6章-1:白宴祭二日目
ー2012.10.07ー
メイド喫茶で働き詰めの一日間を終え、ついにクラス対抗戦の日となった。時刻は午前10時前。洋斗達4人は
総合体育館の前にいた。ここにいるのは洋斗達を含めて16人と先生数名、つまり一年クラスの代表者が勢ぞろいしていた。
『すいません、クラス毎に呼びますのでAクラスから入ってください』
隈 清
「ったく、めんどくせぇったらねえぜ」
九重 遥香
「あ、あんまりそういうことは言わない方がいいんじゃない……かな?」
マリアナ・ルベール
「つべこべ言ってないで、さっさと行きますわよ!」
リチャード・ケリー
「あぁ、我が仁義にかけて、必ず勝利する」
『続いて、Bクラス』
寿 海衣
「…………眠い………………zzz」
三川 黄
三川 紅
三川 蒼
「「「絶対負けん!!」」」
『続いて、Cクラス』
松原 楓
「どうした空町殿?足が震えておるぞ?」
空町 君助
「え?ふ、ふん!こここれは武者震いだ!恐いとかじゃないからな!」
チェルノワ・エゴール
「これが俗に言う『ツンデレ』というやつか?」
菱野 健吾
「ちげぇよ、とっとと行くぜ?」
『最後に、Dクラス』
芦屋 道行
「はぁ、ついに始まっちゃうんだね………」
黄 鈴麗
「もー芦屋!弱音吐いてないで、早く行こっ!」
ユリア・セントヘレナ
「そうですね。頑張りましょう!」
桐崎 洋斗
「じゃ、そろそろ行こうか」
洋斗達が総合体育館に入ると、そこには16個のカプセルが並んでおり、そのうちの四個は開いている以外は閉じていた。ほかのクラスはもう中にいるのだろうと、洋斗は推測する。俺たちも入るか、とカプセルの方に一歩を踏み出したその時、
『グッッドォムォォォヌゥィィング、テメエらああアアァァァァ!!』
耳がひん曲がるかと思うくらいの爆音アナウンスが耳を打った。
「「!!!??」」
『……………ったく、同じ事四回もやってるからただでさえ飽きが回ってきたってのに、無視されんのまで同じだと、飽きを通り越してキレちまいそうだぜ…………』
「ご、ごめんなさい、おはようございます!」
『…………おお、カワイ子ちゃんからの朝の挨拶KTKR!イヨォッシャアアやる気 復☆活 !!』
((………なんだ、この人?))
(ユリアを除いて)テンションについていけず固まっている三人をよそに、アナウンスは続く。
『つーわけで、いい加減外野からのヤジが来そうなんで、早速ルール説明と行くぜ、といっても大方は担任センコーから聞いてるだろうからそこはご都合主義で省略だぜ?』
『まずは自己紹介と思ったが、『これ以上名前が増えたら覚えられん!』 というメタ事情により、『J』 とでも呼んでくれ、ちなみになんでJかってのは愚問だぜ?そこのキーボードを適当に押しただけだからなァ!』
「声の人は一体何言ってんのよ?」
『おっと、一応聞こえてっからソーユー発言は控えな?では早速説明入りまーす。今回はこの対抗戦が過去の出場者の要望に応えてバージョンアップだぜ!なんと!戦いの中で受けた傷は、戦いが終わった時に全快するシステムになったぜ!これで戦いで手傷を負ったやつを追い討ちするジャンク戦法は無しになったぜざまぁみろ!ちなみに回復ボタンは俺が持ってるから今のうちに媚びでもうってろ。俺には無力だがな!あと、この戦いは学校中で生放送されているぜ。カメラは自由移動型を大量配備、実況は俺という贅沢スタンバイだぜ感謝しろ!っとまあ説明はこんな感じだ!さっさと中に入れ時間押してんだよ!お前のせいだろとか言うなコノヤロー!』
一同特に言いたいこともなかったので、とりあえずカプセルの中に入った。
~洋斗~
目を開けると、目の前に大きなジェットコースターが走っていた。
「……………なんだここ?」
『おっと俺としたことが言い忘れてたぜ。まず、代表者はステージ内にランダムで転送されること、それと今回のステージが『遊園地』だって事だ!アイム総理ー!ハーブアナイスバァトォル!レディ…………
スターーート!』
(……………あぁ、今始まったのか)
開始の合図をうけ、とりあえず周囲を見回す。掲示板のようにマップが立ててあったので見てみると、目の前のジェットコースターの他に遠くにはメリーゴーラウンド、大きな観覧車もあるらしい。元の世界の遊園地と大した違いはないようだ。
「さて、どうしたものか」
周りをみた限りだと相手は見当たらない。相手を探しに行くのも手段だが、クラス総出で待ち伏せされていたら一貫の終わりだし、何より相手のフィールドで戦うことだけは避けたい。
「とりあえず誰か来るか待ってよう」
洋斗はそばにあったベンチに静かに腰掛けた。
───それから10分ほど座っていると、向かいの建物の陰から一人歩いてきた。
「ったく、心なしか強そうなやつと会っちまったぜ」
そいつはそう言いながら左手でガシガシと頭をかきむしっている。特に調査などは行っていないため、目の前にいるそいつが何者なのかはわからない。
やるしかないんだろうな…………と、こちらも内心ぐったりしながらも両手を膝に置いてすっと立ち上がる。そして、まるで戦う意志を示すように雷を体にまとわせる。
洋斗は『能力を放出して戦う』という基本的なスタイルではなく、『能力を身体能力のアシストとして使う』という、元々持つ身体能力を基盤としたスタイルを選んでいる。能力にこういう使い方もあるという事は、以前に男達が学校に突入してきた時の一戦で分かっていた。
体全体が鈍く青白い光を発し、両手足が帯電して時折、バチ、バチ…………と小さく音を立てる。
「なんだよ、やる気満々かよ。しょうがねー、さっさと終わらせるか」
相手の左右から土壁がせり上がり、表面の凹凸が大きくなっていく。そして、
「さっさとくたばっちまえ」
土壁の凹凸が弾丸となって乱射された。
視界が濁るほどの弾幕が高速で迫ってくる。
「……………………」
それに対して洋斗は、ひざを曲げて静かに前傾体勢をとった後、
───既に
相手の目の前で拳を握っていた。
「………………………は?」
あまりの速さに、目がついて行かなかった。
元々の運動神経に加えて能力による肉体強化が付与されたことによって、爆発的な運動能力を手に入れる。ただ、並の人がやったところであまりの速さに目が、あまりの負担に体がついていけないので、これは並外れた体力を持つ洋斗だからこそなせる技でもあるのだ。
相手は自身の左右に壁を作り、その壁から弾丸を乱射しているが砲身である二つの壁の間には隙間があるため、一点の敵をねらう以上相手の前には弾幕が存在しない空間が生まれる。洋斗はその空間に全速力で突っ込んだのだ。
「───悪いな」
「ッッッ!?」
相手は何か対策を講じようとしているのかもしれないが、もう遅い。
洋斗は拳をそのまま相手の顔面にぶつけて思いっきり振り抜いた。
相手は10m以上吹っ飛んで建物を突き破っていった。あれでまだ生きてるのか?とも思うものの、所詮は架空の出来事なので気にする必要もない。ここで起こったことで禍根を残さない、という慣習なのも橘先生から聞いている。
「……………………ふぅ」
久しぶりに全力で人を殴り飛ばした桐崎洋斗(最後に全力で殴ったのは親父にハードなつっこみを入れたとき)は、心なしか達成感と清々しさにあふれた表情だった。
~ユリア~
私は今、観覧車の前にいます。私はこの銃を手に入れるためにも、この対抗戦で勝ち星をあげないといけないのですが、勝機が全く見えません。
(未だに練習が不十分な私が勝てるような相手なんて…………)
そう考えながらゆっくり回る観覧車にふと目をやると───。
「…………………………zzz」
観覧車の個室の一つの中で、一人の女の子が寝ていました…………って!?
「ふぇ!?」
はい、目を疑いました。二度見しましたとも。
女の子が寝ている個室がゆっくりと下りてきます。
(ど、どうしましょう。もしかしてこれってすごくチャンスなのでは!?…………よし!)
私は個室が一番下に降りてきたところでガチャッとドアを開けて中に入ります。
「………………………んゅぅ……………」
…………ですが女の子は未だにぐっすりです。起きる気配が全くありません。
よし、今しかない!!───と勢いよく銃口を向けたところで、ふと脳内に天使の声が響きます。
(あれ?もしこれで私が勝利したとして、これってすごく卑怯じゃないでしょうか?いくら勝つためといっても、熟睡中の女の子を銃で撃つなんてやってはいけないことなのでは…………?)
と思っていると、今度はこれまた脳内の悪魔が囁いてきます。
(い、いやいや!いくら寝ているといっても相手は相手です!この一勝がもしかしたらDクラスの勝利の、そして私のためなんです!)
(いや、でもさすがに寝首を掻くようなことは…………)
(いや!それでも……………)
………………………………。
……………………。
……………。
ユリアは優しい。
途轍もなく、虫すら慈悲で見逃すほどの優しさを持っている。
それ故にゆっくりと、かつ確実に思考の渦にはまっていく。観覧車の中で。ぐっすり眠っている女の子(Bクラスの寿 海衣だとわかるのは対抗戦が終わってから)のすぐ横で。
こうしてユリアの長い、果てしなく永い『葛藤』という名の戦いが始まった。
~芦屋~
開始の合図のアナウンスを皮切りに、静かに構える。目の前には一人の坊主頭、どうみてもDクラスの一員ではない。丁度相手の前にとばされたみたいだ。
「えっと、Dクラスの芦屋 道行です」
「私は、Bクラスの三川 蒼だ!よろしく!早速正々堂々闘おうじゃないか!いくぞ!」
そういって蒼は手から水弾をとばしてくる。それを地面からせり立たせた柱で防ぎながら、芦屋は考える。
(相手は水の能力か。となると接近戦は攻撃のバリエーションが多い相手の方が有利になるな。それに僕としても戦闘スタイル的に近接は避けたいな。ここは遠距離から……………!)
芦屋は手を地面に当て、周囲の地面を操作して戦うスタイルだ。なので、相手が目の前にいるととても戦いづらい。
地面に手をおき、地面から細い石柱を何本か出して相手に突っ込ませるようにのばす。蒼は石柱を全て氷の壁で受け止める。だが、その氷に少しずつ小さなひびが広がっていく。
(よし!このまま押し切っ───
その時。
『芦屋の右側から』火球が数発とんできた。
芦屋はとっさの判断で後ろに転がる。火球は右から左へとんでいき、建物にぶつかって爆発した。
「…………な、何だ今の…………!」
「ほお、これをかわしたか」
手が地面から放れたことで石柱が砕けて崩れ去る。その先には小さく笑う蒼の姿があった。
(………どういう事?明らかに別の方向から別の能力がとんできた。一体…………)
「ずいぶんと驚いているようだな!仕方ない。折角だから教えてやろう!」
蒼は、今度はフンとふんぞり返って大きく叫ぶ。
「私は、能力を 3種類 持っているのだ!」
「………………え」
有り得ない───芦屋は真っ先にそう思った。
人間の持つ能力は原則1種類と教科書にも載っている。極稀に2種類の能力を持つレアな人間がいるようだと聞いたことはあるが、3種類なんて人は聞いたことがない。もしそれが事実なら、それをマスコミが黙っておらず、瞬く間に国際的なニュースとなって世界中を震撼させているだろう。
そんな驚愕の事実を突き付けられて当惑している芦屋をよそに、三川蒼は語り続ける。
「先程の攻撃も氷の壁の横から火球を回り込ませてもらった!ふふふ、次はどう出るかな?」
芦屋はこの言葉を皮切りに、思考を切り替える。
(とりあえず、相手が能力を三つ使えるとしよう。だとすると、相手は水、火とあと一つ使えるはず。一撃目で、相手に雷があったなら氷を撃ち出すより雷撃を放った方が明らかに速い。だから雷は無し。あとは……………どうしよう、土と風の2択から絞れない!)
「どうした?来ないのなら…………」
「!?」
思考の渦の中にいた芦屋を、蒼の声が引っぱり出す。
「こちらから行くぞ!」
蒼は氷を撃ち出す。芦屋は、火球に回り込まれる危険を考えて土壁を作らずに横に走ってかわす。
「チッ!ならこれならどうだ!」
蒼は放射状に大きく広がった大きな氷塊をとばしてくる。
「くっ…………!」
さすがにこれはよけきれないと判断した芦屋は、地面に手を当てて壁を作る。氷塊は壁に衝突して動きを止めた。だが───
「まだまだだ!」
右側から先程の火球とは違い、火炎放射のような形で炎が飛んできた。
(…………………?)
芦屋は僅かな違和感を覚えたが、そんなことにかまっている場合ではない。芦屋はもう片方の手を地面に当て、右側にも土壁を作る。土壁は火炎を受けて熱を帯び始める。芦屋は何とか二手からの攻撃に耐える、だが
「まだだぞ!」
今度は『左側から雷撃が』とんできた。芦屋がすでに手一杯であったことと速度が全能力最速である雷であったことから、反応が追いつかなかった。
「な……………!?」
雷撃はそのまま芦屋に直撃し、芦屋は自分が右側に作った土壁にぶつかる。
「がァ…………………っ!?」
(どうなってるんだ?あんな高威力の能力を同時に3種類、しかも3方向から放ってくるなんて!あれじゃすぐに生命力がなくなるはず…………!)
「ハッハッハー!どうだ!このまま押し切ってやる!」
(………まずい。このままじゃ…………)
動揺する芦屋に向け、一直線に雷撃がとんでくる。
───そう、『左側から一直線に』である。
(……………!?まさか、そんな………)
もうだめだ。そう思って目を瞑ってしまう。
───だが
何かにぶつかる音はしたものの、芦屋に当たった衝撃はない。それどころか、右側の土壁にあった火炎による熱が無くなっている。
「誠に申し訳ない。僭越ながら助太刀させてもらった」
「こちらからも詫びさせてもらおう。これも私の仁義を通すためだ」
固く瞑った目をそろっと開けると、目の前にポニーテールの女の子とがたいの良い男がいて、二人で丁度、土壁ごと氷を粉砕したところだった。
「…………あ、あなた達は確か…………」
「拙者はCクラスの松原 楓と申す」
「リチャード・ケリー、Aクラスだ」
「申し訳ないと思いながらも、汝等の戦いは拝見させてもらった。汝とはよい勝負が出来そうだが、それよりもやるべき事が出来たのでな」
「…………松原 楓と言ったか、お主ともなかなか気が合いそうだな。それにしても許せん…………」
楓は左に、ケリーは右に向かって───。
「「1人相手に『3人がかり』で袋叩きとは」」
楓は風の刃を、ケリーは雷撃を放った。
左右共に何かに当たり土煙が舞う。そしてそれぞれの中から1人ずつ飛び出して蒼の両側に着地した。
「ふふふ、気づかれてしまっては仕方ない!教えてやろう!」
3人が揃って立ち上がる。
みんなそろって同じ顔、同じ体格、そして同じ坊主頭だった。
「長男、水の三川 蒼!」
「次男、火の三川 紅!」
「三男、雷の三川 黄!」
「「「三人揃って、三川3兄弟だ!」」」
「「………………………」」
「「「ふふふ……………驚きのあまり声も出ないか。無理もない!」」」
(兄弟というより………………複製?そんなことはいいや)
芦屋はいろいろ言っている3兄弟を無視してじっくりとこれまでの戦況を振り返る。今思い返せば違和感のある点はいくつかあった。まず『三川蒼が氷の能力を出すところしか見ていないこと』、それと『炎が必ず右側からしか飛んで来なかったとこ』だ。三川蒼が氷の能力を放出しているところは直に見ているが、自分作った壁や大きな氷に遮られて、三川蒼自身が炎の能力を放出するところを見ていない。さらに、炎は常に右側から飛んできていた。先ほどの違和感はこれらから来ていたもので、最後の雷が建物の陰から一直線に飛んできたことで、その違和感は確信となった。しかし、三人が協力していたのはさすがの芦屋も予想外だった。
こんなことを考えている間にも会話は続いている。楓とケリーは相手を無視できない性分だったのか、一通り御託を聞き入れた上で応える。
「そんなこと、私の仁義には全く関係ない」
「その通りだ。これからやることは一切変わらん」
「「貴様等のその腐った性根を、この手で叩き直してやる!!」」
「……………………えーと」
思わぬ仲間が出来てしまったものの、場の流れにあっさり取り残されてしまった芦屋であったが、ここに序盤で最大の激戦区が出来上がった。
ー鈴麗ー
「…………………………………………」
鈴麗は今、完全なる無表情でメリーゴーラウンドの馬の一つにまだがって揺られている。
(……………………………………………………え、何このシュールな感じ?なんで私、誰も客がいない中で一人メリーゴーラウンドに乗ってぐるぐる回ってるの?)
表情を一切の無表情で固めたまま頭の中で、それこそメリーゴーラウンドのように疑問符がぐるぐる回る。
(と、とりあえず整理しましょう。まず、あのカプセルに入ったでしょ?そして気がついたら馬の上に……………って何の解決にもなってないじゃない!)
あああああ!!!、と馬にまたがったまま頭を抱える鈴麗。あまりに混乱しすぎて『丁度馬の上に配置された』という単純な回答に至ることができない。
───その時
ドゴォン!!という強烈な爆発音と共に目線の先で爆発が起こった。
「うわ、もう戦い始まってる………って!ちょ、回んないで!死角に入……………………あ、降りればいいか」
やっと気づいて馬から飛び降りた鈴麗は改めて爆発のあった方を見つめる。
建物の陰になって爆発源は見えないものの、さっきの感じからしてさほど遠くはない。
(…………………あれ?静かになったわね。決着着いたのかしら?)
鈴麗は訝しく思いながらも念のために武器である槍を髪留めから『具現』させる。
じっと意識を集中していると、建物の陰から人影が現れた。
「……………あら?」
どうやら相手側も鈴麗の存在に気づいたようだ。明るみに歩いてくるにつれて相手の姿が見えるようになる。
まず目に付くのは髪型、耳のあたりからぶら下がっている見事な金髪縦ロール。そして、整った顔立ち、女性らしいはっきりしたプロポーションの体系。
第一印象としては『中世の貴婦人』という感じの体裁だった。コルセット付きのドレスなんかを着ていても違和感がないだろう。
「先程邪魔なムシをはらったばかりですのに、どうやらこのあたりはムシが集っているようですわねぇ」
おまけに口調までお嬢様ときたもんだ。こういうタイプとはあまり反りが合った試しがない鈴麗だったが、火種のようにくすぶる苛立ちを呑み込んで平静を装う。
「あら、そちらこそ来る場所を間違えたんじゃないの?いや、間違えたのは時代?まあいいや。大体あんた何者なの?名前くらい言ってくれない?」
「あらあら、貴方みたいな野蛮な方に『マリアナ・ルベール』の名を語る道理などありませんわ」
「普通に名乗ってるじゃない?それに、今時縦ロールってアニメでも珍しいわよ、そんな『場違いな髪型』で恥ずかしくないわけ?」
「な…………!?ふ、フン!貴方にはこの髪型の美しさが分からないようですわね。もっとも、貴方みたいな『類人猿』には到底理解できないでしょうけど」
「ぬ…………!?ソ、そんなものを理解できるほど、私は『時代遅れ』じゃないのでね!」
「なな…………!!?な、何ですって!?貴方なんて、『ゴリラ女』で十分ですわ!!」
「ぬぐ…………!!?う、うっさいわよ!!大体!さっきからすわすわしつこいのよ!あんたの名前なんか………………す、『スワベ』で十分よ!」
「ななななな…………何だか良く分かりませんが、何となく馬鹿にされているのだけは分かりますわね…………」
その後も売り言葉に買い言葉の応酬が続き、その度に双方の青筋が増えていく。無論この小学生並みに低レベルな口喧嘩はカメラを介して校内で放送されているのだが、そんなことに逐一配慮している余裕が今の二人に有るはずもない。
───結局。
「「あァーーーもうッ!!!」」
双方の怒りが同時に我慢の限界を突破した末に出した結論は。
「「あんた(貴方)だけは私がぶっ殺すッッ!!!」」
そう言って武器を構えて突っ込んでいくという、これまた小学生並みの単純なものだった。
鈴麗は槍を、マリアナは細剣を構えて、能力をまとわせながら向かっていく。槍が赤い炎に、細剣が青い炎に包まれる。
お互いに怒り心頭なだけに『様子見』という言葉は思考の中から吹っ飛んでしまっている。
───そのため、どちらも出しうる全力をもって渾身の一撃を放つ。
二つの爆発が容赦なく衝撃波をまき散らし、周囲の建物をなぎはらう。高熱を帯びた爆風や火炎はカメラ一台と周辺の土地を灰燼にした。
そして二つの能力がぶつかったことで、お互いの実力が割れる事となった。
鈴麗とマリアナは、どちらも身体に秘める生命力が一般の人より高い。そのため持ち前の生命力量にものをいわせる『一撃必殺のパワータイプ』なのだ。そのことをある程度把握した上で、一度距離をとった二人は思う。
(これは……………小手先の技は無意味ですわね)
(ちまちま戦ってたらおされてしまうわ)
(それなら)
(やることはただ一つ)
((力押しで押し切って、あいつをブッ飛ばすしかない!))
至ってシンプルな勝利条件。
シンプルである故に攻略法も単純。
小業なんて邪魔なだけの簡潔なルールによる支配。
そんな世界に、今の二人は立った。
それを黄 鈴麗とマリアナ・ルベールは、一発交わしただけで無意識で理解し、純粋にそれを笑った。
「…………やるじゃん」
「…………貴方こそ」
相手に対して、心からの本音をこぼす。だが互いをまっとうな『ライバル』と認めたところでやることは変わらない。
二人は静かに武器を構え直し、再び生命力をつぎ込んでいく。わずかな妥協が、押し切られることによる敗北に直結する。全力でぶつかり続けるしかない。
───これはどちらかが力尽きるまでぶつかり合う消耗戦だ。
「二発目…………」
「行きますわよ…………」
二人が同時に地面を蹴る音が、第2ラウンドの開始の合図となった。