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第2話 お約束(ルール)

勇者は魔王の城から、何かが飛び立つのに気がついた。

 それが何者かわかった時、ガルーダ以上の絶望感に襲われる。



 LV99 魔王



 ラスボスみずから最初の町を襲う、常識から考えれば、当たり前だ。

 相手の戦力が分からない時は、持てる最大戦力で臨むべし。


 つまり最大戦力を最初に投入して、決着をつけようとしているのだ。


 対する勇者はレベルは上がったが、まだ2しかない。

 勝負の結果は明白、今度こそ城下町は灰となってしまうだろう。


 だがやはりこの状況をひっくり返したのは、城壁の上の兵士さんだった。



 トスッ!



「えっ!?」


 魔王の額に1本の木の矢が刺さり、そのまま川に落ちて流されてゆく。

 あっけに取られている勇者の前で、また兵士達がのんきにしゃべり出した。


「あんな大きなコウモリが昼間から出るなんて、恐ろしや恐ろしや」


「はやく勇者様には、魔王を退治していただかないと」


(いや、今その魔王をあなた方は倒しているのですが!?)


 ガルーダをスズメと言ったり、魔王をコウモリと見間違える兵士。

 今頃、魔王はどんな心境なのだろうか?

 勇者が何故か魔王を心配する側に立っていた……。




「おお魔王よ、死んでしまうとは情けない……」


 黒い棺の中からゆっくりと起き上がった魔王は、幹部の胸ぐらをつかんだ。


「これ、一体どういうことなの。 説明してちょうだい」


【魔王は勇者が来るのを、玉座で待たねばならない】


 つかまれた手をゆっくりと離しながら、幹部は魔王にこう答えた。


「それが、この世界のお約束ルールなのです」



 お約束ルール……何人も逆らうことの出来ないこの世界の決まりごと。



 つまり、そのお約束ルールを守らないと本来の強さを発揮出来ない。

 ガルーダ達は担当エリアから出てしまったので、NPC(兵士)に倒された。

 同じように魔王も玉座から離れてしまうと、ザコ同然となってしまうのだ。


 だがここで、魔王はある事実を思い出した。


「そういえば勇者の奴は、ドラゴンの皮膚を切れなかったけどどうして?」


「それは勇者にも、別のお約束ルールが働いているのです」


 そのお約束ルールとは……。



【相手のレベルが10以上高い時は、パーティー(仲間)と共に戦わねばならない】


【パーティー(仲間)は困難に遭遇した際に、加わらなければならない】


【パーティー(仲間)は3~5人までしか、加えることが出来ない】



「この3つが、ほぼ間違いなく働いていると思われます」


 ちゃぶ台があれば、ひっくり返していたかもしれない。

 この世界はお約束ルールという名の、制約に縛り付けられているのだ!


「ここからが1番大切なことです」


 幹部がこの世界のもっとも残酷なお約束ルールを話した。


「お約束ルールに従わないと、元の世界に帰ることは出来ません」




【勇者は魔王を倒すまで、何度でも甦る】


【魔王は勇者に討たれるまで、魂を解放されない】


 勇者や魔王として召喚された者に課されるお約束ルールの中で、もっとも過酷なものが上記の2つである。

 勇者は魔王を倒すまで魔王は勇者に討たれるまで、死ぬことはもちろんだが元の世界に戻ることすら許されないのだ。


 さらに事を面倒にしているのは、もう1つのお約束ルールである。



【魔王は勇者が持つ伝説の剣でのみ、討つことが出来る】



「あれ? でも私さっき、木の矢で額を……」


 最後まで話す前に、急に何かの力で魔王の口は塞がれた。


「それを聞いちゃいけないのが、お約束ルールです」


「ってことは、この世界は矛盾だら……」


 また口を塞がれてしまった魔王は、ようやく事態の深刻さに気付くと対策を練る。


(とっとと元の世界に戻りたいから、勇者に伝説の剣の場所を教えちゃおう)


 魔王の浅はかな考えを読んだのか、幹部が忠告する。


「ああ、そうそう。 伝説の剣の場所を教えたり直接手渡したりしてはいけないのが、お約束ルールですので」


「ううう……。 私、いつ元の世界に帰れるのかしら?」


 魔王は勇者が最短コースで玉座まで来ることを、願わずにはいられなかった。




 その勇者は現在、城下町の民家でタンスをあさっていた。


「これ……本当に、勇者がやって良いのか!?」


「はい、それが最初の町でコマンドを覚えるためのお約束ルールですから」


「コマンドって何の?」


「【中をしらべる】です」


 町の中を巡回していた兵士に腕をつかまれ、半ば強制的に連れてこられた勇者。

 無人の民家のタンスをあさるのは、かなりの勇気が必要だった。

 だが、すり減っている気力をさらに激減させることを兵士は言い出した。


「では、今度はそこのツボを調べてください」


「ツボ?」


 言われるままツボに触れると、身体が勝手に動き出しツボを持ち上げるとそのまま床に叩きつけた!


 ガシャ~ン!

 粉々に砕けちるツボ、勇者は呆然となった。


「ツボの中には何が入っていましたか?」


 冷静に聞いてくる兵士、やっぱりどこかおかしい。

 すると、レベルアップの時のようなテロップが流れた。



【ゆうしゃは やくそう をみつけた】



「このように、勇者はさまざまな場所のものを自由に調べることが出来ます」


「本当にこれで良いの?」


「はい」


 兵士は笑みを浮かべながら、勇者に答える。


「ツボを割ったり、タンスの中をあさるのは勇者のお約束ルールですから」


 やくそうを懐に入れて民家を出た勇者の腕を、また兵士がつかんだ。


「それでは、次のお約束ルールの場所へ向かいましょう」


「お約束ルールの場所?」


 聞き返す勇者の腕に手錠をかけながら、兵士は答えた。


「盗みの疑いをかけられて牢屋に入る。 これも勇者のお約束ルールです」


 盗みの疑いというか、現行犯で勇者は牢屋に入れられたのだった……。

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