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やがて再び神となる少年は恋愛に夢を見すぎている   作者: ゆうと
第Ⅰ章:アカデメイア
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第16話:キッチン

 



「ここにも粉ついてるよ?」

「嘘!?あ、、、マジだ。どう?? まだついてる?」

「もぉ~、まだついてるよ。動かないでね?」

「へへへ。ありがと!」

 ナナちゃんさっきからまさに奇跡の笑顔を見せてくれてる。可愛い……

「ナナちゃんもだ。ここについてるよ?」

「え!? 嘘どこ??」

「動かないで」

「ん、、、、わかった」

 きゅっと目をつぶったナナちゃん。可愛いすぎると思う。

「う・そ・だ・よ!」

 軽めのデコピンをしてニシシっと笑う。

「もぉ~、、、ひどいよ!」

 両頬をぷくっと膨らませたナナちゃんも…… いい。

「ごめんって!」

 コレだよコレ。

 オレの夢見続けている恋愛! モテモテの学園生活風景はコレだよ!

 でも、あえて言おう。

 たったひとつ、小さな問題があると。

「陸人君の嘘つき!」

「ごめんってナナちゃん。ね?」

 そう。

 オレが今わき役だってことだ......

 二人の楽しそうなやり取りを遠めに眺めながら。オレは今、大鍋で蕎麦を茹でてる。さっき皆で打った蕎麦を。

 まぁ、わき役でも仕方ない。

 ナナちゃんは陸人が大好きで。陸人だってきっとまんざらじゃないはずだ。

 だってさっきからずっと…… 楽しそうだから。二人とも。

 陸人は二重症に苦しんでたから。これまで恋愛どころじゃなかったろうし。ナナちゃんだってアタックしにくかったろうから。

 それにオレは陸人が幸せならそれでいいし。ナナちゃんが幸せならそれでいい。

 だから許してほしい。

 オレがナナちゃんを好きなのは変えられない。

 ナナちゃんのために頑張れちゃうところも変えられない。

 できたらナナちゃんに振り向いてほしいって気持ちも、なくすことはできない。

 二人の幸せを邪魔する気はないから。 

 許してほしい。

 まぁ、、、ワサビはたっぷり入れさせてもらうけどな。

 すまんな陸人。

 兄ちゃんは器が小さくて心が狭いんだよ...... こんな兄ちゃんを許してくれ。


 それにしても、、、

「はぁ~、、、羨ましい」

 なんて綺麗な調理室なんだろうか。

 調理器具もいい。

 鍋やグリル用の網がたくさんある。大小様々な大きさや形のものが揃ってるし。

 それにオーブン…!

 やっぱり大きい。これなら大皿料理も作れる。大迫力のパーティ料理なんかもいけちゃうだろう。

 大猪のどデカいモモ肉を使った香草焼きや包み焼きなんか、とっても美味しく仕上がりそうだ。

 あと魚介、、、そうだ魚や貝類なんかをゴロゴロ並べて。途中でチーズでを振りかけて焼いて。

 もちろん焼き菓子もたっぷり作れる。小分けにして何回も焼かなくてもいい!

 母さんの店で出す料理をここで作りたいくらいだ。

 なんならここで出店してもいいか。昼飯を作って売りに出したら借金返済のめども立つんじゃないかな。北斗おじさんに相談してみようかな。

「もうここで暮らそっかな」

 コンロも実に素晴らしい。

 蕎麦を茹でながら揚げ物まで作れちゃうし。ご飯だって炊けちゃう。

「調理室ごときでテンション上げすぎだろアイツ」

 ハルルにはわかるまい。

「まぁ現実逃避だな」

 イルルはわかりすぎ。

「まだ? お腹空いたよカイト……」

 ルルルはわかろうとしなさすぎ。

「もう茹で上がるぞ?」

「カイト最高!」

 素早く動いたルルルはテーブルについて箸を握り締めた。

 イルルもだ。味にうるさく美食の探究が好きだからな。蕎麦なる未知の食べ物に密かに興味津々に違いない。

 ハルルは…… 既に興味なさそうだ。

 あんなに料理を教えてくれって言ってたのに。計量する段階で「俺には蕎麦の才能がない」って諦めやがった。細々と量らなくていい料理を教えてくれだってさ。

「ところでさ。陸人はカイトがナナを好きだって知ってんの?」

「ん? あぁ。でも気にするなって言ってある」

 オレのことを気にして、陸人が何かを我慢する必要はまったくないから。

 だってもう十分、陸人は我慢の日々を過ごしてきた。二重症に苦しんで……

 だからもし陸人がナナちゃんを好きになったのなら、我慢せずに自分の気持ちに正直になればいい。そう伝えてあるんだ。

「……なるほどな」

「兄さんイケメンだねって褒めてくれたぞ?」

「う~ん、、、、イケメンねぇ」

「ハルル視線がうるさい」

 どうせオレはイケメンじゃない。

 そんなことは自分が一番知ってるし。

「まぁいいけどさ。じゃあ、陸人とナナに声かけてくるわ」

「おいハルル」

「なんだよ?」

「二人の邪魔するなよ?」

 こいつは【三秒で恋をして歩く男】だ。油断は禁物。

 海人族の母譲りだといつも言いながら、老若男女問わず口説いてまわる恋多き残念イケメンだから。振られてばっかだけど。

「それナナにも同じこと言われた」

 陸人はイケメンだからな。付き合いもそこそこ長いから今更な気もするけど。ハルルがさらっと口説いてもおかしくはない。

「さすがに妹の恋路を邪魔する趣味はねぇよ」

 むしろ妹を応援してるくらいだって、へらへらと笑いながら二人のテーブルに向かって行った。

「お前ら飯だぞ!」

 楽しそうに笑いながらナナちゃんをハグしたハルル。陸人の背中を叩いて、三人で楽しそうにこっち向かってくる。

 どうやらハルルもオレと同じらしい。弟や妹には弱いってことだ。つまり、実は弟や妹が可愛くて仕方ないんだろうな。その気持ちはよくわかる。

「兄さんありがと!」

「おぉ。お待たせ!」

 兄さんの作るものはなんでも美味いんだよって陸人が笑って。ナナちゃんのオレに対する株価を上げてくれてる。さすが陸人!

「まさかカイト君の新作が食べれるなんて! 私もすっごい楽しみ!」

 おぉ...... 効果抜群。

 やっぱりワサビ攻撃はやめておいてやろう!

「今日は冷たい蕎麦に山菜の天ぷら、海鮮炊き込みご飯です」

 皆で作った蕎麦だから。太さや長さはバラバラになっちゃったけど。絶対に美味しい。

「食後にはクレープ、、、試作のデザートもあるから!」

 みんな嬉しそうに笑ってくれた。

 もちろん、ルルル以外は。

 もうすでに蕎麦で口がいっぱいだから。モグモグが止められないらしい。

「…… コレ美味すぎっだろ」

「だろ?」

 くぅ~、、、ってイルルが唸った。

 まずは天ぷら、高得点のようだ。アツアツサクサクで最高だってさ。食感にも言及するあたりさすがイルル!

「これ…… おいしぃ」

「えっとね、だし汁はね、、、燻した魚を削ってとったんだ」

 ナナちゃんがうっとり微笑む。それだけで蕎麦まで輝いて見えるよ......

「はぁ~ 毎日味わいたいかも。煮物とかにも使えそうだよねこれ」

 ナナちゃんからの大絶賛、頂きました。

「あの、あとで削った魚、、、渡そっか?」

「いいの!? 」

 あぁ...... 今日はなんていい日なんだ。

 ナナちゃんが「ありがとう!」って言いながら手を握ってくれてるのは、オレの気のせいじゃないと思う。

「カイトおかわり!!」

 ルルルありがとう。いっぱい食べてくれて嬉しいよオレ。

 でも今じゃない。今じゃないんだよ......

 オレ今、人生で最も幸せな瞬間を過ごしてるから。ナナちゃんの笑顔、至近距離でオレ独占中だから。

「ルルル。オレがよそってくるから」

 さっすが陸人! ワサビ攻撃やめておいてよかった。

「ナナ、陸人を手伝ってやれよ。なんか困ってるっぽいぞ?」

「――っ!?」

「あ、ほんとだ。ちょっと行ってくるね」

 ハルルめ。

 余計なことを......

「悪ぃな。兄としては妹を応援してやんないとな?」

「まぁ、、、それはそうか」

 後ろの方から、ナナちゃんと陸人の楽しそうな声が聞こえてくる。

 陸人が楽しそうで良かった。ナナちゃんもだ。

「で、カイトはどうする気なんだ?」

「どうって、、、何が?」

「さっさとナナを口説けばいいのにって話だよ」

「ハルルとは違うんだよオレは」

 三秒で次の恋を探しに行ける程、たくましくない。

「ナナに振られたら次の恋を探せばいいだろ?」

「おいおい。振られることを前提にしてやんなよ……」

 イルルがフォローしてくれた瞬間、またも背後から楽しげな声が聞こえてきた。

 どうやら氷を落としちゃったらしい。

「好きになるのも付き合うのも、振られるのも全部、前進だろ?」

「なんでだよ?」

 ハルルの恋愛論。さすがにちょっとぶっ飛びすぎてない??

「全部将来の伴侶に出会うためだって思えば、振られるのも前進だろうが?」 

 さすがハルル。

 メンタルだけじゃなく考え方までイケメンが染みついてるとは......

「まぁ、、、、そうかもしんないけどさぁ」

 考え方は理解できる。

 でもそれって、寿命の長い種族ならではの考え方かも。竜人族のように。

 この広い世界で、数十年くらいの年齢差を超えて、自分が生涯を共にしたいと思える誰かを探すだけの時間的余裕がある種族だから。

 それに竜人族は、武に生きる民。

 弟子をとって、自らの技の継承と発展を続けることに価値を置いているらしい。

 師匠や弟子探しも、これぞと思える相手を時間をかけて探し求めるとか。伴侶探しみたいに。

 技の継承と発展が見込めるなら、別にわが子でなくてもいいらしい。まぁ、伴侶やわが子だけに全てを求めないって人生観なんだろうな。 

「ナナは海人族だから。文化的には愛があれば一夫多妻も多夫一妻もありだぞ?」

「……でもそれヒュム族的には結構キツイんだよ」

 海人族も長命だ。

 一人と添い遂げるより、長い人生のなかで様々な人との出会いや愛を楽しむ文化があるらしい。

 ひょっとしたら、長い人生を一人と添い遂げることの方が難しいのかもしれない。別れることを前提としてるのにも、色々な理由があるのかもしれない。

 あと、歴史も関係してるかもってオレは思う。

 海人族は長らく、他種族との交流を断っていたらしい。

 それって多分、ずいぶんと変化に乏しい時期だったんじゃないかなって思うんだ。食べ物とか音楽とかも含めて。

 変化に飢えてるっていうと違うかもしれないけど。

 でも、変化に価値を見出す文化が生まれたのかもしれない。長い人生の中で、色んな人との出会いと別れを繰り返すことを良しとするって恋愛観が、海人族には支持されたんじゃないだろうか。

 けど、この恋愛に関する価値観は、短命なヒュム族とは違いが大きい。

 ヒュム族は体も弱く、短命だから。貧しい土地で食糧難に怯えながら生活してきた時期がずっと続いていたから。子孫を残すって恋愛観が支持されてきた。

 食料の調達や農業なんかも、苦難を皆で支え合って乗り切る必要もあったそうだし。家族や親族っていう血の繋がりを大事にする価値観は、長命な他種族より強いと思う。

 それでも、ヒュム族の価値観もだいぶ変わってきたんじゃないかなって思うんだ。

 海人族や他種族と交流が深まるようになったから。

 オレは同性で付き合うことにも全く違和感がない世代。でも、父さんより年上の、貧しい土地でずっと生きてきた世代の人たちは、子孫を残せない恋愛関係をあまり快く思わないらしい。

 そしてオレは、、、付き合うならその相手は一人がいい。向こうにもオレだけを選んでほしいって思う。正直、同時に複数の人と付き合うっていうのは、、、イメージがわかない。互いにとってそれが幸せだってイメージが、全くわかないんだよなぁ。

「でもそれ、海人族的には珍しい考え方だぞ?」

「…… わかってるよ」

 海人族は、重婚も同性婚も全て、愛があれば尊いって考え方だもんなぁ。

 歴史的な背景や価値観からだろうけど、同時に複数の人と付き合うのも違和感がないらしい。

「まぁ妹たちの次くらいには応援してやっから。なんかあれば相談しろよ?」

「おぅ! 頼りにしてる!!」

 ハルルとイルルは、なんだかんだでオレにも優しい。 

 ルルルもオレに優しいけど。今は恋愛トークよりも食べ物ってところだろうな。 

「なぁカイト、、兄さんたちも」

「どうしたルルル。あ、おかわりか?」

「違う。空が、、、暗い」

「え? 雨??」

「多分違う。あれ、、、ラグナだよね?」

 ルルルが質問した意味がわかった。

 ラグナが、、、見たこともないくらいの大きさになってる。

 空を飛ぶラグナが向かっている方向には、、都市のゲートがあったはず。

 あ、、、、マジか!? 首を反らしたってことはアイツ……

「伏せろ!!」

 ドラゴンブレスを吐くつもりだ!!


 眩い閃光が室内に入りこんで、、、空気が震えて爆発音が……響いた。

 アカデメイアが、いやひょっとしたら都市全体が震えてるかも。

 ラグナのドラゴンブレスは、、、多分、迎撃するための一撃だ。つまり誰か敵がこの都市に攻撃を仕掛けてきたってことになる。

「アーサー! ガウェイン!」

「主よここに」

「ガウェイン! ここでみんなを守って!」

「承知」

「アーサーはオレをラグナの所に運べる?」

「主よ……」

「何?」

「おそらく増援が必要です」

「え?」

 ここは、、、【謁見の間】だ。

 一体、いつの間に......

 でも良かった。陸人もナナちゃんも、三兄弟もここに居る。

「みんな大丈夫。ここはガウェインの特殊空間だから」

 隣に控えたガウェインに確認する。

「どういうこと?」

「守れ、とのご命令でしたので」

「つまりアーサーは……」

「えぇ。侵入者を迎撃中です」

 



今日もありがとうございました!

各種族の歴史や文化、寿命の長短。こういった相違点が、恋愛観や家族観にどのように影響しているか。

また、他種族との交流が乏しかった世代と、盛んになったカイトたちの世代で、恋愛観や家族観にどういった変化が生じてくるのか。

そして異なる種族の間に生まれた子どもたち個々人の恋愛観や家族観には、どのような多様性が生まれるのか。

ハルルとカイトの恋愛トークは、書いていてとっても楽しい部分です。



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