表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~  作者: ふろすと
現世編
32/61

11章-4:過去との決着

 


 洋斗が苦悶の声を上げ始めて数分した後、

 彼の身体を覆い尽くして荒れ狂っていた赤黒い雷撃は、突然消えた。



 雷撃の弾ける音も押さえつけるようなプレッシャーも消え、残ったのは膝を突いて力無く空を仰ぐ少年の姿のみ。

(…………!今なら………………!)

 これを隙と見たマーデルの指示に従い、床材をねじった棘が洋斗に向かって空を切った。

「………………………」

 対し洋斗の行動は、だらりと下がっていた腕で棘を振り払う、という単純な動きで応じた。

 それだけで、『赤黒い雷撃をまとった』腕はこれまで通りにそれを砕いた。

 ───ただ、不本意なことが一つ。

 砕いた棘の破片が、一直線にユリアへ飛んでいった。

「っ………………………!!」

 最初から戦意を削がれていたユリアには、それに対応できる余裕はない。状景反射から、その腕は(かたわ)らでうずくまるナギを抱き込み、その眼はぐっと閉じて訪れる苦痛を覚悟する。

 が、覚悟していた激痛はいつまで経っても訪れない。

 その代わりに

 ゴッ!!、と。

 岩が砕ける音が響いた。


「ごめんな、まだ加減が難しい」

 聞き覚えのある声が耳をそっと揺する。


 まるで何年も聞いていないかのような、とても懐かしい声に感じる。

 ユリアはゆっくり、ゆっくりとその眼を開く。


 そこにいたのは深紅の瞳で自分を見下ろす彼の姿だった。


「っ…………!?」

 瞳孔が開いているわけでも感情がむき出しになっているわけでもない、にもかかわらずその視線はユリアに突き刺さり、彼女の心を締めつける。身体が萎縮してしまう。

 やっぱり、今の声は幻聴なのか?

 再び心を閉ざしかけたとき───。

「ナギを、任せて良いか?」

 間違い無く、彼が口を動かして発した声を聞いた。

「……………………………」

 何か言わなければ───そう思っていてもその口から言葉は出ず、ユリアはただ首を縦に振ることしかできなかった。

 死んだはずの彼が動き、声まで聞かせてくれた。嬉しすぎて言葉が出ない、

 それもある。

 けれども───。

 そんな彼女の首肯を受け取り、洋斗はその眼をマーデルに向ける。

「もう少し待っててくれ、直ぐに終わらせる」

 そう(つぶや)いて、洋斗は一気に駆けだした。

 近寄らせてはいけない───そう判断したマーデルは棘を突き出す。

 それを洋斗は、身体をずらして回避した。

「!?」

(躱した………!?)

 これまでなら腕を振って、能力で周囲諸共破壊していたはずだ。

 先程とは違う行動パターンに動揺している間に洋斗は赤い気を脚に乗せて放つ。

 推進力の乗った蹴りを、壁で受けずに回避した。そういった対応の変化を瞬時に切り替えられるのも、プログラムの利点だ。

 人間でいう眼の位置に設置されたカメラを通してそれが機能していることを確認したDr.マーデルは、それでも思考考察を止めることはない。

(…………………先程とはまた動きが変わった)

 どちらかと言えば、膝を突く前の少年は『戦う』というより『暴れる』という雰囲気だった。『鬼』という肩書きにふさわしい、と言えるほどに。

 そして無闇やたらと能力を開放していたため、相手を触発しながら消耗戦に持ち込み相手の燃料切れ、及び肉体の限界を狙えばそれで『勝ち』だった。

 しかし、今の少年の動きには明らかに思考や戦略が備わっている。あの忌々しい鬼の能力も今はきちんとオン・オフの切り替えが行われており、正直なところガス欠の可能性は低く、それよりも早くこちらの資材が底をつくという見立てだ。


『破壊』と『再生』の戦争も終焉を迎えつつある。マーデル自身はそう考えていた。それも、『破壊』の方が上を行くという形での終焉。『鬼』という怪物に思考が加わった事で展開が一気にひっくり返ってしまっている。


(『人』の域は越えたが『怪物』にまでは至っていなかった、というわけか………………)

 赤黒い雷撃が仮初めの身体を貫き、腹部を粉砕される。

 損傷した身体を再生させていく中で、限界とか潮時とか、そういった諦めの感情が(にじ)んでくるのを感じた。勿論、目の前に自身の研究課題として相応しい題材があるという状況でみすみすそれを見逃すような醜態を犯すことは、研究者として許されることではない。だが同時に、自身にわき上がる知的好奇心に従って死地に脚を突っ込むのもまた、一人の研究者として生きる自分の性ではないかとも考えていた。

 ───敗北。

 そんな言葉が頭に浮かんだのは、丁度洋斗に投げ飛ばされて、床に叩きつけられた時だった。

(!?この座標は…………………!)

 起きあがる暇を与えないために洋斗は一気に距離を詰め、マーデルの首すぐ横の床をぐっと踏みしめる。拳を握りしめ、腕にため込んだ雷撃の狙いを引き絞る。

「いろんなモンの恨みだ…………」

 狙いは仰向けになっているマーデルの顔面、正確には眼と眼の間の眉間にあたる部分。そこ一点に照準を合わせて、胸中に渦巻いている感情を出せる限り握り拳にねじり込む。そして、



「歯食いしばって受け取れクソ野郎」

 怒号に合わせて身体にため込んだ力を一気に解放して拳を殴りつけると同時に、真下へと全力の雷撃をたたき込んだ。





 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ここは彼らが争っている地点から更に10mほど下にある秘密の地下室。そこでは、一つの黒い直方体がうなりをあげていた。


 その正体は、マーデル・F・サウスベルグのマスターデータ、及びそれを運用するためのコンピュータ───『本体』の生体維持装置の集合体。


 どんなに能力の世界に全く別の概念を取り入れたとしても、頭脳の複製は叶わなかった。そのため、椅子に座った『本体』の頭にヘッドギアをつけ、それと接続することでマーデルの『操作』を行っていたのだ。


 その空間を、上から下へと、

 赤黒い雷撃が一瞬にして駆け抜けた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 マーデルが仰向けになっていた座標は、偶然にも地下室の真上にあたる位置だった。


 洋斗の一撃は10mに及ぶ厚さの岩盤を粉砕し、その直下の地下室ごと消し飛ばした。

 ズドォォォォォオン!!!、と。

 戦車の砲口を真下に向けてそのまま地面に砲撃したような、轟音と衝撃が空間を支配する。

 フィールドだった白い地下空間はその一点から波紋のように亀裂を広げ、崩落した。必然的にその床に立っていた洋斗、ユリア、ナギの三人はその下───瓦礫の山の上へと落下する。

 洋斗は軋む体を強引に起こしてマーデルの姿を探す。自分の周りを取り囲んでいたのは先程の一撃で突き破った岩盤の破片と、それに押しつぶされた箱の断片。彼の姿が見つかるどころか岩が崩れる以外の音が聞こえなかった。

 ふと、無意味に上を見上げてみる。

 大きく口を開けて筒のようになった岩盤の上から、地下空間の照明から放射された光が優しく彼を照らしている。まるで、天窓から大空を眺めているみたいだ。

 洋斗の肩から、張り詰めていた力が抜けていくのを感じた。

「………………………おわっ、た……………か……………………………」

 ここまで言い残し、ついに力を使い果たした洋斗は、気絶して岩肌に身を投じる。もっとも、身体に穴が空いた状態でここまで動けていたこと自体が異常なことに違いないのだが、緊張の糸が切れたのだろう。

「こほ、ひろ……………と……………くん……………………っ」

 急に倒れた洋斗のそばに近寄ろうとしていたユリアも、とうとう力尽きて倒れる。洋斗ほどの外傷はないが、主にメンタル面でのダメージが大きすぎたのだ。ユリアはそのまま動けず、静かに意識を手放した。





 その後、マーデルの死と洋斗の重い一撃によって研究所全体の崩壊が始まる。それにより外壁も崩壊して再び進入した佐久間と、彼の呼びかけによって到着、待機してした警察、救急などの団体によって、事の収拾が急がれた。





 ー2014.04.21ー



「…………………………んっ」

 桐崎 洋斗は、久々に感じる日の暖かさをその身に受けつつ目を覚ました。

 目の前に見えたのは、白い天井、風に揺れるカーテン、窓から顔を覗く空の青、そして、

「……………………あ」

 斜め上から自分を見下ろしていた宣 鈴麗の顔だった。鈴麗は目を丸くして、口がぽかんと開いた状態でしばし硬直。そして、

 ガダンッ!

 と派手な音を立てながらベッドのそばの丸椅子から立ち上がり部屋から飛び出していった。

 学校の保健室の扉に防音機能まで備わっているはずもなく、外からは鉢合わせたのであろう例の二人の会話が聞こえてきた。

「うわぁッ!?鈴麗、いきなり飛び出して来ちゃ危ないよ!」

「あ!あああ芦屋ごめん!ってそうじゃない!洋斗が、洋斗が目覚ましたのよ!」

「え……………………えぇ!?それ本当?」

「ほ、ホントよ!私がこの目で見たんだから!多分」

「多分!?と、とにかく鈴麗は先生呼んできて!」

「わ、分かったわ行ってくる!」

「待って!そっちじゃないよ!反対!」

 ……………………いくらなんでも慌てすぎじゃなかろうか?

 ぼんやりと考えているそばから、芦屋が部屋に滑り込んできた。

「洋斗!よかったやっぱり目を覚ましてたんだね!」

「……………………いくらなんでも慌てすぎじゃないか?」

 すかさず思っていたことをそのまま口に出す。芦屋は言われて気づいたのか、若干の動揺を見せながら一呼吸置いた。

「すぅ、ふぅ…………ごめんね。でも良かったよ、ずっと心配してたんだから」

「………………鈴麗は無事だったみたいだな」

「うん。坂華木先生に沈められた次の日には目を覚ましてずっとボクに謝りながら泣きじゃくってたけど、その次の日にはピンピンして元気な鈴麗に戻ってくれたよ。その後に洋斗達のことを伝えたら、よほど心配してたのか、同じ所に10分もいられないくらいソワソワしてた」

「そっか…………」

「あと学校のことだけど、事が収まるまでは無期限で休校になるみたい。洗脳されてた生徒たちの療養もあるし、その上学校で起こった事件の原因も調べなきゃいけないからね。けど、六甲山の研究所が崩れたときに中にあったものも隠滅されてたみたいで、休校は結構長く続くみたい」

 その後鈴麗と保健医が部屋に入ってきた。洋斗と保健医は簡単な質疑応答を交わし、自分の容態を教えてくれた。

 要約すると、脇腹に空いた穴は全治3ヶ月。貫通の際に腸が断裂していたらしいが、手術するまでは点滴、手術で腸をつなぎ合わせた後は徐々に食事を戻していけばこれまで通りの生活は可能になるそうだ。どちらかというと手術後に元の体力に戻すことの方が努力が必要、とのこと。3ヶ月後のリハビリはなかなか大変そうだ。

 そして、もう一つ。

 ユリアの容態はかなり安定しているようだ。怪我の内容は右肩と右ふくらはぎの銃痕───どちらも全治1ヶ月。だが、メンタル面を始めとした疲労超過によるものなのか、未だ意識は戻っていない。ナギは特に外傷はなく入院(治療に効果があるのかは不明)もせずにセントヘレナ邸に戻っているそうだが、芦屋曰く食事などの用事があるとき以外はずっと部屋に閉じこもっているそうだ。その食事も今は普通に食べているそうだが、帰宅後は喉も通らず、腹に入れてもすぐ戻してしまうような状況だったらしい。

「あ、あとこれ。洋斗も知っておきたいだろうから」

 保健医が部屋から出た後に、芦屋から手渡されたのは当日の新聞だった。文面には、フォートレスで起こった事件の内容や被害状況をはじめ、マーデル・F・サウスベルグの死去、六甲山の破壊状況、黄金の光線や赤黒い雷撃の目撃証言などが多々書かれてあった。しかし、どこを見ても異世界の技術に関しては何一つ書かれていなかった。研究所の崩壊によって瓦礫の一つとなってしまったのだろう。これで、異世界への手がかりとともにそこのテクノロジーは歴史の闇に消えてしまったわけだ。



 芦屋と鈴麗が退出し、今はベッドに寝かされている洋斗しかいない。

 洋斗はベッドの中で枕に頭をうずめながら、あった出来事を思い返す。

 そこで、学校の窮地を救うべく研究所まで乗り込んだにも関わらず、マーデルも消えてしまったうえに研究所まで破壊してしまったことで、結局事件の原因に繋がるものを手に入れていないことに気づく。

 何もすることなく事態が解決に向かっていったから良かったものの、もし解決していなかったら───と考えると思わず冷や汗が浮かんだ。さらに、同様に異世界へと通ずる手がかりも掴むことは叶わなかった。これで元の世界に帰る方法についても見事に振り出しへと戻ったわけだ。

 ここまでなら『うわ、結局何しに行ったんだよ俺…………』と頭抱えるなり鼻で笑うなりしていたのだが、やはり収穫はあった。


 それは、最も疑問を抱いていた過去の事件について知ることが出来たこと、それと、朱点童子の存在を知ることが出来たことだ。


 窓から射し込む日の光にそっと手をかざしてみる。手のひらは光を透過して赤く燃えて見える。特になんの変哲もなく、普通に人間の手そのものだった。

 が、今この手の中には朱点童子から引き継いだ鬼の気が渦巻いている。

 朱点童子と対話をした後の対マーデル戦では、特に教わっていない筈の妖気を抵抗なく使いこなすことが出来た。どうやらあいつの言っていたとおり、本当にこの力は俺の物になってしまったらしい。

(……………………この力は、無闇に使わない方がいいな)

 そんなことを考える。もしそれを聞いたらあいつは『それじゃ君が傷つくじゃないか!』と言って怒るかも知れないけれど、日常の中でこれを使うといろいろ問題が起こりそうだし、何より、これは誰かを守るために使う力でないといけない。これは『誰かを守る俺を守る力』だから、絶対に私利私欲で使うようなことがあってはならない。

 それが、あの時に俺の命を救ってくれた親愛なる悪霊との約束だから。


(………………………この力で救ってみせるさ。だからいざとなったら、頼りにしてるぜ?)

 光にかざした手を、力を込めてしっかりと握り締めた。





 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ここで、学校で起こった一連の事件は幕を閉じた。

 しかし、

 それが同時に新しい事件の引き金となることを、まだ知らない。




 ー    .  .  ー



 煌々と輝く黄金の大地、そして、その上にそびえる純白の美しい神殿の数々。

 人間が生きる4次元時空の更に外側───人類の感知できない余剰次元領域。

 その一角、とりわけ大きい神殿に一人の天使が舞い降りた。

「ミカエル様」

「何だ?」

 ───ミカエル

 神の右席に座する四大天使の一角にして天使の頂点に位置するとされる熾天使(してんし)である。

 ミカエルは、熾天使の象徴ともされる三対六枚羽を器用に折り畳み、絢爛豪華な椅子に腰を下ろしている。

 そんなミカエルの前で片膝をつき、天使は促されるままに用件を伝えた。

「実は地上界にて、使用者不明の神通力が無断行使されたのを感知した、とのことです」

「……………………そうか」

「それでその、如何なさいましょう?」

 ここでの神通力というのは言葉通り『神に通ずる力』、すなわち神に仕える天使にのみ使用が許される特異な力の総称で、とある世界で仏教修行の末に手に入れる、六神通のさらに上の次元ともいえる力。下界に存在するあらゆる概念を支配統治する力。

(地上界で神通力が…………………まさか、あいつか?だとすれば…………………)

「その件については私が対処しよう」

「かしこまりました。」

 用件を言い終え、天使は神殿から飛び去っていく。

 椅子の肘置きに頬杖を突き、先の用件について思考を巡らせる。

「これは、利用できるかも知れないな。ふふ……………………」

 ミカエルの含むような笑い声は、神殿の空間にゆったりと響き渡った。







 ー2014.04.18ー


 変わって、こちらは古風な木造の屋敷、蘇我の邸宅。

「くぅーーきたきたきたぁぁぁぁぁ!!やっぱり風呂上がりと言えばこれだよね!」

 インド人が巻いているターバンのように頭にタオルを巻いて濡れた髪をまとめ、蘇我 舞咲(ソガノ マサキ)は口をすぼめながら絞り上げるように声を漏らす。

「風呂上がり真っ先に梅干し食う奴なんておまえしかいないっつーの」

「なんだとぅ!?」

 そんなハイなテンションにすかさず水を差したのは、舞咲の兄、蘇我 雅仁(ソガノ マサヒト)。そして、至福の一時に茶々を入れられた舞咲もすかさず噛みつく。

「分かってない!お風呂上がりの緩みきった身体に程良い酸味で一気に喝を入れてくれるこの梅干し様を愚弄するかこのバカ兄さま!!」

「後は寝るだけ、って時に喝入れたら寝れねーじゃんか。バカはおまえだろ頭までクエン酸で腐っちまったんじゃねーのか?」

「梅干しには防腐作用がありますもんそんなことも知らないのかバカ兄さま!頭腐らせて梅干し摂取不足を末代まで後悔しろ!!」

 ややエネルギッシュなところがある妹だが、そこに逐一茶々を入れてしまうのがこの兄である。なので『風呂上がりの梅干し』という不明な習慣に横やりを入れてしまうのはいつものこと、それこそこの蘇我邸宅における習慣なのだ。


 そんな通過儀礼を切り上げ、舞咲は一人自室の布団に向かう。

「もー兄さまってば、何故梅干しの偉大さが分からんかな………………………今度ご飯にでも混ぜ込んでみよう」

 因みにここで言うご飯とは、『白飯』のことではなく『明日の晩ご飯』という意味。メインとなる議題は───明日の献立であるハンバーグにどのように梅干しをコラボさせるのか───である。

「やっぱり果肉をひき肉に混ぜるのが無難…………いやそれだと酸味が肉汁に負けちゃうかな?ケチャップを梅干しペーストにすり替えるのも良いな。原型留めてないのが気に食わないけど…………」

 そんなことを考えながら自室の(ふすま)を引いた。



「これは…………………!」

 舞咲はまだ部屋の電気をつけていない。にもかかわらず舞咲の部屋は柔らかい光でうっすらと照らされていた。

 その光源となっていたのは、部屋の隅に飾ってある一本の刀。


 童子切(どうしきり)

 これがこの刀に与えられた銘であり、天下五剣の一つに数えられる稀代の名刀だ。

 刀匠・大原安綱によって鍛えられたこの刀は、ある一つの伝説を持つ。

 平安時代に、源頼光がこれを用いて当時大江山に住み着いていた朱点童子の首を落とした、というものでこの刀の銘の由来ともなっている。


「そんな、まさか……………………」

 その刀が時代を超えて再び獲物を嗅ぎ付け、こうして雄叫びを挙げ始めているのだとしたら…………。

(鬼の封印が解けた……………?いや違う、そんなはず無い。もしそれが本当ならお父様から連絡がないのはおかしいし、第一この地域一帯に避難命令がでて大わらわになってるはず!これは一体…………………)

 この刀は蘇我家に代々伝わってきた家宝であると同時に、世を脅かす鬼を退治する家系である事の象徴でもある。そしてそれは、蘇我家の使命であり、彼らを鬼退治へと縛る鎖でもある。

 その上、舞咲の中には飛鳥の時代から代々受け継がれてきた特殊な力がある。皮肉にも、その力もまた、その当時に鬼を退治したとされるものであった。

 もし、鬼が再び現世の地を荒らすようなことがあれば、直接対決は避けられない。

「………………………」


 宿命という名の渦は、静かに、確実に、一人の少女を騒乱へと引きずり込んでいく。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ