第14話:アカデメイア改革
アカデメイア。
ダンジョンがこの世界に登場したことで生まれた組織。
設立に関わったのは、ヒュム族のダンジョン初挑戦メンバーなんだって。父さんや北斗おじさんも、そのひとり。
父さんが言うには、ダンジョン攻略のために人々が知恵を寄せあったことがアカデメイア誕生のきっかけだったらしい。ダンジョンへの挑戦や攻略が、冒険者やその出身地にもメリットをもたらすとわかると、アカデメイアは一気に大きくなったんだ。そう入学手続き資料に書いてあった。
メリットの代表例は桜餅。
ダンジョンに挑戦すると桜餅がもらえる。冒険者の出身地に、桜餅や食料、貴重な薬草なんかが提供される。
特定の深い階層まで到達すると、神とされる存在から更なるご褒美もあるんだ。
もちろん攻略者が出るともっとすごい。作物の種やダンジョンギア、たまに新たな魔法をつめたコアなんかが神からのご褒美になる。綺麗な水や穀物なんかも大サービスされて、ちょっとしたお祭り騒ぎになるんだ。
こんな出来事が続けば、誰にでもわかる。冒険者を育んだり支えたりすることが、みんなのメリットになるってことくらい。冒険者はみんなの憧れのまとで、皆の生活を豊かにしてくれる稼ぎ頭で、とにかくカッコいい存在なんだ。
だから冒険者を目指す若者は多い。自分の生まれ故郷を豊かにするために。
もうひとつ、若者が冒険者を目指す理由がある。
もちろん、、、超絶モテるためだ。
ダンジョンを全て攻略したパーティなんて、もう街や里では英雄扱い。英雄って称号は星をドラゴンの襲来から救った伝説のラグナだけのものだけど。攻略者たちの名前は「このままいけば第二の英雄になるぞ」なんて噂と一緒に星を駆け巡る。だからもう星レベルで超絶モテる。救星メンバーが言うんだから間違いない。
ちなみに攻略者が出て皆が盛り上がってる間、ダンジョンはしばらく休止期間に入る。
この間に里帰りをする冒険者は多いらしくて。ホープの街も人通りが少しさみしくなるんだ。みんな稼ぎを持って帰って、地元で後継者の育成にあたってるんだって。
休みが明けると、ダンジョンには新たな報酬やトラップ、未知のフロアなんかが登場して。また挑戦者がダンジョン近辺の都市に集まってくる。
こんな感じで、ダンジョンは冒険者にも、冒険者以外の人々にとっても、生活の重要な一部になっているわけだ。
若者のいろんな理由も手伝って、ダンジョンに挑戦する冒険者たちの数が増える。すると、アカデメイアもどんどん発展する。アカデメイアはダンジョンに関わることが教えてもらえるから。
ダンジョンで冒険者が試されることはたくさんある。
まずは知力。トラップやマップ作り、スフィンクスとの問答、そしてバトルも。ダンジョン攻略は本当に頭を使うことが多い。魔法の詠唱なんかも、呪文の正確な詠唱や速度が魔法の効果に関わるし。
もちろん、体力も必要だ。脱出魔法【リターン】を使うことも多いけど。長期的にダンジョンに潜ったり、深層の広大なフロアを探索したり、強敵とバトルしたり。探索の途中やお宝を前にして強敵と遭遇しあえなく脱出、、、こんな残念そうな話を、うちの飯屋で冒険者がよく語ってる。
魔法や戦闘、それにスフィンクスの問答に備えた教養。アカデメイアではダンジョン攻略に必要な色んなことを、色んな専門家が教えてくれる。
あと薬草なんかの調合、武器や防具の制作や修理といった鍛冶、モンスターの生体や魔法に関する研究施設もアカデメイアはかねている。もちろんこれらを学べる科目もある!
つまり、アカデメイアって陸人が教えてくれた恋愛物語…… その舞台によくなる学園や学校と似てるんだよ。イベント、放課後、先輩や同級生、ライバル登場で嫉妬に勘違いからの大恋愛! みたいなね。だからオレは確信しているんだ。アカデメイアでオレはモテモテ学園生活を送れるに違いないって。
さて。
そんな舞台をどうするつもりなんだろうか…… 父さん信じているからな。
「さてと。まずは現在の科目を確認するぞ」
父さんが白幕に提案内容を映した。
紙に書いた資料を【カメラ】の魔法で映したものらしい。これだけでなんか仕事ができるように見えるから不思議だ。普段は裸族のくせに......
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<現在の開設科目>
・魔法学
・武術
・薬草学
・生態学
・鍛冶
・教養
・精霊学
<仕組み>
・十二歳以上で入学可
・好きな科目を繰り返し履修可
・卒業試験は上記から五つの科目を選択して実施
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「誰かこれをいい感じに改革してくれ」
両手を顔の前で組み合わせながらとても残念なことを言う。きりっとしたイケメンモードで。まさか、、、父さん??
「いい感じに改革してくれ」
え!? 同じこと二回言った!? まさか本当に?? そのイケメンモードでノープランをごまかすつもり??
救星のメンバーは無言で父さんを見つめてる。
ロダン兄ちゃんだけケタケタ笑ってるけども。
まさかこれがオレの父さんの仕事っぷりなのか......
「……はぁ。じゃあ親の責任を子どもにとってもらうか」
クルドおじさんがため息をつきながら放ったとんでも発言。
「へ!?」
「えぇ。カイトと陸人に素案の作成を任せましょう」
拾って賛成したのはヘンゼルさんだ。
まっすぐに見つめられると不安になる。
相変わらず全てを見通すような視線。なんとなく居心地が悪くなるんだ。
「私は無駄が嫌い。つまりあなたが素案を作ることは無駄ではないと判断している」
ヘンゼルさんの宣言は皆さんの合意を生んだようで。
いつの間にか素案作りはオレたち兄弟の手に委ねられることになったらしい。
「兄さん! 面白そうだからやってみようよ!」
陸人が楽しそうに笑って。チョークを握りながら黒板の前に立った。
「よしやってみるか!」
頭のいい陸人がいれば、きっと大丈夫だ。オレたちは最強の兄弟なんだから。
「兄さん。とりあえず問いの設定だね」
「あぁ。あとは状況の確認、現状の評価も必要だな……」
「そうそう。ここは、、、、育成型ギルドをつくろうか?」
「おぉ! 陸人と同じこと考えてた。そうするとこうした方が、、、」
「そっか! その時期からの方が効率的か! 兄さんやっぱり頭いい!」
「いやいや陸人ほどじゃないって、、、」
黒板を読み返して。
お互いに最終確認をしてハイタッチを交わす。
意見を出し合って補い合えたからかな。ちょっとした達成感があって気分もいい感じだ。
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<問い>
・アカデメイアをいい感じにするには、何をどうすればよいか?
<状況>
・星外のモンスターの駆除や都市の防衛等で高ランクの人手が必要
<現状>
一.高ランクの個人及びパーティは少ない
二.ランクA以上の個人は少ないが、ランクA以上のパーティ数はそれなりに多い
<素案>
一.入学後早期に若手でパーティを結成させる ⇒個人での科目履修からグループ単位での科目履修へと変更(個人での履修も認めつつ)
二.まずは得意な攻撃パターンや守備パターンをつくり上げてしまうことに学びを特化させる
三.冒険者の育成と冒険者の実務研修を一体化 ⇒都市防衛ギルドを設立してダンジョン攻略に若手パーティをつれていき指導 ⇒報酬を出す
<素案の理由>
・いきなり個人で星外に対処することを目指すより、パーティで対処することを目指す方が現実的なため
・個人のスキル ≦ パーティプレイの習熟を図る上で素案の一から三は効果的
<状況改善の見通し>
・どんな状況でも高いパフォーマンスを発揮する汎用型パーティよりも、特化型パーティの方が、育てる時間は短くて済むと考えられる
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万能な個人やパーティの育成よりも、必勝パターンみたいなパーティプレイをつくることを優先する案だ。得意な属性攻撃や攻撃や防御、回復なんかの手順をつくり上げてしまう。
そのためにアカデメイア時代からパーティを組むことを推奨してみた。あと、先輩パーティから学ぶ仕組みを取り入れてみた。
「皆さんどうでしょうか?」
会場はシーンと静まり返っている。
「ウハハハハ!!!!」
黒板を見ながら急にロダン兄ちゃんが爆笑し始めた。
「え!? まさかの爆笑!??」
ひどいよロダン兄ちゃん......
「や、すまんすまん!」
謝りながら笑い続けるロダン兄ちゃん。父さんは苦笑しながら頭を掻いて…… 母さんは口をポカンと開けてる。
「大和。あれを映して」
ヘンゼルさんの言葉を想定していたらしい。父さんがすぐに白幕に資料を映し出した。
「これは……」
「えぇ。今回の事態を踏まえて私が考えた素案。救星メンバーには先に私の案を示しておいた」
驚いたことに、、、表現は違うけどオレら兄弟とほぼ同じ案が写し出されている。
「実証終了ね」
ヘンゼルさんが救星メンバーを見渡して。全員が頷くのを確認したようだ。
「あなたたち兄弟の知力は成熟したエルフレベルにある。少なくとも私と同じ案を考えるレベルであることは実証された」
会場に静けさが戻って。皆の視線がオレたちに集まるのを感じる。
「カイトに陸人。この状況下では二人の知力も有効な資源」
知性豊かな救星の魔導士の言葉に皆が頷いて。
オレは少しだけ嫌な汗を描いている。
「でもオレはまだ……」
「自分を偽って生きる必要はない」
ヘンゼルさんの言葉が、今日も胸に突き刺さる。
ヒュムの十二歳は長命な他種族と違い、まだまだ精神的にも知的にも幼い年齢だ。
特に海人族や竜人族は心身の成熟が早くから始まる。三姉妹や三兄弟、それに陸人もそうだ。
でもヒュム族は違う。心身の成熟が始まるのが遅く、他種族に比べると幼い時期が長いと言われているんだ。
アカデメイアへの入学許可が下りる年齢は十二歳。
でも、十二歳で入学が認められたヒュム族はいない。オレ以外には……
「恐れなくていい」
ヘンゼルさんの声音が優しく胸に沁みて。視線をあわせると微笑んでくれた。
私もかつてはそうだったと、、、少しだけ寂しそうに呟きながら。
「周囲はもう受け入れいている。あとはアナタだけ……」
ニシシっとロダン兄ちゃんが笑って。父さんと母さん、、、オレ以外の皆が笑ってて。
強張ってた体から力が抜けていくのを感じる。
「自分のことを受け入れるだけでいい」
そう言われて思い出すのは、、、少し寂しい自分の過去のこと。
オレにはヒュム族の友達がいないんだ。
同族の同年代の友だちがひとりもいないんだよ。
だって話が合わないから。どこかでガキくさいと思ってしまうから。追っかけっこ遊びの何がそんなに楽しいのか、、、もう何年も前からわからなくなってる。
それが伝わるんだろうな。
付き合いが悪いとか、ノリが合わないと言われて。皆、離れていったんだ。
「自分をおかしいと思わなくていい。周りに気を使って無理に子どもの振りをしなくていい。ここにいる誰も、あなたのことをおかしいとは思っていない」
いつもより丁寧に、ゆっくりと話してくれる。
でも、、、楽なんだ。
周りに合わせる方が、ガキっぽくしてる時の方が楽なんだよ……
だって自分が他人と違うってことを直視せずに済むから。
「いつの日か、自分をごまかすことにも限界が来るの」
「・・・・」
ヘンゼルさんはそれを身をもって理解しているのかもしれない。
早熟の天才。そう言われ若くしてネオ・アールブ教の司祭の座についた経歴を持つヘンゼルさん。
その教団に騙されていたことに気が付いて。教団から離脱したって話だ。
そうやって学んだことを、、、今オレに教えてくれてるのかもしれない。
「自分を偽るのは止めなさい。誰も得をしないわよ?」
救星の魔導士。
表情の変わらないことに定評のあるヘンゼルさんが、、、楽しそうに笑った。
部屋中の皆がポカンとした表情になって。
それが間抜けすぎて。
とっても面白くて。
気が付いたらオレも笑顔になってる。
「ウハハハハ! こいつは珍しいもんを見た! 雷神様が感電するくらいにな!」
ロダン兄ちゃんの爆笑にみんなつられて。
スンっと真顔に戻ったヘンゼルさんが静かにお茶を飲んで。
オレは父さんと母さんが笑ってる顔を見て、ビックリするぐらいホッとして。
笑いすぎて涙が出たって、ごまかすのに必死になった。
「カイト、生まれてからずっとだ」
「えぇ、母さんもずっとよ」
「カイトを誇りに思ってる」
「忘れないでね」
「、、、うん」
救星夫婦として注目を集める二人。とんでもなく忙しいの二人。
ずっと同族の友達ができないオレのことを気にかけてくれてた。
だから心配かけたくなくて。
だからガキの振りをして。友達をつくろうとして。
自分の行動を子どもっぽく見せようと偽って。
いつの間にか偽ることが自然になって。ガキっぽく振る舞ったり、ガキっぽく考えたりする癖が身について......
でも全然、、、友達づくりは上手くいかなくて。
余計に二人に心配かけて......でもやっぱり上手くいかなくて。
ケンカばっかりしてた。
見かねた父さんたちは仕事を全て放り投げて。旅をする機会を作ってくれたんだ。
クルドおじさんの家族や救星メンバーなんかと一緒の旅は楽しかった。
陸人の症状を改善する術を探し求めての旅だってみんな言ってたけど。それだけじゃないってことはよくわかってた。
三バカ兄弟なんかとオレがもっと仲良くなれるようにって。楽に生きていいんだってオレが気が付けるように。忙しいのに時間をつくってくれたんだと思ってる。
実際、オレは旅を通して救われたし。父さんと母さん、クルドおじさんや奥さんたち。そして三バカ兄弟に。
そして誰よりも弟に。
旅の間、キャンピングカーの魔法で創られた建物の中にこもりながら旅を続けてた陸人。不自由な生活に苦しんでるはずの弟に、救われたんだ。
皆が外の世界を楽しむことを妬みもせず。皮肉も言わず。文句も言わず。
むしろ「たくさん教えてほしい!」って言ってくれて。明るく、前向きに、自分の症状と向き合ってた。陸人は自分が他の人とは違うってことを、症状と付き合って生きていくって自分の人生を、認めて受け入れてた。
その姿を、心底カッコいいって思った。
それからだと思う。
陸人の自由を取り戻すことは、オレの理由になった。同年代のヒュムたちとオレが違っていてもいい理由に。自分の力を伸ばしたいって、最大限に高めたいって理由に。
自分の力を使って、頭を使って、体を使って。解決策を探してやるんだって。
だから恥じることはない…… ちょっとずつ、そう思えるようになってきてたんだ。
でも、ガキっぽく振る舞うのが染みついてるところもあるし。
何よりも、人と違うって思われるのが怖いって気持ちがずっとあって……
あぁ、、、そっか。
本当に、ヘンゼルさんの言う通りだ。
自分で自分を偽ることを止められなかったんだ。
でも、、、このままじゃいけない。
力になりたいんだ。皆の力になりたい。この星を救う力に、、、なりたい。
だからもう偽ってる場合じゃない。もっと自分を高めないと。
「父さん、母さん。それに陸人。クルドおじさん、、、みなさんも。ありがとう」
ニシシっと笑ってしまえば、皆もニシシっと笑ってくれて。
ぐっと気持ちが楽になった。
「これで本当に大人の仲間入りだな?」
クルドおじさんが笑いながら、改めて誕生日おめでとうって言ってくれて。
ちょっと胸が熱くなった。
イケメンのおじさんには天罰が下ればいいとか思っててごめんなさい。
「そうね。もう大人なんだから寝坊癖と、、、あとすぐ服を脱ぐ癖は止めてね?」
「そうそう。たまに裸で外をウロウロしてるもんね?」
母さんとルルさんのツッコミに皆が笑う。
これまでだったらここで、「ちょっとやめてよ恥ずかしい!」なんて言って。おどけて見せてた気がする。
でも、、、もう大丈夫だ。
「それは父さんの影響だと思うよ?」
ニヤリと笑いながら端的に反撃。
ケタケタケタと真っ先に笑ったのはロダン兄ちゃんだ。
「あとクルドおじさんの影響でもあるかな?」
さらにニヤリと笑うとおじさんがお茶を吹き出して。ルルさんに耳を引っ張られた。
あっと言う間に皆の笑い声がさらに大きくなって。
その大きさの分だけ、気持ちがまた楽になっていく。
もちろん、誰もオレの意見を否定しない。父さんも笑ってる。
「それでいいのよ」
いつもの淡々とした口調で告げた後、、、ヘンゼルさんは見せてくれた。
今日一番の笑顔を。
今日もありがとうございました!




