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第10話 教会の常識、勇者にとっての非常識

「はぁはぁ、やっと着いた!」


 寝る時間も惜しんで走り続けた勇者が次の町に着いたのは、夜が明ける直前だった。

 重いまぶたをこすりながら町の名が書かれている看板を見る、どうやらこの町の名は【メンバニ】というらしい。


「さてと教会を見つけて、こいつを甦らせないとな」


 そう言いながら曳いてきた棺をコツンと叩く勇者、 棺の中では骨になった謎の少女(魔王)が復活の刻を待っていた。


 途中で何度も棺に寄りかかり寝てしまいそうになったが、いくら魔王とはいえ女の子を骨のままにしておくのは気が引ける。

 襲い掛かる睡魔と戦いながら夜通し棺を曳いて、ようやくこの【メンバニ】に到着したのだ。


 町に入るとちょうど朝の散歩をしている人が居たので、教会の場所を尋ねる。


「あの~すいません、この町に教会は在りますか?」


「はい、在りますがどのようなご用件で?」


 聞く必要の無い質問で返してくる住人、勇者の背後に棺があるのだから何をしたいのか分かる筈なのに……。

 おそらく棺に気付いても見て見ぬふりをしないといけない、お約束ルールでもあるのだろう。


「はい、その通りです」


 勇者の心を読んだのかあっさりとお約束を認める住人、やはりこの世界どこかおかしい。


「亡くなった人を甦らせたいのですが、教会はどちらに在りますか?」


「それでしたら一緒に付いてきてください、ちょうど教会に戻るところでしたので」


 軽く微笑むと返事を待たずに歩き始める住人、もしやこの人が!?


「はい、私がこの町の教会に仕える神父です」


 また勇者の心を読んだらしい住人(神父)は、簡単に白状してくれた……。




 5分ほど歩くと目の前に教会が見えてきた、しかしその裏には墓地も見える。


「夜、この辺りを出歩くとゾンビがうろついていますので危ないですよ」


 物騒なことを軽い口調で言ってくる神父、ゾンビが怖くないのだろうか?


「毎日聖水で身体を清めていますからね、襲われる心配はございません」


「へぇ~そうなんだ」


「ただ先日うっかり教会の鍵を閉め忘れたら、翌朝ゾンビがベッドの中で添い寝していたからビックリしましたよ。 ハハハハハハ……!」


 この世界だけじゃない、この神父もどこかおかしい……。

 勇者は気を取り直して、神父に謎の少女(魔王)の復活を依頼した。


「悪いけど、この棺の中に居る謎の少女を甦らせて欲しいんだけど?」


「どれどれ……?」


 神父は慣れた手つきで棺の中をあらためる、するとある事に気がついて勇者に残念そうな顔でこう告げた。


「残念ながら、この方の蘇生は私の手では出来ません。 代わりに担当者を呼びますので、少々お待ち下さい」


「担当者?」


 勇者の問いを無視して、神父は懐から何かを取り出す。

 それは今では珍しい、ガラケーだった!


(ちょっと待て、何でこの世界に携帯がある!?)


 勇者が神父を問い質そうとすると、何者かが肩を掴んだ。

 その指先が何か臭うので振り返ると、ゾンビが人差し指を口元にあてている。


「ソレヲキカナイノガ、オヤクソクデス」


 唖然とする勇者を残して墓地へと帰っていくゾンビ、相変わらずこの世界はどこかおかしい。


 神父は10分ほど誰かと通話した後、ガラケーを懐に戻して勇者に説明を始める。


「無事、担当者と連絡が取れました。 今こちらに向かって飛んでますので、恐らく1時間後に到着するでしょう」


(こちらに向かって飛ぶ?)


 再び神父に聞こうとする勇者、しかしまたゾンビが近づこうとするので空気を読み質問するのをあきらめた。


 バサバサバサ……!

 1時間ほど教会の中で待っていると、外で何かが降りてくる音が聞こえる。

 それから少しして入り口の扉が開き、新しい神父が入ってきた。


「お待たせしました! こちらの方の蘇生の件は、これより私が引き継ぎます」


 入ってきた神父を見た勇者は、全てを放り出して逃げたい衝動に駆られる。

 その神父は大きな牛の角と黒い翼、そして大蛇の尻尾を生やした魔族の幹部の1人だった。




「おお魔王よ、死んでしまうとは情けない……」


「おい、今おまえ魔王と言わなかったか!?」


 ゲホゴホ!

 魔族の神父が急に咳き込んだ、見かねた人族の神父が勇者にお願いをする。


「多少のことは目をつぶってください、それがお約束ルールです」


(人族が争っている筈の魔族をかばってどうする!)


 これ以上、変な奴らが増えても困る。

 それでなくても窓の方を見ると、ゾンビ達が出番を待っているのか中を覗き込んでいるのだ。

 早く復活を済ませて立ち去ろう、勇者は固く心に誓った。


「おお、我が主よ! 全知全能を司る光の神よ! 今ひとたび、謎の少女(魔王)に命の息吹を与えたまえ!」


(お~い、魔族が光の神なんか崇拝していて良いのか? 崇拝する相手を間違ってないか?)


 心の中でツッコミを入れる勇者、幸いにもこの心のツッコミにツッコミを入れてくる者は居ない。

 内心ホッとしていると、教会の天井から小さな光の玉が降りてきた。

 その光の玉が黒い棺に触れた瞬間、何やら変な音が教会内に響き渡る!


 デロデロ……デーロン!


【ふっかつに失敗しました。 謎の少女(魔王)は灰になりました】


「おい、復活に失敗して灰になっちまったぞ! 勇者が倒す前に魔王にトドメ刺してどうする!?」


 予想だにしていなかった事態に、勇者は激しく動揺して教会内で暴れだした。

 5分ほどして動きが鈍くなった勇者の肩を魔族の神父が叩く、よく見ると1枚の木で出来た看板を持っている。


【ドッキリ 大成功!】


「最初はわざと失敗して驚かせる、これも1つのお約束ルールです」


「そんな心臓に悪いお約束ルールなんか、するんじゃねぇ~!!」


 この世界での教会の常識は、勇者にとって心臓に悪い非常識でしかなかった……。

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