第18話:イタズラ大作戦
「じゃあ皆で円陣を組むぞ!」
意識的に互いのテンションを上げるための儀式。
冒険者たちがダンジョンで新たな階層に挑戦する時。未知の挑戦をする時。
自分たちで気持ちを高めるための儀式だ。
気持ちで負けてると思考が停滞して行動が鈍るからだって、父さんは言ってた。
「よっしゃ!」
ハルルがノリノリで肩を組んできて。
それにみんなが続く。
ナナちゃんもガウェインもだ。
ガシっと互いに肩を組んで。中央に頭を寄せ合ってから、、、一斉にニシシっと笑う。
ガウェインもマネして、ニシシっと笑ってくれた。
「じゃあ確認! 手順に不安は?」
「ない!」
オレの問いかけに陸人が答える。
「役割に不安は?」
「ない」
陸人の問いかけにハルルが答える。
「イタズラ達成時のイメージは?」
「完璧!」
ハルルの問いにイルルが答え、、、
「逃げる時は?」
「ガウェインを目指す!」
イルルの問いにルルルが答えた。
「お腹は空いてない?」
「大丈夫!」
ルルルの問いに笑いながらナナちゃんが答えた。
「ガウェインは約束を覚えてる?」
「無論です」
また笑いが大きくなった。
「主よ。私も主に何かを問うのでしょうか?」
「もちろん!!」
「では、主よ…… 」
ちょっとドキドキする。
この流れで、真面目なガウェインがオレに何を聞くのか。
オレだけじゃない。
みんなの視線がガウェインに集中してる。
「……マーメイドでなくて良かったのですか?」
「んっ、、ぷぷッ、、、、」
「ハイ解散!!」
なんでガウェインが知ってるんだよ!?
さてはあのイケメンだな?? アーサーとオレの情報共有してやがるに違いない!!
「くっそウケる! ガウェイン最高…!」
吹き出した陸人の耳を抓っても時すでに遅し。
「え? なにその面白そうな話!」
三バカ兄弟はガウェインにグイグイ食いついた。
「主が先程、そばにマ……」
「ガウェイン!? ちょ、、、黙ってお願い!!」
光の精霊の口に両手をあててガードする。
背伸びしないと届かないところが何だか情けない......
チラッと見たらナナちゃんがなんとも言えない表情をしてる。
何かを察したんだろうか......
「ち、、、違うんだよ。あの、オレは、、、」
「よっしゃ! 行くぞ!」
「え!? ちょっと!!」
「その話の続きは無事に帰ってからな?」
「もちろん!」
なぜ三バカ兄弟はオレをイジる時に限って息ピッタリなのか......
取りあえず、ずっとケタケタ笑ってる陸人の頬を抓っておこう。
「じゃあ、、、、行くか」
とりあえず無事に戻って。
なにをしてでも誤解を解かねばならない。
ナナちゃんの......
最後にもう一度、互いに視線を合わせて。
互いの呼吸を合わせる。
胸を膨らませて、、、スッと息を吐き出して。
もう一度息を吸って、、、吐き出す。
大丈夫。
みんなの呼吸は揃った。
誰も異常に焦ったり、緊張したりしてなさそうだ。
「ガウェイン、、、【謁見の間】解除!」
景色が食堂へと戻る。
ニヤリと、気持ちの悪い笑顔がオレたちを捉えた。
+++
グッと地面を蹴る。
同じように地面を蹴る音が背後から聞こえてくる。
ハルイルコンビだ。
「太陽と闇を贄に開くは精霊の社。何でもいいから強いの出て来い!!!」
空間に裂け目ができて。
バキバキと、まるで割れたガラスの破片のように飛び散っていく。
巨大な門が登場した瞬間、、、モンスターの視線がそれに向かって。
門が開く眩い光のなか。
イルルがそば粉をぶちまけて、、、ハルルが青龍のオーラで周囲に小雨を降らせる。
モンスターは瞳を閉じながら首を振る。
大丈夫、、、こっちのイタズラには気が付いてなさそうだ。
そして、いい感じに灰色の血っぽくなってる。
よし!
ハルイルコンビに見えるように、両手を左右に開いて。
親指を動かして撤退を伝える。
いつも使ってるハンドサインだ。
ハルイルコンビと共に目指すのはルルルと陸人のシールド。
背中を守ってくれるのは、アーサー。
だから、安心して背後を気にせずダッシュできる。
「おいお前。もう、既に死んでいるぞ?」
いいぞアーサー!
モンスターに剣や床の血を見せつけてくれやれ!
身体や周囲に広がる灰色の液体を見つめて、、、慌てるがいい!!
「グゲ!!?」
チラリと後ろを見ると、体をバタバタ触ってる。
ブゥちゃん、はまってくれてありがとう!!
剣を落っことすパニックっぷり。実はブゥちゃん、気が弱いのかもしれない。
怖い顔してる割には、小心者か??
でもおかげで時間は十分稼げた。
ルルルは支えるものの呪文を唱え終え、陸人がそれに続いている。
ハルイルコンビはオレに続いてルルルのシールドの中に入った。
異変を感じたアネモスの方から食堂に突っ込んできてくれて、こちらの態勢は万全。
「よっしゃ!」
精霊召喚の門は既に開いている。
誰か出てくるだろう。
あとはアーサーと、新たに呼び出しに応じてくれた精霊にお願いして。オレたちはガウェインの【謁見の間】に戻ればいい。アネモスに先生たちへの伝言を託して。
つまり、イタズラ大作戦成功! オレたちの勝利だ。
もちろん、強い精霊が来てくれればの話だけど。アーサーが必殺の一撃の準備をする時間を稼げるくらいの......
「誰か出て来い!!」
何の気配も、、、姿もなく。
音もなく召喚の門が閉じる。
まさか、、、失敗か?
嫌な汗が流れるのを感じながら周囲を見渡した瞬間、、、世界が灰色になった。
「やぁ。久しぶりだね」
ヒョコンと、見たことのない精霊がテーブルの上に立っている。
はじめまして、じゃないか??
「君ってウサギ?」
陸人の確認に精霊は頷いた。
「シルクハットにタキシード、それに懐中時計って、、、いいね」
グイグイと褒める陸人。精霊は嬉しそうに微笑む。
「フフ。話がわかるじゃないか君」
モンスターだけじゃない。
陸人以外の皆も、ピクリともしない。
「まさかあなたがお越しになるとは」
ガウェインは顔見知りなのか。なら、光の精霊??
「時の王よ」
「偉大なる星位精霊…… クロノ様」
アーサーもそばにやって来た。
「今のうちだよ?」
感謝の言葉を述べたあと、アーサーとガウェインが瞳を閉じて集中を始めた。
「あの、、、クロノさんだっけ?」
「あぁそっか。君は今、、、そうだったね」
テクテクと、スティックを振りまわしながら軽快に歩いて。
ピョコンと、陸人の目の前に降り立った。
「僕の名はクロノ。時の精霊だ。今、君たち以外の時を止めている」
時を止めって……クロノまさかとんでもない精霊?
あ、さっきアーサーがクロノを星位精霊って言ってたっけ?
「あとで次元の裂け目の時を止めておこう。三十日は侵入を防ぐよ」
「そ、、、そんなことできるの?」
どう考えたってヤバい。
次元の裂け目の時を止めるって、、、ヤバすぎる。
「あぁ。三十日止めるとなると、、、そうだね。三十分ほど準備時間をもらうよ」
「三十分って、、、それだけでいいの?」
「いや。ちょっと準備に時間がかかりすぎるくらいさ」
クロノも本調子じゃないのかも。
アーサーとガウェインも光が足りなくて力が出ないって言ってたし。
なにかしら制限がかかってる状態なのかもしれない。
でも、それでも、、、だ。じゅうぶん凄いけど。
カワイイ見た目に反して、とんでもない力だ。
「時間を止めてる間に、女神のダンジョンを掃除するといい」
「わかった。みんなにそう伝える」
「頼むよ」
クルクルっと杖を回転させて、、、じっとオレの瞳を見つめてくる。
「ありがとう。クロノが来てくれてよかった」
「なに。君には恩がある。ボクも、彼女もね」
「恩? それに彼女って?」
「さぁ!間もなくこの部屋の時が動きだすよ。彼らの準備も整ったようだしね」
テクテクと歩く後ろ姿は、背筋が伸びてカッコいい。
それに尻尾がちょこんと出てて、、、カワイイ。
わが家のペット、いや家族の一員になってもらえないかな。
絶対に、絶対にチヤホヤしてもらえると思う。
アカデメイアの女子たちから。
「じゃあ、ボクは裂け目に向かうよ」
テクテクと歩くクロノの背中。
かわいくて小さいけど、、、大きく感じる。
頼りになる背中って、こういう感じなんだろうな。
クロノも絶対、モテる。間違いない。
「クロノ! 本当にありがとう!」
「あぁそうだった。伝言を忘れてた」
振り返ったクロノが帽子をとって。
ごそごそと中からメモを取りだした。
「えっと、、、カードを選択して使うといい。呪文は【メモリー・ロード】だってさ。あと無茶はするなって怒ってたよ?」
「?? わかった」
「じゃあ頑張って」
パチンとクロノが指を鳴らした瞬間。
世界に色が戻る。
クロノはどこかに消えて、、、すぐさまモンスターの悲鳴が響き渡った。
「あれ? ひょっとして見逃した??」
アーサーとガウェインの必殺技!
絶対カッコいいから絶対見たかったのに!!
「いや強すぎだろ」
「しかもカッコ良すぎな」
「ふぅ~、、、お腹空いた」
「私の王子さま……」
ナナちゃん? まさかアーサーとガウェインも恋人候補にリストアップ?
これだからイケメンは困る!!
ちょっとイケメンなことをするとすぐモテやがるから。
何もしなくてもモテるのに!
そうだ、、、しばらく二人には光になっててもらおう。
恋のライバルを減らさねばならない。
「無事か!?」
「北斗おじさん!」
駆けつけてくれたってことは、、アネモス!
食堂の天井を滑空し、、、フワリと羽ばたいてオレの肩に着地した。
「ありがとうな!」
首筋を指の背で撫でたら、満足そうにひと鳴きした。
「じゃあ皆はここで学長に報告しててくれるか?」
ハルイルコンビに視線を合わせると、任せろって微笑んでくれた。
ルルルはもう、炊き込みご飯のお代わりを食べてる。
通常営業でホッとするよ。
「オレと陸人はラグナの様子を見てくる」
わが家の巨大化ドラゴン、、、暴走してないといいんだけど。
軽く都市のゲートくらい吹っ飛ばしててもおかしくはない。
ゲートって修理費幾らだろう...... 頑張れ父さん!
「じゃあイタズラ祝賀会は、また今度ってことで」
「マー」
「メイ」
「ドゥ」
そうだった。
三バカを懲らしめて。
ナナちゃんの誤解も解かないといけない。
でも今は、ラグナとの情報共有が先だ。
一刻も早く誤解を解きたいけど、、、仕方ない。
「アーサー。オレと陸人をラグナのところまで運んで?」
「承知」
「ガウェインはここで皆を守って。もちろん自分のことも、だからな?」
「主のご命令とあらば。わが身も守ります」
少し困惑してるけど。
まずは、自分の身を守ってくれるならそれでいい。
ガウェインも、オレたちにとって大切な存在なんだって。そのうち気づいてくれるだろう。
「あ、、、マーメイドの話はするなよ!」
コソコソっとガウェインに耳打ちしておく。
「承知しました」
さっきからニヤニヤ笑ってる陸人の頬を抓りながら抗議の意を示す。
三バカ兄弟がニヤニヤ笑って。
ナナちゃんもなぜかニヤニヤ笑ってて。北斗おじさんが小さく溜息をついて。
日常が戻ってきた感覚に、オレもニヤニヤ笑ってしまう。
そこで気づいた。
これは高揚感ってヤツだ。
そう言えばイタズラ成功時にいつもやってるアレをしてない。
皆と視線を合わせると、コクコクと頷いてくれた。
グッと右手を握り締めて、、、天にかざす。
「っしゃあ!!オレらの勝利だ!!」
「おぉぉぉぉ!!!」
ブゥちゃんとのバトル。
その勝利報酬は、みんなの笑顔と自信。
安っぽい言い方だけど、、、最高の報酬だ。
今日もありがとうございました!
魔法やダンジョンがあるような異世界で、若者は冒険者としてどうやって育つのか。
ここも書いていて楽しいテーマです。




