第11話:少年はまたも夢を見る
ディーテ先生の声に誘われるまま意識を手放したのに。
この世の楽園、つまり先生の膝枕にいるはずなのに。
気が付けばまた、あの夢を見ているらしい。自分の体が空中に横たわっている感覚がする。
『カイト様、、、ロココです』
イケボさんの声が頭に響いて。重たい瞼が開き始める。
意識はまだボンヤリしているけど。
あぁ、、、やっぱりそうだ。
夢を見ている。そうわかるくらいには意識がハッキリしてきた。
『皆様すでにお揃いでございます』
「そうなの?」
手を引かれるまま進み。目の前の椅子に腰かけて、、、ようやくわかった。
夢の中で食事をするようだ。
テーブルの上には見たこともない豪華な食事が並んでいる。この緑のは何だろう? 氷を削ってあるみたいだけど......
『ブラッディオレンジジュースでございます』
そっと差し出されたジュースを口に含んだ瞬間。両目がカッと見開いた。甘酸っぱくて冷たくて果肉がいい感じで、、、最高に美味い!
夢だけど。わかってるけども。夢にしておくのはもったいない! せっかくだからこの緑のも食べてみよっと。
「——っ!? なにこれヤバい」
『それは抹茶かき氷でございます』
ロココさんが説明をしてくれる。
削った氷に果物から作ったソースをかけてあると。それにソフトクリームなる牛乳でつくった何かを一緒に食べた瞬間、頭がき~んとなった。でも美味しい!!
『フフフ。喜んでもらえたようね』
『あぁ。どうやらお腹が空いていているらしい』
その声でようやく気が付いた。
テーブルにいるのはオレだけじゃない。
でも他の皆さんは、お面で顔を隠しておられる。
なんとなく不思議な感じだ。
狐のお面、変顔のお面、かわいいピンクのウサギのお面、何かの虫っぽい顔のお面、青と白のまん丸い狸のお面?
「あの、、、こんにちは!」
『やぁ。よく来たね』
狐の人の挨拶に残りのお面の人が続いて挨拶をしてくて。その声が皆さん優しくて、温かくて。変顔のお面の人がハイタッチまでしてくれて。皆も楽しそうに笑ってくれて。
ホッとした。
どうやら変な人たちじゃないらしい。
「皆さん素敵なお面? ですね』
『あぁ、、、面はこのままで失礼するよ』
狐のお面の人が答えてくれた。
『いいだろ? 夏祭りってイベントで手に入れた変身グッズじゃん!!』
変顔のお面の人が続けて。他の人も頷いて。懐かしいなと、口々に語っている。
『まずは食事を楽しむといいわ。冷たいお蕎麦がお勧めよ』
ウサギの面の人が話すと、なぜだかドキドキしてしまう。
『あら? ピザも良くてよ? フフフ』
青い狸の人が話すと、頭がポワンとなってしまう。
『うむ。焼肉丼と天丼だな』
昆虫さんが話すと背筋がピン! っと伸びる不思議。
『じゃあ全部いただきます!!』
差し出されるものを口に入れるたびに、両目が全開になる。
どれもこれも美味すぎ! 食感、味、見た目、、、どれもこれも食欲をそそる。
母さんはなにげに貴族の血筋だけど、、、こんな豪華なものを食べたことはないだろうな。
『美味しいかい?』
「最高です!!」
弟や家族にも食べさせてやりたいなぁってつぶやいたら、どこからか『承知しました』ってイケボさんの声が響いた。
「マジで!? ありがと!」
これは期待できそうだ。
イケボさんは神様かもしれないくらい超有能だから。
『食後のデザートは?』
「かき氷おかわりで!」
モグモグと口を動かしながら頼めば、皆さん楽しそうに笑ってくれて。
つられてオレも笑った。
そして気が付けば目の前に巨大なかき氷とあったかい緑茶が!
ロココさんだろうか。マジ有能すぎる......
『さてと。もう落ち着いたかい?』
狐の人の問いかけに頷いて。お腹をさすりながらお礼を伝える。
『では本題に入ろうか』
「本題?」
『先日ダンジョンで君を襲った魔物についてさ』
あの三つ首のモンスターのことか。
『フフフ。あれは星外の魔物よ。緊急措置としてダンジョンに放り込まれたの』
星外の魔物って、何だろうか。
『宇宙の外から来た魔物さ。次元の裂け目を通ってね』
狐さんが言うには、どうやらこれまでのダンジョンのモンスターとは性質が異なるということらしい。とても凶暴で、未知の技を使うモンスターも多いだろうとのこと。
『これを見て』
ウサギさんが指さすと、空中にモニターが表示される。たまに都市にも登場するのと同じヤツかなこれ。
ロココさんの説明によれば、<いい感じボード>っていうらしい。
なんて残念な感じのネーミングなんだ。センスなさすぎだろ......
―――――――――――――――――――――
<外宇宙:竜 界> 接触深度:序
<外宇宙:半獣界> 接触深度:序
―――――――――――――――――――――
『現在接近しているのは、、、この二つの宇宙』
『竜界、、、つまりドラゴンがやってくる。そして獣と人が融合したような魔物たちも』
そっか。ドラゴンって星の外からやって来てたのか。
もしそうなら、うちのラグナもかな。
「どうしたんだい?」
「いや、うちにもドラゴンがいて。お酒ばっかり飲んでるんで。お酒を探しにこの星に来たのかなぁって……」
「グオッホン!! いや失礼」
なぜか虫のお面の人が咳き込んだ。
「君の家のドラゴンの行動は後で我々も調査するとしよう」
虫の人が、なぜかまた咳き込んだ。
なんかオレ、まずいこと言ったのかも。
「まずは星外じゃん!!」
「そうでした、、、接触深度って何ですか?」
「そうだね、、、」
狐さんが〈いい感じボード〉に手をかざす。
するとボードに説明文と絵が浮かび上がった。
接触深度序というのは、この星のある宇宙と接触が始まったばかりという意味らしい。接触が深まで深まるにつれ、より強力なモンスターがやってくるだろうとのこと。
「それは、、、ヤバいですよね」
『カイトを襲った敵を仮にランクAだとしよう。あれは接触深度序の魔物さ』
ちょっと待てよ...... 嫌な予感がする。
『深度が深まると、SSを超える魔物が来るだろうね』
「SSってそんなまさか……」
救星のメンバーだってランクSだぞ。そんな魔物、誰が倒せるんだ......
いや、救星がパーティーで闘えば大丈夫か。
けどそれって星のトップレベルが必要ってことだよな……
『ダンジョンの特定階層に、星外との次元の裂け目を設けることにした』
そのフロアで星外の魔物を討伐すること、そのためにダンジョンで更に力を磨くこと、ダンジョンはそのためにリニューアルされること。
虫さんの説明を聞いて、やっぱり背筋が伸びた。
オレもランクSだって調子に乗ってる場合じゃないかも。もっともっと、ダンジョンで成長しないといけない。
兄弟でダンジョンをクリアするって夢。どうやらますますハードル高めの設定に変更されたようだし。
『あと、うっかりダンジョンの外に出た星外の魔物も討伐するじゃん!』
「……うっかりって」
変顔さんが言うには、どうやら星外との次元の裂け目がいつできるかは、わからないらしい。
『フフフ。都市の警備、都市間移動の警護も必要になるわ』
「そっか。そうですよね。あ、、、まさか」
都市の内部に次元の裂け目ができる可能性もあるんじゃないだろうか。
『安心していい。ダンジョンを司る神々が街中での発生を防いでいる』
畑や漁場、牧場なんかも。都市を中心に神々が守ってくれているとのこと。
そうするとやはり、、、目に見えない存在は神ということになるんだろうか。
あの洞窟の自称女神も、やっぱり神なのか。
イラっとする壁画だけども敬うことにするか。
それにしても......
『どうしたんだい?』
「いや神って本当にいるんだなぁって思いまして」
つい苦笑しながら告げると、お面の下で皆さんが爆笑しだした。
そんなに面白いことを言った覚えはないのに......
『ひょっとしてみなさんも神を信じているんですか?』
続けた質問には更なる爆笑でお返事が......
なんなんだろう。
『いやすまない。悪気はないんだ』
虫さんの謝罪に続いて、皆さん謝ってくださった。
やっぱり悪い人たちじゃないんだろうな。たっぷりご馳走してくれたし。
そもそもこれ夢だけども。
『神はいるじゃん! 祈るといい。それが神の力になる』
『神が力を増す。それが星の救いになるのさ』
変顔さんと狐さんが断言すると、皆が頷いた。
神に祈る、、、か。
祈りが神の力になる。その力は神が信者を救う力になる。
『まぁ、、、信じる信じないはカイトが決めるといい』
狐さんの意見に賛成だな。
『そのうち明らかになるわ』
ウサギさんの声が素敵すぎてソワソワする。
絶対に超絶美人だと思うなこの人。
『あぁ、、、そうだった。カード集なんだけどね……』
「SSSレアのあれですか?」
誕生日にイケボさんからもらったカード集だ。超お宝だけど高額すぎて買い手がいないレアカードばかりの。
特にコレクターでもないし、持ち運びにくいから部屋の本棚に放り込んである。
『そうそう。名を神々の悪戯……【メモリー】と呼ぶ』
「メモリー?」
『そうさ。メモリーと唱えるといい。持ち運びに便利になるよ』
「わかりました」
つまり、これからは持ち運んだ方がいいっていうアドバイスだろうな。
『さて、、、そろそろ時間だ』
狐さんが告げると皆さん席を立って。握手やハグを交わしてくれる。
とってもいい感じだ。なんとなく家族のようなあったかさを感じるし。
そう言えば、飯に捉われて質問するの忘れてた。
この人達はいったい誰なんだろ。
『この会合を忘れないようにね?』
『はい、、、わかりました』
徐々に、自分が眠りに落ちていくような感覚がして。
瞼が重くなり、、、自分の意識が遠くなっていくのがわかる……
最後にイケボさんの声がした気がするけど、、、気のせいだろうか。
+++
「カイト! いつまで寝てるの!!」
「ふごっ!? 母ちゃん!?」
「母さん、、、でしょ?」
ため息をついた母さんを眺めながら、ぼんやり考える。
何か夢を見た気がするんだけど......
「それにしてもあの料理、、、すごいの作ったわね」
「へ? なんのこと??」
「居間のテーブルよ。見たこともない料理だらけよ?」
何のことだろ。
でも何か大事なことな気がする。
何となく焦って転げながら部屋を飛び出し、、、居間に向かう。
「兄さんおはよう! これすごいよ! 全部マジで美味い!!」
「確かに!!」
「あ~、、、冷たい蕎麦最高!!」
父さんと陸人から、ガツガツモグモグの音が鳴りやまない。
テーブルの上には、ピザ、焼肉丼、天丼、蕎麦、、、、あぁ思い出した。
夢で食べた料理ばっかりだ。
ひょっとしたら…… やっぱりあった。
「かき氷とジュースもある」
ドドンと山盛りのかき氷が冷凍庫に入ってた。
それだけじゃない。冷蔵庫には食材もぎっしり詰まっている。
「これレシピでしょ?」
母さんが手渡してくれた小さな赤い冊子。パラパラめくると蕎麦や天ぷらの作り方が載ってる。
「二人とも早く一緒に食べよう!」
父さんの声掛けに陸人が笑って、母さんが微笑みながら食卓についた。
「いただきます!」
家族四人、部屋に差し込む太陽を思いっきり浴びて。
この上なく美味しいご飯を食べて。
皆が笑顔で、料理が刺激的で、笑いが止まらなくて。
ダンジョンでの恐怖体験から生還したことが、やっと実感できて。
父さんを見つめたら肩を叩かれて。ニシシっと笑顔をくれた。ついでに「よくやった。さすがオレの息子だ」って褒めてくれたからだと思う。ちょっとだけ涙がこぼれたのは。
袖で目元を拭って。
母さんに頭を撫でられて。
陸人に泣き虫ってバカにされて。
気分は最高だ。
「そう言えばあの敵なんだけど……」
「あぁ、カイトにもあったか」
「皆にも天啓があったの。かなり大規模のね……」
星外の敵が襲来すること、ダンジョンの仕組みが変わること。
神々から昨夜、星の住民に幅広く伝えられたらしい。
「この規模の天啓は【壊すもの】の襲来以来ね」
かつてこの星を破壊しようとした強力な敵たち。通称、【壊すもの】だ。
彼らを打ち破って、父さんたちは救星、つまり星を救った者たちと呼ばれるようになった。
「天啓ってさぁ。夢みたいなもんだよね?」
「あぁ。神々の声が届けられる」
なるほど。オレが昨夜見た夢は天啓なのか。
でも待てよ。
父さんが言うには、天啓って声だけらしいし。
ご飯一緒に食べたりしないよな。
いやでも、もし昨夜のが天啓なら……
あのテーブルに居たのは神々ってことか!?
オレって神に「あなたは神を信じますか?」って暴言吐いたことになる……
これはマズい。怒っていたらどうしようか……
ただでさえ弱点の恋愛運。
さらに低下させられちゃうかも……
「う〜ん……アカデメイアにも変更が必要かもな」
「そうね」
「最悪の場合は休止だな」
「え!? マジで!??」
父さんと母さんが恐ろしいことを言い出した。
さっそく恋愛運低下か?!
「あぁ。ダンジョンはますます危険になる。そう簡単には……」
「だからこそ今のうちから若者を育まなくちゃ!!」
立ち上がって力説する。
すると父さんは微笑んで。母さんは呆れたように笑った。
「まぁ、、、それもそうだな」
危ないところだった。
領主が言えばアカデメイアは休止になってしまう。
それにしても星外の敵だ。
なんとも恐ろしい。
想像以上の強敵のようだ。
せっかくのモテモテ学園生活、その舞台を脅かすとは。
これは必ず滅ぼさないといけない。
あと神様たち。
打倒星外のモンスター!
オレ頑張るんで。
これ以上恋愛運を下げないでくださいお願いします……
今日もありがとうございました!




