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Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~  作者: ふろすと
来世編
58/61

18章-5:垣間見た本性

 



 たん、と。

 瓦礫を蹴った洋斗の足は、爆弾魔がいた3階へと着地する。

 爆弾魔は廊下の奥の方でただ立っていた。教室2つ分………いや、3つ分か。そこまで考えたところで思わずほくそ笑んでしまう。

「………何を笑っているのかね?」

「いや、案外覚えてるもんだなって」

「何を?」

「なんていうか………勘、みたいな」

 相手を見た瞬間、即座に相手との距離を測っている。向こうの世界で培った経験が彼にそうさせているのだ。

 相手と相対したときにやるべき事、知るべき情報。その一覧が『勘』という形で彼の体に染み付いている。

「久々で手こずるかと思ったけど、ジャンプの感覚もピッタリだったし。これなら上手く手加減できるかもしれない」

「………ここで挑発ときたか。舞い上がっているのかね?」

「かもな」

 そう言う洋斗の口ぶりは軽い。

 ユリアへと爆弾(チョーク)を落としてから幾ばくかの時間が経っている。その間に何かしらの隠し玉準備しているかもしれない。そもそもこの男はまだ手のうちに能力を隠している可能性だってゼロではない。

 それが何だ。

 能力が戻ったからと言って足の傷が癒えたわけではない。今でもじくじくと刺すような痛みが消えてはいない。あっちの世界にいた時のようなパフォーマンスは十全には発揮されないだろう。

 だから何だ。

御用(ごよう)の時間だ爆弾魔」

 確かに浮かれているのかもしれない。魚が水を得たような、鳥が空へ飛び出したような、思わず口角が上がってしまう感覚だった。

 体が軽い。目が冴える。

 目の前にいるぼさぼさ頭の男を前にして、最早敗北への不安すら感じない。

 負ける気が、しない。


「悪いけど、もうさっきみたいな苦戦もしてやれないぜ?」


 くらり、と。

 彼の身体が爆弾魔の側へと倒れ込む。こちらへと走り込むための重心の移動だ。

 来る。

 そう考えて身構えた───その時点で、少年はすぐ眼下で拳を構えていた。

「な………ッ!?」

 彼が駆け抜けた軌跡が青い稲妻を帯びている。電流を帯びた足で踏み込んだ際に生じる特有の放電だ。

 能力による身体能力のブースト。

 その増強(ブースト)量は爆弾魔の視覚すら出し抜いた。

「しッ!!」

 脇に絞られた拳が走る。帯電する拳が鈍い音を立てて脇腹に刺さり、爆弾魔は廊下の先を転がった。

 ただ、洋斗の顔は浮かない。

 手を握ったり開いたりして、手の感覚を確かめながら。

「………拳が当たる前に何か爆発させたか?そんな器用な事できたんだな」

「嫌な男だ。あまり手の内は見せたくないのだがね」

 ポケットに入れていたチョークか、衣服の一部か。脇にあったものを自身の能力で爆発させたのだろうか。

 しかし、もしそうならこれまでの爆破とは質が異なる。

 今の一撃は明らかに爆弾魔の虚を突いたはずだ。それは(ふところ)に潜り込んだ際の男の表情からしても確信が持てる。それに対して咄嗟に何かを爆発させることができたのだとすれば、その爆弾はこれまでのような時限式ではなく、即座に起爆するためのスイッチが存在したということだ。

 放り投げられたチョークと脇で発破した衣服。

 二つを違いに焦点を当てれば爆弾魔の能力、その法則性も見えてくる。

「能力で触れてるものは好きなタイミングで爆発、身体を離れれば離れてから時間差で爆発、そんな感じか。そういえばさっきのクリーナーも触れた瞬間に爆発してたし、触れてるものは時間の長い短い関係なく爆破できるわけか」

「なるほど、やはり鋭い。これは長引かせるだけ厄介かもしれん」

「長々とやるつもりも無いけど?」

 衣服ひとつをコストとして爆発を起こすのであれば、爆発させた自分自身も巻き添えになる。受けるダメージも決して少なくはないはずだ。

 言うなれば諸刃の剣。そう何回も軽々しく切れるようなカードではない。

 そして彼はその能力で触れたものを爆弾に変えることができる。

 したがって。

(時間を空ければそれだけ手札を増やされる………一秒でも早く間を詰める………ッッ!!)

 再度、突貫。

 雷撃をまとう足で床を蹴り、爆弾魔へと最短距離で走り込む。

 その時。

 疾駆し、引き伸ばされる視界の先。

 男の顔が変わるのを見た。

 追い詰められて焦りを(あらわ)にする中に、一縷の勝機を見出す顔へと。

「今しかないかね」

 ポケットに突っ込まれていた男の腕が抜かれ、掴まれていたものが網のようにばら撒かれた。

 撒かれたのは色とりどり、大量のチョーク。

 白を基調として、赤、青、緑、黄色。

 淡い色相が洋斗の行く先を覆い尽くす。

(───っ)

 洋斗の瞳がわずかに揺れる、その程度の動作しか許されないほどの一瞬。

 その時既に、チョークの淡色は太陽のような赤熱の光を放っ





 瞬間。

 ド     ッッッ!!!!、と。

 赤熱した爆弾(チョーク)は膨大な熱を解き放った。





 猛烈な光と空気を叩く爆音が大きく轟いた。

 コンクリートの躯体すらも衝撃で亀裂が入った。

 廊下一面のガラスは内側から砕かれ、階下の由梨香達へ散らされた。

 そして、

 その爆風を間近で受けた真砂晴敏は酸欠に近い状態に陥っていた。

「………っは………………ッは………っ!!」

(や、やはりあれだけの爆発を目の前で起こすのは無茶が過ぎたか………っ)

『爆発』という特異な能力は強力である一方で自分に対するリスクも相当である。全方位にばら撒かれる熱や光に、変わりに容赦なく奪い取られる酸素。そのリスクを最小化する上でも爆破には適当な距離と爆破範囲のコントロールが必要なのである。

 それでもチョークをばら撒いたのは、ただの焦りに他ならない。感性は歪んでいても芸術家、美学を捨てて生存本能を優先するタイミングを計る程度の感受性は持ち合わせていた。

 辛うじて腕で顔を隠したものの、回折した光だけでも目を焼くには十分だった。目の奥に焼き付いた熱線がまだ残っており、眼前では今も炎の壁が揺れている。




 ───まさにその中から、であった。


 ボッッ!!、と。

 何かが、その壁を突き破った。




「ばッ!!??ばが………ッッッッ!??!?」

『それ』は真砂の首を鷲掴みし、奥の壁に叩きつける。

 燃え盛る爆炎の中から突き出てきた『それ』は煙に巻かれながらも五指で首を握り、真砂の抵抗では引き剥がす事ができなかった。

 立ち込める煙に交じる雷電が『それ』の正体を物語っていた。

「………言ったろ、苦戦もしないって」

『それ』───首を掴む洋斗の腕を包む制服は焼け焦げ、今も煙を放っている。

 彼は確かに爆風に呑まれている。

 なのに。

「なぜ………死なずとも、威力は相当だったはず………ッ」

「確かに想定以上だったよ」

 空中にばら撒かれたのはあくまでもチョーク。チョーク一本の爆発力を既に見ていた洋斗としては空間を埋め尽くすほどの爆発が生じるとは思っていなかった。それもあり予想以上にダメージを受けたことは事実である。

 しかし。

「けど、どんな爆発だって一瞬で突き抜けてしまえば大して変わんないだろ。前にも一度顔面に食らってるしな」

「一瞬で………………………」

 理屈は簡潔だった。

 沸騰するやかんだって一瞬手が触れるだけなら十分可能だ。揺らめくろうそくだって手を掠めるだけであれば跡すら残らない。それと同じである。

 しかし、それを成し遂げるためには一瞬で手を引っ込める反射神経や熱が伝わる前に熱源を通り抜けるだけの速度がなければならない。

 そして。

 先の爆発で同じことをしようとすれば。

 それを成せるだけの速度を出そうとすれば。

 爆発の時にブレーキをかけず、()()()()()()()()()()()()()()


「まさか、飛び込んだのか………?直撃すると、分かったうえで………っ!?」


 ぞくり、と。

 真砂の背筋を冷たい何かが撫でる。

 可能なのか、そんな事が?

 文字通り命をかける行為の判断を、あの一瞬の間に即座に下したというのか?

 心底の疑念に答えるように。

「この位のハプニングなら何度だって超えてきたよ。あぁくっそ喉が痛い」

 煙に巻かれて軽く咳き込みながらも口にする彼の手は、思いの丈を示すように一層力強く握られる。

「あんたがどこのどいつだか知らない。そんな風には見えないけどこうしなきゃならない理由があるのかも知らない。けどこうやって俺の世界をかき乱そうってんなら容赦はしない。俺はそれを全力で食い止めるぞ?これであんたの『差し金』にもそれが伝わればいいんだけどな」

「き、君は………」

 何者なのか?

 その問いが口を滑り出る直前。

 彼の目と目が合った瞬間だった。

 その目は最早ひとりの学生が宿して良いものではなかった。

 木の(うろ)の中で揺れる炎のような、

 一面の暗雲に光る稲妻のような、

 ショーケースの中で鋭い銀光を跳ね返すひと振りの刀のような。

 冷酷ともいえる静けさに宿る、背後で未だ揺れる爆炎以上の洗練された何かを見た。

「………………そうか」

 その瞳から背けるように、真砂はそっと目を閉じる───その眼光に、問いに対する答えを見た気がしたから。

「ならば、気をつけることだ。私の『差し金』がどれだけの者かは………私も知らない。だが少なくとも、君を見ていることは間違いない。恐らくこうしている今も、君のすぐ近くでね」

「………………ありがとう」

 首元を離さなかった手がふっと離れたその瞬間、電光石火の拳が真砂の顎を刈り取った。
























「ん〜。うん。まぁ目的は達成できたし十分かな。しっかしあんまり確信めいたこと言わないでくれるかな………あんまり的を射すぎるとこっちの肝が冷えちゃうんだけど。あれ、まさか見えてた?」




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