第13話:救星会議
救星会議。
その名の通り救星メンバーで構成される国際会議だ。
審議の結果は各国の王や領主に伝えられる。その内容は各国の政策を左右するほどの影響力を持つんだって。
今回は父さんと母さん、ヘンゼルさんの連名で召集された。
会場は領主の建物、その二階。
大きなベランダからは美しい中庭が一望できる。
花々が揺れていいにおいがする。小さな小川のせせらぎ、小鳥のさえずりまで聞こえる。来賓たちを迎えるための特別な会議室だ。
赤と白を基調とした巨大なテーブルや椅子は高級感たっぷりで。オレが座ったら服の汚れが椅子についちゃいそうでちょっと怖い。
深く腰掛けないように、なるべく椅子や机に触れないようにしよう。
本日の来賓は救星メンバー。
クルドおじさん、ロダン兄ちゃんと婚約者のカルラさん。ペルシャ先生、そして魔人族の貴族カモミールさんだ。皆、親善大使としてこの都市に住んでるんだ。
今日はクルドおじさんの奥さんたちも揃っている。
「お茶をどうぞ」
「あらカイト君が淹れてくれたの? ありがとう」
ララさん。ナナちゃんたち美人三姉妹のお母さんだ。穏やかでおっとりした雰囲気で。いつもオレに優しい。この穏やかさを、ぜひうちの母さんにも見習ってほしい。
「ルルさんはミルクティだったよね?」
「さすがカイト。私の好みをわかってるじゃない」
ルルさんは元気いっぱいでやんちゃな感じ。こちら三バカ兄弟のお母さん。
髪は短めで、健康的な美しさがとっても素敵だ。キャラは、うちの母さんと似てる。三バカ兄弟がバカをやらかすと、なぜかオレも一緒にルルさんに叱られることになる。ほぼ息子と同じ扱いなんだ。まぁオレからしても、第二の母さんといっても過言ではない……
「ロロさんのお口に合うといいんですけど」
「うふふ。カイト君の淹れてくれるお茶はいつも美味しいわよ?」
ロロさんはすっごい気品あふれる人。鮮やかな赤い花束がよく似合うって、小さい頃に思った記憶がある。
「チビ達にはジュースをやろう!」
「やったぁ!」「ありがとうカイト兄ちゃん!」「兄ちゃん大好き!」
今日も三つ子は元気そうだ。ココ、トト、リリの三姉妹。
とりあえず一人ひとり抱っこして。高い高いをしてあげる。
すると天使の笑顔が大炸裂! はぁ……かわいい。
まだ幼いけど、既に美人になる未来は確定しているようなもの。このままオレのことを大好きいてほしいものだ。もはや心境的にはお父さんだなって、ハルルにいつもツッコまれるけど。カワイイんだから仕方ない。
ちなみにクルドおじさんの奥様はみなさん、ピンク色の美しい髪で、透き通るような美白の肌。真珠のような滑らかな肌は、美人三姉妹や三バカ兄弟、チビ達にも受け継がれている。
美の追究を怠らない奥様達は、なんと化粧品や美容グッズの大手メーカー「マーメイド・ロード」の創業者でもある。つまりあの三バカ兄弟、イケメンで金持ちってわけだ。陸人が言うには、勝ち組ってやつらしい。
神様って本当に不平等だと思う……
いかんいかん。
ひがんじゃダメだ。ひがむ男はモテないらしいから……
「皆さんも良かったらお茶をどうぞ!」
家から持参した紅茶を入れた大きめのポット。あとミルクも用意してある。お好みで加えて頂こう。それにケーキも小分けして皿にのせておいた。
「良かったらオランジの果肉を使ったケーキをご賞味ください」
お口に合うといいんだけど。
皆さんが口々に御礼の言葉を言ってくれるので、ちょっと恥ずかしい。
照れ隠しに一礼して視線を逸らすと、ムギュっとした衝撃が体に走る......
「ぐっ、、ふっ!?!!!」
このけしからん感触は間違いない、、、カモミールさんだ。
「あぁんカイトぉ、、、今日も最高ね。ケーキもとっても美味しくてよ?」
ますますバカ力でムギュっとされて、つい抵抗してしまう。
「きょ、、きょう、しゅく、、、です」
グググっと力を込めて体を離そうとすると、ますますムギュっとされてしまう。
ヤバい。ドキドキする。
なんでこの人は毎回、距離感が異常に近いのか。
魔人族のカモミールさんは、王家の血を引いていて。本日の服装も、とってもお値段が高そうな感じだ。シルクかなこれ。ツヤツヤしていて頬に触れる感触も最高。
「大和! カイトは私が婿にもらってもいいよね?」
「好きにしろ。カイトも十二、自分で決めれる年齢だ」
父さん?! カモミールさんの相手をするのめんどくさいんだろ?? だからってためらいもなく息子の将来を差し出すのか!?
「ダメよ。カイトには好きな人がいるんだから。ね?」
「ちょっ!? やめてよ母さん!!」
救星会議でオレの恋愛トークなんて。
恥ずかしいことこの上ない。ナナちゃんのお母さんも楽しそうに微笑んでるし!
つられて皆さんクスクスって笑ってるし……
「ナナは誰にも嫁にやらん!」って怒ってるクルドおじさん以外は。
あ、あの人も笑ってない。
もちろん、、、
「カイト座りなさい。カモミールもふざけないで。始めるわよ」
そう。ヘンゼルさんだ。
「はいはいわかりました。じゃあねカイト」
頬にお別れのキスの感触がして、ついニヨニヨしてしまう。
「あらあら。ナナに言いつけちゃおうかしら?」
「ちょ!? お願いしますそれだけは止めてよ!!」
「冗談よ。大丈夫大丈夫」
本当だろうか。ララさんの目が笑ってない気がする……
はぁ……
なんかもうグッタリだ。会議前に。
フラフラ歩いて席に辿り着くと、陸人がニヤニヤ笑ってる。
とりあえずコツンと拳骨を落としてみたら、楽しそうに笑った。
「始めるわね。私からは提案が三件ある」
おっと、、、始まった。救星会議。
どんな感じなんだろうか。
この星を左右する有名人たちの会議風景。ちょっと興味ある。
「これを見て。ひとつめの提案に関する根拠資料よ」
会議室の白幕にダンジョンの景色が写し出された。
映像を記録する魔法で、確か【カメラ】って魔法だ。それにしてもヘンゼルさん。いつのまに呪文を唱えたのか。高速詠唱マジでエグい。
「これは、、、モンスター同士が争ってる?」
「あぁ、、、見たことない光景だな」
父さんとクルドおじさんの意見に皆も頷いて同意を示した。
「深層ではモンスターが争いを繰り返していたわ」
星外のモンスター。そしてこの星のモンスター。両者がダンジョンの中で争い始めてるわけか。
「それにしても見たことねぇモンスターばっかりだな」
ロダン兄ちゃんが不気味なモンスターを指した。
「えぇ。これらは先日の天啓によれば竜界と半獣界の魔物でしょうね」
こないだ倒した三つ首のモンスターの姿も見える。ドラゴンの亜種みたいな。
あと、体の右半分が牛で左半分が火傷した人のようなモンスターがたくさん。
「ダンジョンが星外の魔物に制圧される前に数を減らすことを提案する」
ヘンゼルさんの提案を父さんが審議にかけ、満場一致で可決された。
ダンジョンはこの世界の仕組みの根幹だから。守ることに異論はないとのことらしい。
「次の議題。こちらはカイトと陸人が証人」
ヘンゼルさんからオレたち兄弟に、皆の視線が集まる。
陸人がさっと席を立って。あわててオレも立ち上がった。
「カイトが召喚した光の精霊が陸人に憑依。二重症の劇的な改善に至る」
会議前、陸人は皆に抱きしめられてた。たっぷりとお祝いの言葉をもらいながら。
皆、事情は理解しているってことだ。
「陸人。精霊憑依を解いても問題ない?」
「はい、多少なら」
陸人の体質改善、早くも少しずつ進んでいるみたいだな。
「セイヤ、出てきてくれる?」
すると陸人の胸から光球が浮かび上がって…… 幼体モードのペガサスがテーブルの上に舞い降りた。
陸人がハグしながら皆に紹介すると、ペガサスは嬉しそうにひと鳴きして。
父さんが頷くと、陸人はすぐにペガサスを憑依させた。まだまだ無理は禁物だからな。
「見ての通り。憑依した精霊が調光の膜を陸人に同化している」
ヘンゼルさんが皆と視線を合わせて。
「ヒュム族の大和が息子。名をカイト。彼が【偉業】を為した。公認を審議願う」
いつもと変わらない口調で宣言した。
「審議を行う。ヒュム族の大和が息子。名をカイト。彼が【偉業】を為したことを公認するか?」
「異議なし」「オレっちもだ」
クルドおじさん、ロダン兄ちゃん。
それから皆さんが口々に同意してくれた。
「では二重症にかかるカイトの【偉業】は公認されたこととする」
ヘンゼルさんから拍手が起こって。皆さんからおめでとうの言葉をたくさんもらって。
陸人と二人で頭を下げた。
「では次の議題。カイト。あの光の精霊たちを呼べる?」
「は、、はい! アーサー、ガウェイン。出てきてくれる?」
「主のおそばに」
鎧姿の少年王アーサーと少年騎士ガウェイン。
音もなく現れて。片膝をついてオレの両脇に控えた。その仕草も様になってカッコいい。
「深層では助けられた。改めて礼を言う」
「主の命に従ったまで」
あっという間に会話が終了。
ヘンゼルさんも精霊たちも、どちらもとっても素っ気ない。けど、価値観はあってるんじゃないだろか。無駄なことは話さないっぽいしね。
「ちなみに彼らは、この星で確認できる最高位の精霊よ」
「は? いやまさかそんな…… 帝位精霊だって言うの?」
慌てて立ち上がったのはカモミールさん。
父さんも立ち上がっている。まさか帝位精霊だとは思っていなかったと、驚きの言葉を口にしながら……
「だとしたら実態がないはずでは?」
ララさんも信じられないらしい。
「光だった彼らに名づけて具象化像を提供したのはカイトよ。この目で見た」
ヘンゼルさんの確認に、頷いて同意する。
「それに私は体験した。伝承通り、彼らにはできる」
ヘンゼルさんの言葉で、皆の視線が鋭くなった気がする。
できるって何の話なんだろう。
「カイト。精霊たちに命じてみてくれるかしら」
「えっと、、、何をでしょうか?」
「威を示せ。それでいいはず」
よくわからないけど。とりあえずヘンゼルさんの言う通りアーサーに命じる。
威を示せと……
「―――っ!?」
一瞬のうちに部屋がまばゆい光に包まれた。
黄金色の濃厚な光が生み出す不思議な空間に会議室が早変わりした。
でも机や椅子、壁なんかは消え去ってる。会議の出席者の姿が互いに確認できるだけで、紅茶のカップなんかもどこかに行ってしまった。
それから徐々に光が弱まって、、、もとの会議室に戻った。
「今のは、、、【謁見の間】?」
ロロさんの問いかけにヘンゼルさんが頷いた。
「えぇ。帝位精霊が神気によって創出する独自空間」
「精霊の属性で空間全体が満たされ、彼らの望むもの以外は立ち入ることを認められない」
ヘンゼルさん、そしてカモミールさんの説明に頷いたのはアーサーだ。
「この空間に招かれて私は危機を回避できた」
「それってつまり、、、救星の魔導士ヘンゼルでも……」
「えぇ。深層を一人で攻略することは既に困難なレベル」
カルラさんが驚いたように目を見開いた。
つまり、ランクAだけじゃなく既にランクSの個体が流入してきている可能性があるってことか。これは、、、恐ろしい話だ。
「その話を始める前に【偉業】の公認を審議しましょう」
「ロロの言う通り。光の精霊召喚、そして帝位精霊の召喚。カイトがこの二つの偉業を為したことを公認するよう提案する。審議願う」
「異議なし」
またも満場一致で認められ、拍手が起こった。陸人に促されて、慌てて立ち上がって礼を述べる。それにしても帝位精霊の召喚も【偉業】だったなんて...... 知らなかった。
「ではヒュム族の大和が息子カイト。彼が為した三つの偉業について世界に公表する。二重症の解消法についてはその詳細を添えてるものとする」
父さんの確認に拍手で承認の意が示された。
「それではダンジョンについて。駆除には相当の戦力が必要ってことよね」
母さんの問いかけにヘンゼルさんが頷く。
個人ならランクA、グループならランクB以上じゃないと役に立たないと、ヘンゼルさんは見立てたようだ。
なんとも厳しい基準だと思う。
ランクBのグループだって街では一目置かれる存在だ。ランクAなんて、個人でもグループでも超人気者になれる。モテモテだって噂だ。
高ランクの冒険者はそれぐらい貴重な人材で、、、人々の憧れの的なんだ。なかには、父さんたちのように物語がつくられるような冒険者もいる。
まぁ、、、そう言えばオレはランクSだけど?
「それは都市の防衛においても同じね」
「そこでアカデメイアの組織改革をオレから提案する」
「え!?」
父さん……
オレがモテモテの学園生活を送ることになる予定の舞台を…… アカデメイアをどうするつもりなんだ?
今日もありがとうございました!




