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第5話 謎の少女との遭遇

ネエチャン(おっさん)から逃げ切った勇者は肩で息をしながら、パフパフの誘惑に負けて散財してしまった事を後悔していた。


「はぁはぁ……。 くそっ! 王様から貰った100ゴールドをあんな所で散財するなら、もっと別の場所で使えば良かった」


 ポンポンッ!


 すると勇者の肩を、通りがかった町の住人が叩く。


「折角いただいたお金を、無駄遣いして後悔する。 これも序盤のお約束ルールですよ」


「そんなお約束ルールはマジでいらねぇ!」


 これ以上この町に居ると、あのネエチャンといつ出くわすか分からない。

 勇者は次の町へ移動することを決め、町の入り口へ向かおうとした。


「ねえ、ちょっと。 あなたは冒険者?」


「冒険者であるような、ないような……って!?」


 背後からの声に返答しながら振り向いた勇者は、思わず絶句する。


「なによ、驚いたような顔して。 私の顔に何か付いてる?」


「いや……。 ところで、あなたのお名前は?」


「私は魔……ゲフンゲフン! 私は【謎の少女】よ」


 謎の少女と名乗った娘、それは先日に木の矢で額を撃ち抜かれた魔王だった!




 時を遡ること数日前、勇者がまだ牢屋に入れられていた時の出来事である。


「魔王様、この者達は魔王軍四天王と呼ばれている精鋭です。 各地の要所に派遣し勇者を迎え撃とうと思いますが、よろしいですか?」


 幹部の提案に、魔王は無言で頷き了承する。


「よかろう、そなたらの手で勇者を血祭りにあげるのだ!」


(どうせ中ボスクラスだから、時間稼ぎにもならないでしょうけど……)


 そんな予想をしていると、四天王達が魔王に自己紹介を始めた。


「私が魔王軍の斬り込み隊長こと、シーテン・ノー・サイジャーク」


「俺はニー・バンメー、そこに居るサンの兄でもある」


「わ、私はニー兄の妹のサン・バンメーです」


「そして私が四天王の最後のラ・ストーであります、魔王様」


 ガタッ!

 魔王は急に立ち上がると、部屋の隅の柱に向かって小走りで歩く。

 すると幹部や四天王の目の前で、柱に頭をぶつけ始めた!


 ガンガンガンッ!


「何で、こんな安直な名前の連中が四天王なのよ! もっと強そうな名前の連中とか居ても良いじゃない!?」


 柱に何本かのヒビが入るまで頭突きをして、ようやく落ち着きを取り戻した魔王が席に戻り座る。


「すまない、見苦しいところを見せてしまった」


「いえ、お気になさらずに」


 幹部は魔王をフォローすべく、ある事実を告げた。


「名前を考えるのが面倒になった作者が安直な名前を付けるのは、お約束ルールですから」


「分かったわ。 直ちに現地へ急行し、任務を始めるように」


『はっ!』


 四天王と幹部が返事をして、部屋を退出する。

 魔王は今後の状況に不安を感じていた。


(こんな連中と一緒じゃ、いつまた変な名前の奴が出てきてもおかしくないわ。 カーマ・セイーヌとかザーコとか……。 そうなる前に勇者には早くこの城まで辿り着いてもらわないと)


 どうすれば勇者に来てもらえるか、試行錯誤していた魔王はある名案を思いつく。


(そうよ! この間は私自らが勇者を討ちに行ったから返り討ちにされてしまったけど、逆に勇者の冒険の手助けするのであれば兵士に攻撃される心配は無いわ。 『信じていた仲間が実は敵の幹部だった!』なんて話も有るし、きっと上手くいくわ。 そうと決まれば、早速変装して向かいましょう)


 町娘の姿に変装してスキップをしながら城を出てゆく魔王を見た幹部は、この後の展開に頭を悩ませた。


「どうして歴代の魔王様は変装までして、勇者の旅をサポートしようとするのでしょうか? この場合のお約束ルールが発動する前に、魔王様が早目に気付くと良いのですが……」


 このお約束ルールが何かについては、後日判明する。

 魔王はツノやシッポなどを隠すのをすっかり忘れて、町へ向かうのだった。




 町まであと数百mまで近づいた時、魔王は町の入り口で兵士が身元の確認等をしている事に気付き動揺する。


(そうだわ。 勢い良く城を出てきてしまったけど、身分や名前を詐称するスキルを覚えてなかったわ)


 慌てて引き返そうとすると、かえって目立ってしまう。

 適当な嘘で誤魔化そうと決めた魔王の順番が、とうとうやってきてしまった。


「お前1人だけでこの町に来たのか? とりあえず、名前を名乗りなさい」


「な、謎の少女よ!」


 偽名を考えていなかった魔王は、あからさまに怪しい答えを言ってしまう。


「謎の少女……よろしい、入ってよし!」


 簡単に入るのを許可した兵士に、魔王は思わず詰め寄った。


「ちょ、ちょっと! こんな簡単に許可を出して良いの!? だって謎の少女よ、謎の少女。 こんな怪しい人間を取り調べなくても良い訳?」


「ええ、問題ありません」


 自分から怪しい人間だと魔王が白状しているのにも関わらず、兵士は問題無いと言う。


「【謎の少年や謎の少女等、名前に謎がつく者は何故かどんな町や村でも自由に出入りが出来る】、それがこの世界のお約束ルールですから」


「……この世界、本当にどこか変よ!?」


 思わず叫ぶ魔王を兵士や旅人たちが、不思議そうな目で見つめていた……。

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