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第7話 ガシャの誘惑

「……次はこれを試してみようかな?」


「お願い、もう許して、私をおもちゃにしないで……」


 何だかイケナイ事が行われているように感じるかもしれないが、実際に行われていることは勇者による魔王の着せ替えである。

 【アバター】と呼ばれる課金アイテムの試着をしてみようとした際に、誤って謎の少女(魔王)を指定してしまった結果彼女はマネキンと化してしまったのだ。

 そしてこの勇者の鬼なところは、折角だからと片っ端から試着させて彼女の反応を見て楽しんでいる点にある。


「店主、さっきの巫女服だけど紅色と藍色の2セットをとりあえずカートに入れておいて」


「お買い上げ有難う御座います!」


 ホクホクした顔で商品を取りに行く店主、勇者が既にカートに入れてある分だけでも相当な数だ。


 制服各種(セーラー・ブレザー・盛夏服)や巫女服など彼女に似合うと思った【アバター】を次々と購入していく。

 何十着と着せ替えさせられた結果、精神的に少し耐性が出来たのか泣き出すことだけは無くなった。


 しかし謎の少女に本当の悲劇が訪れるのは、これからだった……。


「なあ、店主。 この各【アバター】の名前の横に付いている、CからEのアルファベットは何なんだ?」


「それは、レア度でございます」


「レア度?」


 店主の説明によると【アバター】にはレア度と呼ばれる希少価値を示す数値が有り、その数値によって売値も変わるがカタログ上で買えるのはC~Eまでらしい。


「ほうほう、ならばその上のレアな【アバター】を手に入れるにはどうすれば良いんだ?」


「ちょ、ちょっと。 さらに何か買うつもりなの!? 幾らなんでもお金の無駄使いしすぎでしょ!」


 謎の少女はこれ以上マネキンにされたくないので諭す口調で言うが、それを封殺するように店主は商品の説明を初めてしまう。


「Bランクよりも上の【アバター】は、こちらにございます【アバターガシャ】からでしか入手出来ません。 ちなみに最高ランクSの【アバター】にはこのようなものがございます」


 そう言って1体のマネキンに被せられていた布をめくった瞬間、謎の少女は店の外にまで轟く大きな声で叫んでしまった!


「きゃああああ! な、何、そのほとんどヒモだけの代物は! それ本当に【アバター】!?」


「はい、こちらがランクSアバターの1つ【あ〇ない水着】です。 試しに試着させてみますか?」


 思わずギョッとする謎の少女、久しぶりに涙目になりながら勇者に懇願する。


「ね、ねえ。 これ以上、私に酷いことなんてしないわよね? それだけは絶対に止めて!」


 その懇願を聞いて少しの間悩む勇者、だが伸びた指先は【キャンセル】では無く【試着】を押していた。


「えっ、嘘……」


 目の前の全身鏡に映し出された姿を見て呆然とする謎の少女、そしてそのショックの大きさからそのまま意識を手放したのである……。




 ピィーガシャガシャガシャガシャ……♪


「……くそっ。 またハズレだ、店主10連+1をもう1回!」


 何かの機械の動く音と、勇者の声で謎の少女は目を覚ました。


「勇者? 一体何をして……」


 まだ意識が朦朧とするらしく、目の焦点も上手く定まらない。

 しかし目の前の鏡にぼんやりと映し出されていたのは、太ももが丸出しのミニのチャイナドレスを着た自分の姿であった!

 瞬時に意識が覚醒するだけの、見た目の破壊力である。


「この馬鹿勇者! 私が気を失っている間に、なんてものを着せているのよ!?」


「あ、起きたのかおはよう。 それはランクAのアバター【チャイナドレスミニ】だよ」


「へぇ~そうなんだ。 って私が聞いているのは、そこじゃない!」


「だって、コレを買っているのは俺だし。 でも最初に見たときは、思わず見惚れそうになったよ」


「……えっ!?」


 いきなり真顔で見惚れそうになったと言われて赤面する謎の少女、だがこれまで勇者がしてきた行為は間違い無くセクハラだ。

 そして顔を赤くしている彼女の顔が蒼白する瞬間が、ふいに訪れる……。


 ピィーガシャガシャガシャ……パパラパッパパ~♪


 けたたましいファンファーレの音と共に、虹色のカプセルが2人の前に転がった。

 ちなみに店内はこれまでに出たガシャのB~Aランクと思われる、銀と金のカプセルが散乱している。


「おめでとうございます! 【あ〇ない水着】を見事当てられました~!!」


 1人で盛大な拍手をする店主と対照的に、謎の少女の方は顔があっという間に真っ青になった。


(あんな格好で町中を歩かされたら、恥ずかしくてもう生きていけない!)


 ボロボロと大粒の涙を流し始めた彼女の姿を見て、勇者は店主に虹色のカプセルを手渡しながらこう告げる。


「彼女は今のままのアバターで良いから、そのアバターは他のと一緒にしておいてよ」


 勇者の思わぬ行動に謎の少女は泣き止んだ、しかし太もも丸出しのミニのチャイナドレスを着せたままにしておく辺りはやはり男のさがなのかもしれない。




 店主から、大量のアバターが詰め込まれた袋を勇者は手渡された。


「あっ、そうそう。 少しだけお待ちを」


 用が済んだので店から出ようとすると、急に店主が引き留められる。

 5分ほどして、店主が1つの包みを持って現れた。


「さきほどの【あ〇ない水着】でアバターガシャをコンプなさいました。 こちらがそのコンプ記念の景品でございます」


 そう言いながら店主が2回手を打つと、勇者と謎の少女の外見が瞬時に切り替わる。


『これはっ!?』


 勇者は白のタキシード、謎の少女は純白のウェディングドレスを着て花のブーケまで持っていた。


「そちらがコンプリート記念の特別アバター【ウェディング衣装セット(祝福付き)】です、効果は店の外に出れば分かるかと」


「店の外?」


 言われるまま店の外に出た2人は、そこで待ち構えていたものを見て硬直してしまう。


「おめでとう!」


「お幸せに~♪」


 なんと店の入り口から町の入り口に向かって赤い絨毯が敷かれており、その両側では町の住人が並んで2人の門出(出発)を祝福していた。

 ライスシャワーが舞う中、ゆっくりと歩いていく2人。

 本人達はすぐにこの場から逃げ出したいのだが、身体が強制的に動いているのだ!


「……覚えておきなさい。 この事だけは一生恨んでやるんだから」


「はい、ガシャにはもう手を出しません」


「ちなみに幾ら使ったの?」


「……※※万円」


 金額を聞いて、口から泡を吹きながら失神する謎の少女。

 薄れていく意識の中で、彼女は脳裏でこんなことを考えていた。


(……私が本物のウェディングドレスを着る時、隣には誰が立っているのかな?)

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