8章-1:聖夜が甘いとは限らない
ー2012.12.23ー
~洋斗の場合~
「……………………………………………………」
桐崎 洋斗は、悩んでいた。
ここは郊内にある某アクセサリーショップ。
こんな所など来る理由など無いと避けていた洋斗が何故柄にもなくここに来て頭を悩ませているのか?
なぜなら、明日がクリスマスイブだからだ。
言うまでもないことだが、洋斗はユリアの事が気になっている。なので、『この際だから何かプレゼントでも』と思って足を運んだのがこの場所なのだ。
(んー、ユリアのイメージ的にこの店なんだけど……………物までは決めきれないな……………………)
正直な気持ち、店をたくさん回るとド壺にはまってしまいそうなので、もうここで決めてしまいたかった。
かといってこのかき入れ時、いつまでも商品の前で唸っていては邪魔だろう。
そう思って、ひとまず整理の時間もかねて外へ出る。
「「どうしたもんか………………………ん?」」
不意にこぼした言葉が誰かと重なった。その方を見てみると、
「……………あ」
ー2012.12.23ー
~芦屋の場合~
「……………………………………………………」
芦屋 道行は、悩んでいた。
ここは郊内にある某アクセサリーショップ。
こんな所など来る理由など無いと避けていた芦屋が何故柄にもなくここに来て頭を悩ませているのか?
なぜなら、明日がクリスマスイブだからだ。
説明を入れておくと、芦屋は鈴麗の事が気になっている。なので、『この際だから何かプレゼントでも』と思って足を運んだのがこの場所なのだ。
(んー、鈴麗のイメージ的にこの店なんだけど……………物までは決めきれない……………………)
正直な気持ち、店をたくさん回るとド壺にはまってしまいそうなので、もうここで決めてしまいたかった。
かといってこのかき入れ時、いつまでも商品の前で唸っていては邪魔だろう。
そう思って、ひとまず整理の時間もかねて外へ出る。
「「どうしたもんか………………………ん?」」
不意にこぼした言葉が誰かと重なった。その方を見てみると、
「……………あ」
───そこには、
同じように口を開けている洋斗の姿があった。
ー2012.12.23ー
~ユリアの場合~
「んむむ…………………………………………」
ユリア・セントヘレナは、悩んでいた。
ここは郊内にある某男物用洋服店。
こんな所など来る理由など無いと避けていたユリアが何故柄にもなくここに来て頭を悩ませているのか?
なぜなら、明日がクリスマスイブだからだ。
言うまでもないことだが、ユリアは洋斗の事が気になっている。なので、『この際なので何かプレゼントでも』と思って足を運んだのがこの場所なのだ。
(んー、洋斗君のイメージ的にこの店なんだけど……………物までは決めきれないよ……………………)
正直な気持ち、店をたくさん回るとド壺にはまってしまいそうなので、もうここで決めてしまいたかった。
かといってこのかき入れ時、いつまでも商品の前で唸っていては邪魔だろう。
そう思って、ひとまず整理の時間もかねて外へ出る。
「「どうしようかな………………………ん?」」
不意にこぼした言葉が誰かと重なった。その方を見てみると、
「……………あ」
ー2012.12.23ー
~鈴麗の場合~
「……………………………………………………」
黄 鈴麗は、悩んでいた。
ここは郊内にある某男物用洋服店。
こんな所、来る理由など無いと避けていた鈴麗が何故柄にもなくここに来て頭を悩ませているのか?
なぜなら、明日がクリスマスイブだからだ。
説明を入れておくと、鈴麗は芦屋の事が気になっている。だが、『この際だから何かプレゼントでも』と思って足を運んだのがこの場所なのだ。
(んー、芦屋のイメージ的にこの店なんだけど……………物までは決めきれないわ……………………)
正直な気持ち、店をたくさん回るとド壺にはまってしまいそうなので、もうここで決めてしまいたかった。
かといってこのかき入れ時、いつまでも商品の前で唸っていては邪魔だろう。
そう思って、ひとまず整理の時間もかねて外へ出る。
「「どうしようかな………………………ん?」」
不意にこぼした言葉が誰かと重なった。その方を見てみると、
「……………あ」
───そこには、
同じように口を開けているユリアの姿があった。
~洋斗・芦屋の場合~
変わって、ここは公園の西側。
「にしても、あんな所で会うとはな」
「本当だよ!洋斗もその、クリスマスプレゼントを買いに?」
「まぁな、ユリアにでも渡そうかと思って」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「なんだ、分かってたのか?そっちは………………鈴麗か?」
「え!?何で分かったの?」
「結構わかりやすいぞ?」
それからしばらく談笑して、
「じゃ、そろそろ行くか」
「そうだね、折角だから二人で探そうか」
二人はベンチから腰を上げ、再びアクセサリーショップに向かうのだった。
~ユリア・鈴麗の場合~
変わって、ここは公園の東側。
「にしても、あんな所で会うとはね」
「本当ですね!鈴麗もその、クリスマスプレゼントを買いに?」
「………………うん、まぁね、芦屋にでも渡そうかと思って……………………」
「あ、やっぱりそうなんですね」
「なんだ、分かってたの?そっちは洋斗よね?」
「え!?何で分かったのです?」
「誰だって分かるわよアンタ見てたら」
それからしばらく談笑して、
「じゃ、そろそろ行こっか」
「そうですね、折角だから二人で探しましょう」
二人はベンチから腰を上げ、再び洋服店に向かうのだった。
───こうして、23日は終わりを告げて24日、クリスマスイブになった。
ー2012.12.24ー
~洋斗・ユリアの場合~
今日はクリスマスイブ、月曜日だが祝日なので学校は休みだ。
ということもあって、町は完全にクリスマスムード満点に塗り替えられていた。各店頭がクリスマス一色にデコレーションされ、公園の中央には巨大なツリーがそびえ立ち周囲を明るく照らしている。
「く、クリスマスですね」
「そ、そうだな」
「主様!その『くりすます』とは何なのです?」
「え……………まあそりゃ刀がクリスマスを知ってる訳ないか」
「そうですね、簡単に言うと有名なおじさんの誕生日です」
「ほうほう、余程愛されているおじさんとお見受けするです。是非一度お会いしたいです!」
「うーん、なんか違うようで大体合ってるな………………。あとそのおじさんはもういないぞ」
「何ですと!?そんなときにバカ騒ぎなど死者への冒涜、今すぐ叱りに行くです!」
「まて!そんな事したらいろんな意味で台無しだ!」
まだ昼近いからということもあり、ムードとはほど遠いものの派手に盛り上がっている。同様にヒートアップしているナギを羽交い締めにしていると、
「その…………」
窓の外を見ていたユリアが、ちらっと洋斗の方を見て言った。
「外、行きませんか?」
(うう、言っちゃいました。これってもしやデートの誘いになってしまうのでしょうか?)
「うんまぁ、楽しそうだしな」
(あれ?これってもしかしてデートの誘い…………?)
二人そろってついつい頬が熱くなってしまう。だが、互いに何故相手の顔が赤くなっているのかが分かっていない。そんなラブコメ臭溢れるこの場面を、キョトンとした顔で見つめているのはナギで、こみ上げる笑いを全力で押さえ込みながら眺めているのはこの家の執事・ゴードンさんである。
「外は寒いので、厚着で出て下さいね?」
「「え!?は、はい!」」
(………………全くこの二人は、見てて飽きませんね)
「……フ………………フフ………」
「?」
二人がいそいそと外へ出た後も腹を押さえているゴードンさんを横目に、セントヘレナ家メイドの一人、セリカさんは首を傾げていた。
~~~~~~~~~~~~~~~
「ホント騒がしいな。この辺は」
「でもとても楽しいですよ!興奮覚め止まぬ、ってやつです!」
「それ、『興奮さめやらぬ』の間違いだろ」
「そうなんですか!?てっきり『さめやらぬ』が間違いかと…………」
今はもう日も落ちて、家を出た時間帯では目立たなかったイルミネーションも暗くなったことでその輝きを振り撒き始める。二人はその中でも更に際立つ、公園中央のクリスマスツリーの傍まで歩いてきた。ちなみに、ナギはあのテンションのまま外へ出したら何が起こるか分からないため家でお留守番である。今ごろセリカさんとケーキを食べながらはしゃいでいることだろう。
───ようするに、今は本当に二人きりだ。
この機会を見逃せるほど、両者は無頓着でも鈍感でもなかった。
((この状況は…………………今しかない!))
「ユリア」「洋斗君」
「「…………………………………………へ?」」
二人の声が見事に被ってしまう。最早お決まりの展開である。
「えっと、じゃあ俺から行くぞ?その、これ…………」
「これって、もしかして…………」
洋斗は、丁寧にラッピングされている小さな箱を手渡す。
「その、プレゼントです…………」
頭をかきながら小恥ずかしさを紛らわせる洋斗。これはもちろん前日に買ったものだ。
「ふわァ…………開けていいですか?」
「おう、もちろん」
「……………………………わぁ、きれいです…………」
箱の中から取り出したのは、銀色のネックレスだった。
銀色の細い鎖の輪に月と星がモチーフのペンダントがかかったもので、イルミネーションの光を跳ね返して七色に輝いていた。
「これじゃ、私のと釣り合わないです……………」
「どういうことだ?」
「その、実は……………………………これ」
ユリアがごそごそとカバンをあさりはじめ、何かを取り出して洋斗に差し出した。
それは紺色のマフラー。ユリアが洋服店で買ったものだ。
「その、受け取って下さい!」
「…………………………」
正直、かなり驚いてしまったショックで言葉が出なかった洋斗だが、大事にそれを手に取り、自分の首に緩く巻いてみせる。
「うん、すげー暖かい。ありがとう」
「……………~~~~~~!!」
それを聞いて、不安げだったユリアの表情が日の出のように明るく眩しいものになっていく。
そして安心した顔で、手に掛けていたネックレスを器用に首にかけた。
「どう、ですか?」
ユリアがまたも不安げに聞いてくる。
七色に光る月と星が、ユリアの白い首元を更に美しく飾っていた。
「……………よかった、ちゃんと似合ってるよ。俺の勘は狂ってなかった」
「ふふっ。洋斗君…………」
ユリアはそっと目を閉じて一呼吸の間をおく。そして、紅潮した頬を緩ませた。
「ありがとうございます!大切にしますねっ!」
言葉が出なかった。
思わず見とれてしまっていた。
太陽に引けを取らない子供らしい明るさと、それと共存する上品さと繊細さ。まさに夜空に浮かぶ満月に匹敵するほど美しい笑顔だった。
「洋斗君?」
すっかり桃源郷へと飛んでしまった洋斗の心は、鶴───ではなくユリアの一声によって引き戻される。
「!?か、体冷えるし、もう少し歩いたら帰るか」
「…………………そうですねっ!」
こうして、洋斗・ユリアのクリスマスイブは終わりを告げた。
~芦屋・鈴麗の場合~
『もしもし、今日遊ばない?』
「もしm……………………………………へ?」
『へ?じゃないわよ!どーせ用事なんて無いんでしょ?折角だから付き合ってあげる!』
「え、あ、うん。じゃあ学校の前で…………」
今日二人を引き合わせたのは、芦屋のちっぽけな勇気、ではなく鈴麗持ち前の行動力だった。
「はぁー…………………」
明日は僕から誘おう───と意気込んでいた昨日の計画を、いの一番、最初の出鼻から挫かれてしまってやや落ち気味になる芦屋のテンション。それを集合場所である校門前で再度立て直す。こんな所で俯いてしまってはプレゼントなど到底手渡せない、と鬱気味な心に鞭を打つ。
「…………………………あれ」
と、ここでふと思う。
「そういえば今日、どこに行くんだろ?」
目的地に関する話を一切していないのである。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
最早ブルーを通り越してブラック寄りのパープルな気分になる芦屋。人通りが多い校門前でがっくりと腰を落としそうになるのを、ひざに両手を付いて全力で堪える。
もう、初手から挫きっぱなしである。鈴麗に手を引かれて振り回される未来が見えた気がした。
「おーい!」
そこに予定の10分遅れで駆けつける鈴麗。今日の二人はもちろん制服ではなく普段着だった。
鈴麗の服装はボーイッシュを予想していた芦屋に反して、白いニットのワンピースに黒のレギンスというかなり女性的なものだった。伸縮性のあるニット素材が女性特有の美しい曲線美をくっきりと描き出し、雪のようなニットの純白が鈴麗の鮮やかな橙色の髪をより一層際立たせていた。
「ごめんね、遅くなって!」
首元でぽふんと両手を合わせて(袖から指だけがでている状況なのできれいな音は鳴らなかった)、ぱちんとウインクする鈴麗。あまり悪気が無さそうなところも彼女らしい。そう腹を括っていた芦屋は、
「ううん、気にしてないよ」
特にむっ、とすることもなく気軽に常套句を伝えることが出来た。
「じゃー早速行こっ!」
鈴麗は芦屋を引き連れて目的地へと向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~
とある所まで歩いてきた二人。通りの光景から大方の予想はついてしまったが、一応聞いてみることにした。
「えっと、僕たちはどこに向かってるの?」
「ん?遊園地!」
「やっぱりね……………」
視界の向こう側に明らかに遊園地らしき所がある。これで遊園地でなければむしろツッコミを入れるところである。
引っ張り引っ張られながら遊園地に入った二人。料金は何だかんだで芦屋持ちだ。なにやら今の鈴麗は金欠状態なのだそう。無論芦屋も決して多く持っている訳ではないのだが、そこは鈴麗の口八丁手八丁で押し切られてしまった。
「じゃあまずあれね!」
鈴麗が指さした先には、
『空中を駆けるジェットコースター』だった。
最新のジェットコースターは、風の能力で大気を掴んで浮き上がり、火の推進力で前へ進む。そのため、この乗り物には『レール』というものが存在しない。そのため、軌道がランダムで、レールから飛び出すという危険性も、レールとの摩擦による抵抗も存在しないため、空気抵抗の限界までスピードを出して遊園地中を縦横無尽に駆け回ることが出来る。それどころか、空気抵抗すらも能力で操ってしまえば条件次第で亜音速の域にまで達する、いわばモンスターマシンの卵なのだ。
ここで補足を加えると、鈴麗は絶叫系が得意、芦屋は絶叫系が苦手だ。
当然、ジェットコースターの列に並んでいる間のテンションは天地ほどの差が出てくるわけで───。
「ふふー、楽しみねー」
「う、帰りたい……………」
というやりとりが、列に並んでいた30分の間(圧倒的なスリルから結構人気な乗り物なのだ)滞りなく繰り返されていた。
もちろん、このテンションの差は乗った後も変わらず…………………
「うひゃースカッとした!ねーもう一回乗ろ!」
「………………………………………」
むしろ差は開くばかりであった。
(なんで、乗るもの見るもの全部が絶叫系なんだろうか……………?)
遊園地に入って二時間が経過、これまでに回ったアトラクションの全てがスリルでホラーなものばかりだ。近くに学校があるが故に、主な客層である学生をターゲットとした絶叫系のアトラクションを比較的多めに設置しているのがこの遊園地の特色なのだが、どうやらこのカップルに限っては裏目となってしまったようだ。
お陰で芦屋のSAN値は限界寸前、視界が揺れだすという物理的影響まで出始めていた。
「 」
「ね、ねぇ…………ちょっと休む?」
最早呻き声すら喉を通らない芦屋の状態に、テンションMAXでウキウキだった鈴麗も流石に気を遣い始めたようで、丁度傍にあった芝生スペースに腰を下ろすことにした。
「おまたせー」
「あ、ありがとね。」
二人分の飲み物を買いに行っていた鈴麗が、先に座って休んでいた芦屋の隣に座る。冬の日差しは木の葉に遮られて、この時期にしては珍しい穏やかな風が、この時期らしい冷たい空気を二人の元へ運んできた。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「う………っ!うん、少し楽になったよ」
鈴麗はこちらの方に身を乗り出しながら容態を伺っている。思いの外近づいた鈴麗の顔や襟元に出来た隙間からわずかに覗く胸元に、芦屋はドギマギしながらも言葉を返す。鈴麗が自分の感情を偽るのが性格上苦手なのを知っているため、恥ずかしさ以上に自分に向けてくれている純粋な気遣いが素直に嬉しかった。
(こういう時素直に心配してくれるところも鈴麗らしいよね………………まぁ原因も鈴麗なんだけど)
そんなことを考えて思わず口許が弛みそうになる。
「…………ねぇ」
ここでふと、鈴麗が芦屋に問いかけてくる。
「なに?」
「芦屋ってさ、あの国内有数の能力流派、芦屋一門の総長じゃない?」
「まあ一応ね」
鈴麗の言葉に先ほどまでの活気は聞いてとれない。そのことに疑念を覚えながらも質問に簡潔に答えていく。
「それ、自分から進んでなったの?」
「いや、依頼された仕事で両親が二人とも死んじゃってね。それで一人息子である僕が跡を継ぐことになったんだよ」
「……………ごめん」
「いいよ、もう過ぎたことだから。それで?」
芦屋は、彼女からの質問がこれだけではないだろうとその雰囲気から断定していた。なので、芦屋からその先を促す。これは鈴麗を自責から救い出すための配慮でもあった。
「……………………うん、それでね。その、イヤになったりしないの?」
「え?」
「そんな年で人の上に立つっていうことが、よ。門下の人たちから睨まれて崇められて尊敬されて、いざとなったら率先して矢面に立って、心身ともにダメージを背負って、そうしながらその人たちみんなを幸せにしなきゃいけないっていう、その…………『みんなを守るプレッシャー』っていうのが、芦屋は怖くないのかなって」
芦屋は、彼女が何故こんな質問をしてきたのか分からなかった。だが、およそ5秒の間じっくりと考えて、自分なりの答えを引き出していく。
「そりゃあもちろん、怖いよ。特に芦屋家は今流派間での勢力も落ちてきてみんなピリピリしてるから、その分僕に対する風当たりも自然と強くなっちゃうしね。それを僕は正面からしっかりと受け止めていかないといけない。このことは三代ほど前から続いている、いわば芦屋家が背負ってきた宿命なんだよ。だからね…………」
芦屋は鈴麗の方を向く。その目はクラスメイトの芦屋ではなく、一門を背負う総長の芦屋 道行だった。
「初代、芦屋道満が宿敵、安倍晴明を打ち負かして以来続いてきたこの家門を、これまでの『芦屋』が身を挺して守り続けてきたこの家門を、僕が安易に見捨てることは出来ないんだよ。かといって…………いや、だからこそこの責任を、ただ巡り合わせただけの門下に背負わせるわけにはいかない」
「どっちみち、僕には逃げ道なんて無いんだよ」
芦屋はいつも通りの力ない笑顔を見せた。しかしそれを間近で見ていた鈴麗は、その笑顔を額面通りに受け止めることができなかった。
鈴麗は、諦めたように発せられた最後の言葉に彼の本音を見た気がした。
芦屋は、多大な責任から逃げることを許されず、その重さに押しつぶされそうになってる。
(まるで、私と正反対……………)
───鈴麗は、そう思った。
「そうなんだ。芦屋って本当にすごい人なんだね───私なんかと大違い」
「え?」
「………………………この際だから全部、正直に話すわ」
しばらく躊躇いを見せていた鈴麗だが、最後に腹を決めた、というより諦めたように話し始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~
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「そ、そんな…………………」
日も、傾き始めていた。その赤みがかった太陽の光が驚愕に揺れる芦屋の顔をまぶしく照らしていた。
「それでね、ここにいられるのももう長くない。もう誤魔化しきれないみたいで、私はもうすぐ中華民国に帰らないといけないの。学校も退学するわ。1月の修学旅行も一緒に行けないみたいで、事態は急を要するみたいだから。何でそこまで急いでるのかは分からないけど」
鈴麗の方も芦屋の方を見ようとしない。目の前を通り過ぎていく家族連れやカップルをぼんやり眺めていた。
「ごめんね、折角のクリスマスなのにこんな話になっちゃって。でも、自由にできる時間が今日で最後だから、どうしてもインパクトある思い出残すために絶叫系乗り回してたんだけど…………………」
「だったら洋斗君とかユリアちゃんを呼んで「私にそんな野暮なことできると思ってるの?二人の邪魔はしたくないもの。だから芦屋を呼んだんじゃない」
二人の間に静寂が流れる。
芦屋は返す言葉が見出だせず、人の往来を眺める鈴麗の姿を見つめることしかできなかった。
ふと鈴麗がはっと顔を上げ、ワンピースのポケットを探った。
「あ!そうだ………………………はいこれ」
いきなりポーチから小さい箱を取り出し、芦屋に投げた。
「うわっ!っと、これ、キーホルダー?」
それは、謎のキャラクターがついたストラップつきのキーホルダーだった。
「それクリスマスプレゼント!私だと思って持ってて!」
「…………………これ、全然鈴麗に似てないよ」
「い、いいのよ!忘れなければ!」
芦屋には不意に大きくなった声が意味しているものが何かを考えてみた。
それは、プレゼントを渡した照れ隠しなのか、それとも……………………。
「うん、プレゼントも渡せたし、今日はもうおしまい!私帰るね!」
バッ、といきなり立ち上がった鈴麗。
「え!?待っ…………」
不意のことで芦屋の身体は動かない。引き留めようとしていた腕も、中途半端に伸ばしたところで止まってしまった。そのまま鈴麗は数歩進んで、クルッとこちらの方を振り返った。
鮮やかな橙色の髪が軽やかに翻り、冷たい風がかすかにそよぐ遊園地の風景に小さく紅をさした。
───さよなら
たった一言、それだけを言い残して、鈴麗は出口へと駆けていってしまった。
「あ………………………」
芦屋はこのとき、彼女を引き留められなかったことを全力で後悔した。
───なぜなら
振り返った彼女が、泣いていたから。
今までどんな時も気丈だった彼女が不意に見せた涙は、どんな罵詈雑言よりも深く、大きく、芦屋の心に傷を遺した。
彼の中の時間が止まるほどに。
───それから閉館の時間になるまで、芦屋は芝生の上で座り込んでいた。中途半端に伸びていた腕は、力無く芝生の上に横たわって動く気配もなかった。




