第17話:希少個体の襲撃
透明になった【謁見の間】の一部。
そこに食堂の様子が映し出された。
「な、、、何なんだよアイツ」
不気味なモンスターが一体、アーサーと対峙している。
身の丈はクルドおじさんくらい。二メートルってとこかな。
「ナナは見るな!」
ハルルがグッとナナちゃんを抱きしめて、胸で視界を遮った。モンスターが不気味すぎるからだろう。
そして、剣。
岩か何かを削った剣からも、モンスターの残忍さを感じる。
ゴツゴツした剣は切るのには向かない。相手を叩き潰したり獲物の肉を削ったりするための剣だろう。
その一メートルはありそうな剣を軽々と肩に担いで、ニヤニヤ笑う。
真っ黑な全身の、、、特に下半身。大猪のような毛むくじゃら。太くて重そうな蹄が見える。
上半身には丈夫そうな黄色い毛皮を着て、頭には尖った角のついた兜。素材は、何かの生物のがい骨のようだ。
顔はヒュム族に似ている。
けど、大きな目が赤く濁っていて。不気味さに残忍な印象を加えてる。
それに、、、
「クケ! クケケケケ!!!」
何やら楽しそうに笑ってる。顔を醜く歪めながら。興奮状態ってとこだろうか......
「あれも星外だよな?」
「はい。おそらく希少個体。知的生命体のようです」
「ガウェインがそう考える理由は?」
「三つあります」
まず、この空間に急に単独で現れたこと。
次に周囲から悲鳴が聞こえてはこないこと。
つまり、特殊能力を持った希少個体って可能性が高いってことになる。
「そしてあの加工された武器や防具。知的生命体かと」
自分で作ったにせよ、売買等の手段で手に入れたにせよ、知的生命体には違いないか。
ガウェイン、やるじゃん!! 心強い!
「よくわかった。オレもガウェインの見立てに同意する」
「恐縮です」
「で、、、アイツかなり強い?」
あの重たそうな剣を軽々と振り回す時点でヤバい。
少なくとも筋力がヤバい......
「えぇ」
確かに。
アーサーが防戦一方にまわってる。
あとそのせいで、精霊の強力な技を使うための時間的余裕がないってところか。
「でもアーサーも本調子ではないので」
「調子? それって、、、光が足りないとか?」
「はい」
そっか。曇ってるし。
だからさっき、アーサーは増援が必要だって言ったのか。
「いかがなさいますか?」
ガウェインはいたって冷静だ。
頼もしく感じるし、おかげで自分も冷静になれる。
「う~ん、、、、、、」
そうだ!
アイツを閉じ込めればいいんじゃないか?
「【謁見の間】にアイツを隔離することは?」
「既にアーサーが失敗しております」
ダメだったか…… いいアイデアだと思ったのになぁ。
じゃあ、誰かを呼ぶ方向で考えるか。
「【謁見の間】。ここで新たな精霊召喚は可能?」
「残念ながら」
そっか。無理か。
なら、イケボさんはどうだろうか??
「えっと、、、ロココさん?」
……
……… ダメか。
【謁見の間】では外部との接触ができないってことかも。
新たな精霊にせよ、ロココさんにせよ、先生たちにせよ。増援を呼ぶにはここから外に出るしかないわけだ。
「ガウェイン。オレを外に出してくれる?」
今、皆で外に出るのは危ない。
「兄さん、、、まさか一人で外に出る気?」
「あぁ。ちょっと応援呼ぶ」
「待てよカイト! 俺も出るぞ!」
グッと腕を掴んできたのはイルル。
「あんなのは、、、もうご免だ」
眉間に皺を寄せて。その睨むような瞳が潤んでて。
初めて見る表情だけど、、、怒ってるってことだけはわかる。
「俺もイルルに賛成な」
ハルルはいつもみたいにヘラヘラ笑ってる。
「役立たずでもいい。お前を一人で危険な目にあわせたりしない」
けど、、、目は笑ってない。
「カイトのご飯は渡せない」
のんびり、おっとり。ルルルは敵を眺めながら笑ってる。
別にあのモンスターは飯をとりに来たわけじゃないと思うけど。
ルルルなりに、不気味な敵に立ち向かうための動機付けをしてるんだろう。
皆の気持ちは嬉しい。
けど、、、危ない。
「皆の気持ちは嬉しっ、、、、んぐ!?」
ググっと背後からのヘッドロック。
これは陸人の腕だ。
うすうす気が付いてたけど。陸人はオレより背が既に高い...... 竜人族は体格に恵まれて羨ましい限りだよ......
「兄さん。その選択肢はない。だからそれ以上何か言う必要はないよ」
「や、、でも、」
動けないオレをニヤリと見つめて。
イルルとルルルが脇にそっと手を伸ばしてきた。
「おまえら、、それは、、ぐひゃ!、、、、ヒィ、、やめ、、やめろって!!」
ヤバい! 笑いすぎて鼻水が......
「天罰だ」
ニヤリと笑いやがったハルルがナナちゃんを解放して。あっという間に目が合っちゃう。
「ズビっ、、、」
「鼻水出てるよ?」
「、、、、うん」
ズビビビビっと鼻をすすったらナナちゃんが楽しそうに笑った。
今日のナナちゃんの笑顔も尊い...... 太陽より輝いてるよ。
カッコ悪い顔を見られたけど。ナナちゃんの笑顔が見れたし。
うん。つまりオレは得をしたってことだな。
それに、、、
「冷静になれた。ありがとうな!」
陸人のおかげだ。
「うん。ガウェインの神気にオレたち以外はそう長く耐えられない」
「オレがひとりで外に出て、もし敵にやられた場合……」
「残されたメンバーは助かる。けどそれは短時間に過ぎない可能性が高い。なぜなら……」
「神気に耐えきれず【謁見の間】から外に出れば、敵にやられるから」
「つまり兄さんを含め全員が外に出る方が……」
「ここにいる全員が助かる確率が最も高い。こちらの戦力が最大の状態だから」
「異論なし、だよ」
「オレもだ」
互いの思考が連鎖していくこの感じ。気持ちいい。
「よっしゃ陸人! 三バカ兄弟も! アレするぞ?」
ニヤリと笑うオレにつられて陸人が、それから三兄弟が笑った。
「イタズラ作戦会議~!」
「ヨッシャ!!」
「あぁ! やるぞ!!」
五人で作戦を考えて、陸人以外の四人でイタズラを実施。
その様子をオレが夜、陸人に報告してきた。
これまでのイタズラのターゲットは主に、クルドおじさんと父さん。救星相手にイタズラするって高難易度が面白いからって理由でいつも被害にあってもらってる。
イタズラは、ダンジョンでのパーティプレイやバトルでの戦略を高めるって理由で、父さんとおじさんからは公認されてる修練でもある。
ダンジョンで強者と戦う時には、戦略が必要。敵や自分たちの状況を確認したり分析したりして、相手を自分たちの思惑に乗っけないといけない。
つまり得意パターンや勝利パターンに流れを持っていかないと、強者には勝てないから。
「ターゲットはあの魔人。名前は……」
「ブゥちゃんにしよう」
陸人が何やら楽しそうだ。
「じゃあそれで!」
「で、ミスリードは?」
どうやって相手をひっかけて隙を生じさせるか。
ここが成功のカギを握る。
「仲間割れ案! きっと想定外!」
イルルの意見は、オレと同じか。
いきなり目の前でオレらばバトルを始めて。キョトンとした隙にこちらの仕掛けを施すイメージだ。
「差し出す案! 誰か一人が生贄ってことで!」
ルルルの案も面白そうだな。
けど言葉が通じないだろうから、、、わかってもらえないかも。
「ならオレは‘お前はもう死んでいる’案!」
ん? 陸人の案が何やら面白そうだ。ソワソワする作戦名だし。
「それどんな案?」
「見てよ? ブゥちゃんの血の色……」
アーサーの攻撃を受けた部分。
その傷口からは灰色のドロリとした液体がにじみ出ている。
あれが、アイツの血ってことだろう。
「だからコレを攻撃に混ぜてあててやればいい」
ニヤリと陸人が差し出したのは、、、そば粉と水筒。なるほど。
致命傷を与えたって思わせるってことか。知的生命体ならパニックを与えられるかも。
「てかなんで蕎麦粉持ってんの?」
「いや、、、それはまぁいいんじゃんか今は」
なんとなくモヤっとする。
けど、、、今はアイツが優先だな。
「でもオレの作戦だと、水が足りないかもしれないんだよ」
陸人の言う通りだ。
水筒の水だけじゃ、ブゥちゃんに出血したかもって思わせられる量はつくれないかも。
「水ならハルルがなんとかするだろ?」
そっか。ハルルの竜種は青龍だったな。
クルドおじさんと同じ竜種だった。水のオーラを操ることができるわけだ。
「あぁ。効果範囲は狭いけどな。そこそこ生み出せるぞ」
「ならさぁ。こうした方が……」
「なるほど」
皆、いい感じでニヤニヤしてる。
イタズラが成功するって感触を感じ始めてるってことだろう。
「なら次は状況の評価だな」
「うん。まずはこちらの戦力の確認だね」
ハルルとイルルの適正ジョブは切り裂くもの。近接戦闘タイプだ。
ナナちゃんとルルルの適正ジョブは……
「私は、癒すもの」
「俺は支えるもの」
「陸人は不明だよな?」
「うん。でもだいたいの詠唱文は頭に入ってるよ」
そっか。詠唱呪文の暗記を地道に続けてたもんな。
この努力家イケメン自慢の弟め。
「なら後は呪文のイメージだな。ルルルが【エアシールド】の魔法を発動した後、それを見てイメージしながら唱えてくれ」
陸人ならうまくやるだろう。
「ガウェイン。外に出たら護衛を頼める?」
「もちろんです」
「じゃあナナちゃんを絶対守って。全力で頼む」
「わが身に代えても」
「ダメ。ガウェインも自分のことを犠牲にしないで」
ナナちゃん…… やっぱり天使だったんだね。
予想外の切り返しだったみたいで。ガウェインがキョトンとしている。
「じゃあそういうことで!」
ニシシっと笑うと、ガウェインはなんとも複雑そうな表情で頷いた。
先ほどの分析力があればガウェインなら不測の事態にも対応してくれるだろう。
そもそも光の帝位精霊だし。本調子ではないとはいえ、強いのだから。
ガウェインに攻撃にまわってもらうのも悪くはない。
けど、ここはナナちゃんのリスクを下げたい。
ナナちゃんを守ることは、回復役を守ること。これはパーティプレイの基本パターンだ。
ダンジョンでも、支えるもののシールド内で癒すものを守る。そして、仲間の怪我にそなえてもらう。
なにかあったら回復してもらえるって安心感があるから、切り裂くものは思い切った接近戦ができるわけだ。
ルルルと陸人による二重のエアシールド、そしてガウェインの護衛。
うん。守備と回復の準備は問題ないだろう。
「ナナちゃんはアネモスに連絡を取ってみてくれる? 先生を呼んでほしいんだ」
「わかった! やってみるね!」
「じゃあ俺とイルルは何したらいい?」
「ハルイルコンビは…… オレと追っかけっこな?」
「は?」
「だから追っかけっこだって。オレを全力で追いかけてくれ」
そば粉をまく役はイルル、水を降らせる役はハルル。
敵の行動を注視して、アタックや回避、撤退の指揮を執る役はオレが適任だろう。
万が一の際、オレなら少しは二人を守れるだろうから。そば粉をまく役はイルルに任せて、オレは自由に動けるようにしておきたい。
「わかった」
「任せろ」
「信じてるからな!」
拳を軽く重ね合って、意識的に笑って。互いにテンションを上げていく。
「じゃあ次は敵の評価か」
「ガウェインなら外のアーサーと連絡が取れる?」
「可能です」
「敵の特徴を報告し……」
「…… 確認できました。ご報告します」
仕事が早いよガウェイン! 頼りになる!
「武器はあの剣。衝撃力の正確な上限は不明のため回避を推奨。特殊攻撃は現在なし。こちらの攻撃によるダメージの蓄積は軽度。防御に優れている模様」
「つまり、すげぇ一発が必要ってことだな?」
ハルルの言うとおりだ。
やっぱり精霊の一撃にかけるしかない。
アーサーが必殺の一撃を放つ。そのための時間を稼げるくらい強い精霊が来てくれるといいけど。
「稼ぐ必要のある時間は、、、合計三十秒くらいか」
詠唱に二秒、精霊が招きに応じるのに十秒ってとこだろう。
イタズラの実施と撤退時間を含めると合計二十秒くらいかなやっぱり。
あと、、、
「精霊が召喚に応じてくれたら状況を説明してお願いする」
ここに十秒くらい必要だろう。
「その後、オレらはガウェインの【謁見の間】にもう一度撤退して様子を見る」
精霊が応じてくれなかったら、先生たちを待てばいい。
先生たちが援軍に来てくれたら、いったん謁見の間に入ってもらおう。
そこでまた作戦会議をすればいい。
じゃあ最終チェックだ。
「陸人?」
これまで、陸人が実際にイタズラに参加することはなかった。
だから、いつも頭の中でイタズラしてる。
今じゃ、イタズラの始まりから終わりまでをイメージして、上手くいくかどうか、失敗するとしたらどんな可能性があるかを予想する癖がついてるらしい。
「うん。大丈夫。成功するイメージが見えた」
「そりゃ心強い!」
ハルルの声掛けに、照れくさそうに笑う陸人。
そんな陸人を嬉しそうに見つめるナナちゃん。
微笑みながらも陸人をじっと見つめる視線は、熱っぽい気がする。
ナナちゃんの今の気持ちは、よくわかる。
オレも同じだから。
ずっと陸人を見ていたいんだよね。もちろん、見てることがバレたら恥ずかしいって思いもある。それでも視線を外せないんだ。だって相手の顔が輝いて見えるから。
そして、、、振り向いてほしいって思うから。
「陸人。ちゃんとナナちゃんを守れよ?」
「うん。わかってるよ!」
ニシシっと微笑みながら陸人がナナちゃんを見つめて。
あっという間にナナちゃんの笑顔に、ぱぁっと赤みがかかる。それから嬉しそうに何度も頷いて、、、少し涙ぐんだ。
あぁ、綺麗だなぁって、、、心底思う。
オレじゃ、ナナちゃんをこの笑顔にしてあげられない。ここまでの幸福感をあげられない。
「じゃあハルイルコンビはオレが守ってやるからな!」
ニシシっと笑うと、ハルルが笑って。イルルは小さく溜息をついた。
大丈夫だってイルルに笑いかけて、ナナちゃんを見る。
ありがとうって口パクで伝えてくれたナナちゃんに、ニシシって微笑みかけて。
これからもみんなの幸せを守りたいって、、、ふとそう思った。
今日もありがとございました!




