第3話 イベント発生!
暗くじめじめとした、カビ臭い牢屋の中。
勇者が入れられてから、2日が過ぎようとしていた。
牢屋の中には、何故か白骨化した囚人が残されており
おまけに変なテロップがまた流れるのだった。
【へんじがない、ただの死体のようだ】
「そんなもん、見れば分かるわ!!」
思わず、声を荒げてしまう。
取調べが行われることも無く、牢屋の中でただ放置されているだけ。
決まった時間に3食届けられるので、餓死の心配だけは無かった。
「ほら、メシだぞ」
看守が食事を運んでくる、そして毎回のお約束が始まる。
勇者が食べ終わると、必ず通路の机で居眠りをしているのだ。
机の横には牢屋の鍵が吊るされており、足元にはこん棒が置かれている。
(大体の予想は付いているが、これが牢屋のお約束なのか?)
このまま何もしなければ、ずっと牢屋の中で過ごすことになるかもしれない。
勇者はお約束にのっとり、先へ進むことにした。
案の定、牢屋に鍵はかかっていなかった。
次に足元のこん棒をひろうと、看守の頭を殴り牢屋の鍵を奪う。
鍵を持って通路を歩いていると、別の牢に居る囚人が声を掛けてきた。
「おい、悪いが俺もここから出してくれないか?」
顔を向けると、囚人の男が勝手にしゃべりだした。
「俺はこの国の王の命を受けた密偵だ。 大臣の不正の証拠がこの町にあると聞いてやってきたのだが、反対に大臣の部下に捕まり牢屋に入れられてしまった。 外への抜け道は知っている、だから俺を出してくれ」
どうやら、最初のイベントが発生したようだ。
勇者は流れに逆らわず、このお約束イベントを消化する事を選ぶ。
牢の鍵を開けて男を出すと、通路内にファンファーレが鳴り響くと同時にテロップが流れた。
【密偵がなかまになった】
遠くから足音が聞こえてくると、タイミングを合わせたかのように兵士が2人見回りでやってきた。
「おい、脱走しようとしているのがいるぞ!」
「つかまえろ!」
勇者は応戦しようとしたが、それよりも早く密偵が動き兵士2人を倒してしまう。
「ここだ、ここの牢を開けてくれ」
言われたとおりに牢を開けると、密偵は奥にあった白骨死体を動かす。
すると死体の背後から、大きな穴が現れた。
(こんな大きな穴が開いていれば、すぐに気付かれそうなものなのに……。)
密偵は振り返りながら、勇者にこう言うのだった。
「細かいことは気にしないのが、お約束ですよ」
牢屋から無事外に出ると、密偵の案内で城へ向かう。
城の石垣の一部に、やはり大きな穴があったが気にするのは止めた。
抜け穴を進んでいくと、お約束なのか大臣の部屋の壁の裏側に繋がっていた。
10円玉ほどの大きさの穴から中を覗くと、大臣が何者かと会話している。
「これが頼まれた品物にございます」
大臣らしき男の前に、小さな瓶が置かれた。
「誰にも気付かれていないだろうな?」
「それはもちろん、しかし王を暗殺しようだなんてあなたは悪いお方だ」
「仕方あるまい。 この部屋の中に不正の証拠があることに気付き、嗅ぎまわる者が居たと報告が入った。 明日にでも王の食事に混ぜる事にしよう」
大臣は席を立つと、部屋の隅にある本棚から1冊の本を手前に引いた。
すると本棚が横にスライドし、背後の壁に隠されていた扉が現れた。
扉の奥に消えた大臣が戻ってきたのは、それからおよそ5分後の事だった。
持っていった小さな瓶の代わりに、何かを入れた袋を持っている。
「約束の報酬だ、誰かに話せばどうなるか分かっておるな?」
「重々承知しております、ほとぼりが冷めるまでどこか遠くで身を隠す事にします」
2人が部屋を出ると何故か壁に大きな穴が空き、部屋の中に入れた。
「今がチャンスです、この隙に証拠の品を手に入れましょう」
「それよりも、いきなり壁に穴が空いたのは?」
勇者の問いかけに、密偵が答える。
「はい、お約束です」
本棚を操作して隠し部屋に入ると、お金を入れた袋が部屋中に置かれていた。
勇者がテーブルの上に置かれていた書類を見つけ触れると、テロップが流れる。
【ふせいのしょうこ を手に入れた】
そして小さい瓶を手にすると、今度は暗い音楽と一緒にテロップが流れた。
【どくやく を手に入れた】
「これは動かぬ証拠ですよ、すぐに王に報告しましょう!」
ザッザッザッザッ……。
何かの上を歩く音がすると、勇者の目の前が徐々にぼやけてきた……。
「……勇者よ、大臣の企みを暴くのに協力してくれたこと。 心から感謝する」
気付くと勇者はいつの間にか玉座の前で立っており、密偵が王の隣に居る。
証拠を見つけてから謁見までの出来事全てをスキップさせられた気もするが、もはや聞くのも面倒だ。
「大臣に毒薬を渡した男も無事に捕らえることが出来た。 これもあなたが協力してくれたおかげだ」
「はっ、はぁ……」
何もしていないのに、捕まえるのに協力したことになっている。
これもすべてお約束なのだろう……。
「これは少ないが、私からほんの気持ちだ。 受け取って欲しい」
【100ゴールド を手に入れた】
【てつのつるぎ を手に入れた】
大臣の不正を暴き、暗殺を未然に防いだ報酬がたったこれだけ?
そう思う方も居るかもしれない、だが大事な事を忘れている。
人口600人ほどの城下町に、大金があろう筈が無いのだ!
大臣の隠し部屋にあった大金の行方など、聞きたいことは山ほどある。
だが今1番聞きたいことは、別のことだった。
「あの……大臣たちはどうなったのでしょうか?」
勇者からの問いかけに、王と密偵が人差し指を口元に当てながら答えた。
『そういうのは聞かないのが、お約束です』