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Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~  作者: ふろすと
来世編
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18章-7:異世界交流

 



 かくして、洋斗たちは無事帰宅を果たしていた。

 洋斗と由梨香がグラウンドと向かった際、二人を確認するやいなや即座に生徒たちの中へ押し込まれた。無論、二人が何をしていたのか、といった事への事情聴取も無かった。学校が爆破されているのだから生徒ふたりの経緯など気にしている暇はない、というのは理解できるが、見逃してもらえた当人としては若干の申し訳無さも残るのだった。

 というわけで、自宅へと戻った洋斗はというと───

「おお、お゛おおおおお………」

 食卓に身を投げだして突っ伏していた。

 向こうの世界であれば扱う怪我の程度が違うこともあって、かなりの設備が学校の保険室に集中している。なので大抵の負傷は学校の保健室にこもっていれば解決していたのだが、こちらの世界ではそうはいかない。アドレナリンが途絶えたのか、おかげさまで今まで無視してきた痛みがぶり返し、全身を刺し回していた。

「ヒロ………大丈夫なのよね………?」

「あわあわ………わわ………」

 基本的な怪我は火傷なので、たとえ心配だろうと触ったところで痛みで顔をしかめるだけだ。それでも何とかしてあげたい、けど触るわけにもいかない………というわけでどうすべきか分からず両脇でソワソワしている金髪の女性ふたり。

 その様子をため息混じりで眺めているカップルひと組、その片割れが火口を切った。

「とりあえずこれで落ち着いて話せるわけだけど?」

 そうだ。

 今は感傷に浸るためにこうして集まっているわけではない。学校の爆破に続き、本来いるはずのない旧友の来訪。爆弾魔が話していた内容も含めれば引っかかる部分があまりにも多すぎる。この状況を把握するために必要な情報が圧倒的に足りてないのだ。

 それを互いに補い合うことがこうして集まった主たる目的である。

 それにしても先程も言ったとおり、そもそも知らない事ばかりなのだ。

「一体何から手を付ければいいか………」

 洋斗は机に身体を預けながら項垂(うなだ)れるばかりだった。脳内でパズルが複雑に組み上がっているせいで、どこから解いていけばいいかすら分からなくなっている。

 そんな中、おずおずと挙がる手があった。

「えっと、まず皆さん何者なんですかね?あ!私は巳島由梨香と申しましてですね!ヒロと同じ学校の生徒会長をしてる者ですはい!」

「あー………そっか、まずはそこからだよね。僕は芦屋道行。芦屋一門………はあんまり関係ないか。えっと、もうひとつの世界で洋斗のクラスメートでした」

「私は(スァン)鈴麗。中国人にして中華民国の第一皇女よ」

「ハイ質問です!」

 今度はビシッと勢いよく、由梨香の手が挙がる。どうやら芦屋との距離感や会話の流れをもう掴んだらしく、いつの間にか由梨香が輪の中心になって対話が進んでいる。誰とでも気兼ねなく話せるという彼女のスキルがすでに遺憾なく発揮されていた。

「中華民国じゃなくて中華人民共和国だとおもうのですが!」

「ほぐッ!!?」

 どすん!、と鈴麗の心に太い何かが刺さる音が聞こえた気がした。

「うぐ………そうね、こっちじゃ国追われてるのよね………何度聞いても辛いわ………」

「こっちではそうみたいだね。けど僕達の世界では中華民国がずっと残ってるんだよ。その皇族の家系にいるのがこのお方というわけ」

「そ、そうなんですね!ごめんなさい鈴麗さん!」

「大丈夫よ巳島さん、私が大好きな国は今も繁栄してるのだし。『国を追われる可能性を回避できた』ことを喜ばないとね」

 鈴麗の台詞に女王らしさを見出した由梨香の目がこころなしか輝いている。その眼差しを感じて鼻を高くした鈴麗は腕を組んで鼻を鳴らすのだった。

「えっと、私はユリア・セントヘレナと言います。皆とおんなじで洋斗君の、クラスメートです」

「ほうほう………」

 そう言ってユリアの容姿を上から下までじっくり見つめる由梨香に、居心地の悪そうに身体をよじるユリア。常に初対面でもフレンドリーに接する由梨香にしては珍しい反応だった。

「『洋斗君』、ねぇ………なるほどなるほど」

 目線を感じる。

 鋭いというか、甘ったるいというか、粘っこいというか。

 そんな目線が洋斗を撫でているのが分かる。

 ユリアの所作、言動に何かしらの思いを感じ取ったのだろうが、生憎とそんな関係性ではない。

 ───そんな関係性では、ないのだ。




「ところで、もうひとつの世界ってどんなところなんですか?」

 由梨香のひと言を皮切りに、テーマが人から世界の話に切り替わる。

「一番違うところは、やっぱり能力の有る無しじゃないですかね、洋斗くん」

「だろうな。向こうの視界では大体の人がちょっとした魔法みたいなものが使えるんだ」

「まぁ私がその数少ない例外のひとりなんですけどね………」

 気恥ずかしい様子で笑うユリアを何やらキラキラした目で見つめる由梨香。どうやら『例外』というワードに惹かれる何かがあったようだ。

 今となってはつい忘れがちなのだが、そもそもユリアは能力が使えない。一年目の白宴祭のあと、学校に寄贈されていた銃を手にしたその時まで彼女は戦う手段など何ひとつ持ち合わせていなかったのだ。そこから能力の(もと)となる生命力の使い方や銃を使った戦闘の考え方などをイチから鍛え続けたことで学校でも見せたような洗練された技術を身に着けている。確かに天壊兇変の時にラファエルから授かった神通力の恩恵も受けているのは間違いない。だがそれでもユリアの根幹を支えているのは、紛れもなく彼女が地道に積み上げてきた努力により培った生命力なのだ。

「てことはヒロが学校でビリビリしたのも、その、能力?だったの?」

「そう。あっちの世界に行ってからできるようになった」

「てことは、私もその世界に行けたらできるようになるのかな!」

「どうだろうな。あっちに行ったところでパパッと使えるようになるかは分かんないけど………」

 洋斗自身も向こうの世界に行ってからは能力など使えなかった。なので一体何が能力発現のトリガーとなるかははっきりと分からない節がある。その上洋斗にとってのトリガーが相手の能力を直接受ける事だったのもあり、由梨香にはあまりおすすめしたくないのも本音だった。

 ………そういえば。

「つーか、俺は何でこの世界で能力が使えたんだ?」

「「………………………………………………………さぁ?」」

 誰も分からなかった。

「それについては本当に分からないんだ。僕もつい当たり前のように能力を使ってたけど特に変な事もなかったしね」

 洋斗は現に能力を使い、ユリアも飛行や射撃を難なく行っていた。聞けば芦屋も落ちてくるガラス片から由梨香を守るために能力を使ったようである。この異変は洋斗に限った話ではない。

「確かにあんたらが押入から出てきたあたりからあっちにいた時みたいな変な感覚があるぜ」

「私の時も同じようにぱったり使えなくなりましたけど、今は確かにあの時のような兆しがあります」

「親父、母さん………」

 爆弾魔である真砂晴敏の言葉の中にヒントとなるようなものがあったかもしれないが、既に記憶が薄れていることや肌が沁みるせいで思考がまとまらないこともあってうまく記憶の引出しが開かない。

 引出しを無理矢理こじ開けようとお熱になっている洋斗の鼻孔を甘い香りがくすぐる。お皿を置いたのは洋斗の母親である世良さん、置かれたのは一口大のお饅頭だった。

「お菓子でもどうぞ?さぁ皆さんも」

「お、お気になさらず………!」

「いいのですよ、折角の来客なのですからおもてなししないわけにもいかないのです。さぁ遠慮しないでどうぞ。京都の老舗で買っておいたものです、味はお墨付きですよ」

 目の前に置かれた白く丸い饅頭を見つめる洋斗。火傷で全身包帯まみれなので目の前の饅頭に手を伸ばすことも叶わない。和菓子マニアな我が母親こと世良さんのお墨付きなのだ、美味しくない訳がない。

 饅頭を切り分けると、ふわふわした外皮の中の漉餡(こしあん)が顔を覗かせる。半分になった饅頭を口に運び、その半分を口に含む。

 瞬間、一同の舌が色めいた。

「んん〜〜〜〜!!」

 一同の口から歓喜の声が上がる。

 そして、これほど上品な菓子を含んだ一同の思考は十分な落ち着きを取り戻していた。

 冷静に考えれば、なぜこの世界で能力が使えるか、というのは世界を支配する物理法則の解明することと概ね同義である。そんな事はそれなりの知識を持つ学者でなければできるものではない。これ関しては自分たちで顔を突き合わせたとて解決するような問題ではないのだ。


 漉餡の甘みで思考が落ち着くと、あまりに自然すぎて気にしていなかった疑問が頭に浮かんでくるもので。

「ところで………………」

 ここまでの話が普通に聞こえる場所で普通にくつろいでいた洋斗の両親へと目線が集まった。

「随分と別世界のことに詳しいですね。慣れてるというか………よくよく考えたらあの押入れから飛び出した時もなんというか、驚きが薄いというか手馴れていたというか………」

「お?あぁそーか、俺はまだ名乗ってなかったな」

 洋斗の父親は堂々と胸を張り、高らかに名乗りを上げた。

「俺は桐崎 龍次、そっちの世界じゃ『救世の第七班』なんて呼ばれてるメンバーの有名人だぜ?」

「「「え………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」」」

「………………反応薄っすいな?」

 芦屋、鈴麗、ユリア。彼らの目が一様に点になっている。これまでの言動を考えれば、まぁこう思われるのも無理はないだろうから同情の余地もない。

 彼らの頭に男の正体が浸透するまで、少々の時間を要した。

「ま、まさか本当にあの桐崎龍次!?」

「確かに行方不明になったって話はあったけど別世界に行ってたなんて………!?」

「実在してたんですね!?」

「………そっかー、あっちの世界での俺ってそんな感じなのかーもっとチヤホヤされるかなーってちょっと期待してたんだけどもう歴史上の将軍とかそのヘンの立ち位置なのねー」

 確か教師陣の証言だと、うちのバカ親父は卒業間際にどこに行くとも伝えず───ましてや元いた世界に戻ると伝えることもなかったと聞いた。であれば結果として行方不明という解釈で落ち着くのも無理はない。

「私も名乗らないとですね。私は妻の桐崎 世良です」

 自分の胸に手を当てて、所作を崩さず一礼する。その立ち振舞いと打って変わってだらけていた龍次がぽそりと口にする。

「なぁ、コイツらならあっち(・・・)を名乗った方がいいんじゃないか?」

「え………あぁ、それもそうですね」

(………あっち?)

 何やら不穏なワードだった。

 何か、洋斗の知らない家族の秘密が明かされようとしている………?

 思いに比例して揺れる洋斗の目、その目の前で世良は改めて口を開いた。



「私の名前はセーラ・カリファー、カリファー家の娘にして彼と同じく救世の第七班のメンバーです」



「え………」

 言葉が浸透する。

 洋斗の育ての母親である桐崎世良が、救世の第七班であるセーラ・カリファー。

 ………………………………………………………………。

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………()()




 こうして、桐崎家に集合して以来最大級の驚嘆が響き渡った。





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