プロローグ
僕は基本的に怖がりだ。
小さい頃は、興味本位でホラー映画などもよく観たが、あとで必ず怖くなり、それを観たことを何度も後悔していた。
「この世に幽霊やお化けなんてものは存在しない!」と信じたかったし、できるなら、今もそう願いたい。
それでも……。
その世界は、僕が十九歳の夏に体験した出来事から現実のものへと変わってしまった。
否定できない世界の存在を、僕は知ってしまったのだ。
僕に見えるのは、一般に「幽霊」と呼ばれる存在なのであろう。
僕は、幽霊の定義なんてものは知らない。僕の見る限り「足」はあるし、一見すれば、その辺にいる普通の人達となんら変わりはない。
はっきりと区別できるのは、全体が透き通って見えること。「半透明」と表現すればよいのだろうか。
白く透き通って見える人もいれば、薄暗く見える人もいる。
負のオーラというものが存在するのであれば、あの色の違いがそうなるのだろうか。
ただひとつ。確実に言えることがある。
それは、僕達とは異なる存在なのだということ。
そして、決まって思うことは、「それ」が見えるときに感じる空間の歪み。
空気の重さの違い、と表現すればいいのだろうか。
その瞬間、その場には明確に普段とは違った、重苦しく、異質な空気を感じる。
その空間が僕は嫌いだ。
だから、風通しのよくない場所、空気に動きがない、閉め切った空間も駄目だ。
そこに彼らの存在を感じてしまうから……。
けれども、どうせ「それ」を見てしまうのであれば、閉め切った密室よりは、空気の流れがある外で見てしまう方が、遥に恐怖を凌ぐことができる。
それくらい、あのときの空気は苦痛を伴うから。
貴方にも、日常生活の中で、なんとなく気味悪く感じる瞬間があるはずです。
それは、薄暗い場所だったり、一瞬『無音』になった時だったり。
もしくは、自分しかいない部屋の中で、どことなく、誰かの視線を感じてみたり……。
そうしたとき、貴方は身近に潜む恐怖に触れています。
もちろん、大半の人達がそれを「気のせい」で済ませることでしょう。
……が、その瞬間が「気のせい」で済まされなかったとしたら?
見たくもなかった真実を目の当たりにしてしまった時。
それを現実として、受け止めなくてはいけなくなってしまったら。
貴方は僕と同じ道に迷い込んでしまったのかもしれません。
世の中に「絶対」なんてことはありえない。
僕は十九歳のあの日、知ったのです。