジないわ~」

 いい夢見てたのに......ボソリと不満を口にする。

「どうりでドラゴンみたいな…… ヒィ!?」

 スパンと、いい音が耳の横を通過する。

 後方を見て確認するまでもない。

 母であるクルルの握っていた‘しゃもじ’が、行方不明だ……

「さっさと顔洗ってきなさい? 」

「……ハイ」

「ハイは二回」

「ハイハイ」

「まったく。お父さんに似たのね」

「似てないし」

 よく言われるけど。

 似ていない。と信じたい。


 念のために、鏡の前に立って確認する。

 日焼けしてちょっと茶色くなったショートヘアの黒髪に、負けん気が強そうだと言わる瞳と眉。

 よく笑いすぎて大きくなったと母さんに言われる口元は、愛嬌を感じさせる笑顔のもとだと前向きに捉えることにしている。

 身長はこれから伸びると期待できる百と五十五センチ。

 割とフツメンだ。

 認めたくはないけど。

 一方、父さんは、腹が立つほどイケメン。似てるのは髪の色くらい。

 高身長で細マッチョ。

 笑顔もさわやか。無駄に大きな瞳とバランスのいい鼻と口。

 もし神様がいるなら、父さんを愛しすぎだろうと文句を言いたい。

「…… 見た目はあんまり似てないわよ」

「…… 知ってる。あ、父さんは?」

「もう出かけたわよ。会議だって」

「ふ~ん」

 父さんは超有名人だ。

 まずは希望都市ホープの領主として。

 そして、救星(きゅうせい)の勇者として有名だ。

 イラっとするくらいの人気者でもある。まぁイケメンなのは認める。

 でも家では色々とだらしないただの裸族なんだけどな。 

 毎夜飲み歩いては、毎朝母さんに土下座してる。本当に学習能力ゼロのダメ親父なんだ。

「まぁ母さんも強いからなぁ……」

 土下座謝罪する気持ちもわかる。

 母さんも救星メンバーの一人だから。

 竜人族のクルルといえば知らない人はいないだろう。

 それくらいの超有名人だ…… 竜のような怪力と殺人的な蹴りで。

 長命の竜人族だけあって、若々しいと評判。母さんはオレの姉のようにも見えるらしい。それが喜びのようなのでツッコまないことにしてるけど。

 父さんと結婚した今でも、母さんは人気がある。色白の美人で雰囲気があるらしい。

 意味不明だ。オレ的にはドラゴンとさほど違いはない。

「…… 今、母さんの悪口言わなかった? 」

「言ってないって。顔洗ってくる!」

 危ない危ない……

 母親って皆こんなに勘が鋭いんだろうか。




 +++




 家の前は人々が集う水場になっている。

 小さな小川と井戸が立ち並ぶそこは、精霊たちの憩いの場。

 わが家の精霊も例外じゃない。

「くわぁぁぁ~」っと気持ちよさそうに伸びをしてゴロンと寝転がっておられる。


「おはよう紅蓮! 」

「おはようさん」 

 赤い毛並みの美しい子虎。紅蓮だ。

 なんと上位精霊である。普段は子犬みたいだけど。

 バトルになると超絶カッコいいんだ。

 氷と炎の両属性を駆使する。炎の氷はもはや芸術といってもいい。

 コイツを抱きしめてワシャワシャ背中を撫でるのが、朝の日課。

「黄龍もおはよう!」

「よい朝だな」

 ふわふわと上空から小さめの黄色い龍が舞い降りてきた。

 オレの肩の上でとぐろを巻いてドヤ顔するのが、毎朝の日課。

 紅蓮と同じく上位精霊。

 近所のガキどもからは、‘とぐろさん’ と密かに呼ばれている……


「む? 今目覚めたのか? 」

「へへ。寝坊しちゃった。おはよう!」

「まったく。たるんでおるな」

 そして、こんな救星の上位精霊が恐れる家族が、こちらである。

「まぁよい。めでたい日に説教は止しておこう」

「へへへ」

「十二歳の誕生日おめでとう」

「ありがとうラグナ!」

「うむ」

 この星では珍しい、野生のドラゴン。三百年ぶりに発見されたとか。ダンジョンには、けっこう出るらしいけど。

 ラグナはまだオレが幼い頃、急に空から舞い降りてきたらしい。

 退治しようとした救星の勇者たちは、野生のドラゴンの尻尾アタックでノックダウン。

 目が覚めた父さんと母さんは、凍り付いたそうだ。わが子たちが食われたと思ったんだって。 

 でも実際は違った。

 オレたち兄弟がラグナの腹の上できゃいきゃいと遊んでたとか。

 以来ラグナは、わが家で自由気ままに過ごしてる。

 たまにフラフラと数日居なくなることもあるけど。立派なうちの家族だ。

 ペットって言うと怒るから、家族ね。


「今日から念願のアカデメイアだったな?」

「うん!」

 希望都市ホープが誇る名所の一つ。

 アカデメイアーー ダンジョンに関する勉強や研究の施設だ。

 魔法の使い方、武術、製薬や鍛冶なんかを教えてもらえる。

 ヒュム族がダンジョンに挑戦するには、ここで勉強する決まりだ。

 十二歳から、入学が許可される。一年目は自宅から通い、二年目からは希望すると憧れの寮生活もできる…… 恋愛待ったなしの好環境だ。


「寮生活、、、寮生活、、」

 ついニヤニヤしてしまう。

「初日から遅刻はいかん。俺が送っていってやろう」

「いいの? マジ助かる!」

 子犬のような大きさだったラグナが、六メートルほどに。

 黄金に輝く角と全身の硬そうな皮膚。長めの尻尾と二足歩行の大きな足は、見た目通り破壊力抜群。

 そして、大きな翼。

 これが広がると、相手は恐れおののいて逃げ出す。ラグナ曰く、だけど。

 それにしても見事だ。

「ラグナかっけぇ!」

「そうであろう?」

「うん!」

「で、どうするのだ? 」

「なにが?」

「まさかパン(いち)で行くのか? 」

「……あ」

 マズい。

 これじゃ父さんと同じ裸族じゃないか…

「あ、カイト君だ。おはよう!」

「!?…… お、おはよっ」

 ヒラヒラと手を振って、女性三人を見送る。

 ラグナの尻尾に隠れながら。

 隣に住んでるクルドおじさんところの美人三姉妹。キキ、ナナ、ララだ。

 年齢が近い、家が近い、親の仲がいい。幼馴染ってやつ。


 三美人が消えた角の向こうから、クスクスと笑う美しい声が聞こえてくる。やっぱり……

「ナナちゃんに見られた」

「パンツ姿を見られたくらいで何をクヨクヨと」

「ドラゴンにはわかんないんだよ!」

「む。そういうものか」

 若干涙目になりながら、ラグナを睨む。

 絶対わかりっこない。ご長寿ドラゴンに、思春期男子の恥じらいなんて……

「それより遅刻するぞ?」

「あ、ヤバい」

 水桶に頭を突っ込んでシェイクすると、頭もすっきり。

「ぷはぁ~、、、冷てぇ~! 気持ちいい!」

 首を振ったらラグナが羽で風を送ってくれた。

 あっという間に髪が乾いていく。

「ラグナありがとう!」

「よいよい」

「…… このバカ息子。さっさと行きなさい!」

「いだっ!?」

 弓矢のような勢いで制服を息子に投げつける剛腕の母親を、オレは他に知らない…… そんなんだから怪力って言われるんだよ。

「悪口?」

「何も言ってないです! 行ってきます!! 」

 服を着る手が震えてる……

 今絶対、母ちゃんから白いオーラ出てた。氷竜種の冷気。マジ切れ寸前だ……

「何か落ちたぞ? 」

「ん? 何だこれ。サービスパックA?」

 あぁ。夢のヤツだ。イケボ様からの誕プレだ。まさか実物があるとは……

 小包に、SSSレア封入って書いてある。

 なぜか胸がわくわくする響きじゃないか。

 SSSレアって何のことか、さっぱりわかんないけど。拾っておこう。

「そろそろ行くぞ? 」

 ラグナはすでに、移動用の籠を抱えてる。

「あ、ヤバい! ラグナよろしく! 」

 籠に飛び乗れば、あとはあっという間だ。 

「うむ」

 フワリとラグナが空に浮かびあがれば、一瞬で家が小さくなっていく。

 高度が安定して、体にかかっていた重力から解放される。


 この瞬間が、大好きだ。




 +++




 目を開けば、もう雲が触れる高さとは。

 さすがドラゴン。


「ひゃっほー!! 」

 上空は涼しいし、天気がいいし。気持ち良すぎだ。

「カイト見てみろ。風の精霊……アネモスたちだ」

「あ、ほんとだ! お~い!」

 アネモスたちが返事をするように大きな旋回を見せてくれた。

「うむ。今年も小麦が豊作のようだな」

「おぉ~。黄金色の景色!」

「あぁ。綺麗だな」

 太陽を浴びて黄金色に輝く広大な農業地区が一望できる。

 ラグナ様々だ。

「これもアネモスや精霊たちのお陰だね」

 精霊が風を操り、雨を操り、雲を操り、水や土も操ってくれる。

 作物の生育環境を整えてくれるわけだ。

「そう言えば、さっきの包みはどうしたのだ?」

「持ってきたよ」

「ふむ。開けてみてはどうだ?」

「じゃあ見てみっかなぁ」

 鼻歌まじりに銀色の包み紙をはがす。

 なんだかんだで、プレゼントを開けるのはテンションが上がる。

 すかさずポンっと音が鳴って、空中に冊子が出てきた。

 こんなデカいものが、どうやって小包に入ってたんだろ……

「冊子が入ってた。カードが綴ってある」

「冊子とカードか。ふむ」

 なかには色々なカードが入っている。

 SSSと書いてあるキラキラした美しいカードが、何百枚も。

「えっと、海神ポセイドンに雷神トール、大天使ミカエルと、大天使ウリエルのサマーバケーションモード? おぉ、英雄ラグナも入ってるじゃん!」

「む? 呼んだか? 」

「いや、違うって。英雄のラグナの方! 竜人族の信仰対象!」

「そうか……」

「オレの一押しなんだよ。カッコいいじゃん英雄ってさ!」

「うむ! わかっているではないか! 」

「生きてた頃は絶対モテてたと思うんだよ! あやかりたいっ」

「ぬはははは! それほどでもあったな! 」

 なぜかハイテンションになったうちのラグナ。

 同名だし。英雄ラグナ推しなのかな。

「あ! あそこだ!」

 大きな教会のような建物。

 真横に武術や魔法訓練用の巨大コロシアム。

 このゾーンは、子どもたちの憧れの場所だ。

 オレもその一人。体験入学させてもらった時の感動を、今も覚えてる。

「ちゃんとつかまったか?」

「あい!」 

「ヌハハハ! いい返事だ。行くぞ!」

「——ちょっ!?」

 ハイテンションのまま着陸態勢に入ったラグナがコロシアムに舞い降りたら、ただじゃ済まないに決まってる。

 はたから見れば、さぞ猛烈な勢いだったに違いない……


 やっぱり。

 コロシアムの舞台は真っ二つ。バタバタ人が倒れてる。

 うちのドラゴンがすいません......

「ぬ? 速すぎたか?」

「…… 間違いなく」

 ようやく、舞い上がった砂埃がおさまった。

 眼鏡姿の教師が、ヨロヨロと近寄ってくる。

 オレは急いで飛び降りて、フラフラしている教師に肩を貸してやる。

「君、新入生のカイト君だね?」

「……はい」

 レアなドラゴンに乗った少年なんて、大声で自己紹介してるのと同じか……

「親御さん呼ぶから。学長室に行こうか」

「…… はい」

「はぁ。まさか入学初日に領主を呼び出すはめになるとは……」

「すいません……」

 ラグナは、いつの間にか消え去っていた。

 さすが自由気ままな生き物。羨ましい。




 +++




「まずはご入学おめでとう」

「ありがとうございます」

 アカデメイア二代目学長の北斗(ほくと)は、顔見知りの少年の頭を撫でる。

 彼と少年の父親である大和とは、かつてダンジョンでパーティを組んだ仲だ。

 優しい兄と言って北斗を慕う大和のことを、彼が実の弟のようにかわいがったことは、今でも皆の語り草である。

 そして時に、無茶する大和を年長者として説教したのも彼である。これも皆の語り草だ。

(それにしても親父そっくりだな。叱られてるときの表情が……)


「ごめんなさい」

「大和とクルルさんへの連絡は、いったん保留にしといたから」

「ありがとう!北斗おじさん大好き」

「調子に乗るな!」

「いだっ」

 デコピンのいい音に、二人は顔を見合わせて笑う。

「小さい頃はよく、にらめっこをして遊んでやったな」

「俺もう十二だよ? 」

「そうだな」 

(俺もおっさんになったもんだ…… )

「ゴホン...... 」

 北斗の咳ばらいを合図に、二人は真剣な表情になる。

「ここからは学長として。とりあえず、修理費と怪我人の治療代は払ってもらうことになる」

「……そうですよね」

「だいたい二千万ジェムかな」

「にせ、、んま!?」

 大きく口を開いてフリーズするカイトを見て、北斗はその心中を察する。

(まぁ、気持ちはわからんでもない。俺でもそうなるだろうな) 

「人生、詰んだ。入学早々二千万ジェムの借金生活なんて。母ちゃんにぶっ飛ばされる…」

 頭を抱えてガクガク震えるカイトの頭を、北斗は優しく撫でた。

 彼の母親―― 竜人族クルルの怖さは、その強さ並みに有名だ。きっとカイトの心中を察したのだろう。

 かくいう北斗自身も、大和と羽目を外し過ぎて、友と一緒に正座謝罪したことがある。クルドとカイト、そして北斗の三連謝罪シーンは、有名なのだ。彼らの知名度もあって、今でも人々の酒の肴にされている。


「よければ、稼ぐ方法を教えよう」

「え!? あるんですか! 教えてください!!」

「ダンジョンサークルに入るといい」

「やります! 何かわかんないけど絶対やってやります!!」

「そうか。なら後で顧問を紹介しよう」

「…… 顧問の先生、何てお名前ですか? 」

「新人のアフロディーテ先生だよ」

「おぉ! 美の女神様と同じ名前なんですね!」

 カイトの喜びにつられたのか、北斗の頬が緩んでいく。

「借金の心配より既に、美人顧問か」

「へへ」

「まったく。父親そっくりだな」

「似てない!」

 会話がいつの間にか砕けていることに、二人も気が付いたのだろう。

 楽しそうな笑い声が学長室に響いた。




 +++




 北斗おじさんの案内で、オレは隣室に通された。

 大きなテーブルのあるこの部屋は、殺風景だ。会議用かな。

「お待たせ」

「ありがとうございます」

 お茶を飲みながら、資料の説明をしてくれるらしい…… 学長直々に。

 申し訳ない。

 もしかして早くもオレ、要注意人物ってことだろうか。否定は…… できない、けど。


「ところでカイト。それは何だ? ひょっとしてカード集か? 」

 北斗おじさんが、チラチラとオレの手元を見てくる。

「えっと、これ? 」

「あぁ。俺もコレクターでね。よければ見せてくれないか? 」

「はい。いいですけど」

 おじさんの手が、プルプル震え出した。

 目を閉じたり、開いたり、擦ったり。冊子を閉じたり、開いたり、また閉じたり......

 あれ? ひょっとして泣いてる??

「どうしたの?」

「SSSばかりじゃないか...... 」

「うん」

「SSSなんて、生涯お目にかかることはないと思ってた......」

「SSSって何なの? 」

「知らないのか!? 超絶レアランクのカードだ!!」

「へぇ~」

「俺なんて奇跡的にAランクカードを一枚持ってるくらいだ。あとはB以下なんだぞ!?」

「そ、そうなんだね。あげようか?」

「ばっ!?…… さてはカイト、わかってないな」

 たっぷりと溜息をついた北斗おじさんが、小さく首を左右に振る。

「学長。眼鏡をクイってして、ため息つかないでください。地味に傷つくんで」

「そう不貞腐(ふてくさ)れるれるな。悪かった」

「別にいいけどさぁ」

「お詫びに教えてやろう。Sランクカードでも、一枚数百万ジェムで取引されるんだぞ? 」

「すうひゃくま!?」

「あぁ」 

「つまりSSSランクならもっと高額ってこと!?」

「そうなるな」

「マジで!?」

 勢いよくと立ち上がったせいで、お茶もビックリしたようだ。

「あっぶね…」

 アカデメイアの書類は全部濡れたけど、カード集だけは死守できた。

 てかイケボの人ありがとう! これで借金返せます!

「だから簡単に人に譲るな。簡単に見せるな。いいな?」

「わ、わかった」

 コクコクコクと何度も頷いて、頭に叩き込む。


「まぁSSSを買える金持ちはこの街にはいないだろうがな」

「そうなの? じゃあ北斗おじさんは? 」

「学長の安月給なめんな」

「なんかゴメン」

 おじさんの表情を曇らせたことを、頭を下げてお詫びする。

「マジ謝罪やめろ」

「悪気はないって」

 カード集を眺めると、自然とタメ息があふれてくる。

「はぁ~、、、」

 結局、宝の持ち腐れじゃん。こんなにSSSが揃ってるのに。

 頁を捲れば、美しいカードの煌めきが次々に飛び込んでくる。

 まるで宝石箱のようだ。

 カードそのものも、特別な素材で作られてるのかもしれない。

「ん? これは…… ヒュム族の守護神? 誰?」

 そのカードに触れた瞬間。視界がぐらりと揺れて…… 意識が遠のいていく。


「カイト!? 大丈夫か? おい!!」

「なんか、、、、眠いかも」

「誰か回復魔法保管ボールを持って来い! 状態異常もだ! 急げ!!」

 北斗おじさんの声が、だんだん遠のいていく……




 +++




 ここは……いつもの夢の世界だ。

 間違いない。

『ヒュム族の守護神カードと対象との接触を確認』

『禁断型神権【神のサイコロ】の効果が発動…… 』

 この声はイケボの人?

『更に創造神のサービス発動。対象の体を模造神体へと改変…… 完了』

『つづいて模造神体に神威を抽出…… 分神体とのシンクロ完了』

『対象の諸能力値…… 劇的向上を確認』

『以上の手続きにより通信状態改善。感度良好』

 ダメだ。だるい。

 体が熱い……

『私はロココと申します。カイト様』

「、、、よろしく」

『こちらこそ』

「ダメだ。もう無理…… おやすみ…… 」

『状態を確認。オーダーを再実施。ナナ様との煉獄デートを夢に投影…… 成功』 

「……マジ有能」

『恐縮です。よい夢を』

「ありが…と……」

 ナナちゃんの笑顔が可愛いい。

 ニヘラっと笑いながら。オレは意識を喜んで手放した……





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