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第1話 おかしな世界へようこそ

(この世界はあきらかに、どこかおかしい)


 召喚された勇者は、目の前で起きたことを見てそう思った。

 勇者を召喚した女神は、もっとも安全な場所と言った。

 だが地上に降りてみるとその場所は、魔王が住む城の川を挟んだ反対側。

 しかも人口600人ほどの、小さな城下町だったのだ!


 武器を扱う店で売られていたのは、なまくらな剣とこん棒。

 防具を扱う店では、布の服と動物の皮で出来た軽鎧しか無かった。


 ボロボロの城壁を守っている兵士が持つのは、木の弓と木の矢。

 城門の前に立つ兵士が持っていたのは、なんと竹やりだ。

 城壁の上から見る限り、周辺に竹林は見当たらない。

 どこから竹を見つけてきたのか、さっぱり分からなかった。


 困惑している勇者を驚愕させたのは、この直後だった。




 バサバサバサ……!

 何やら大きなものが、南側の魔王の城から飛んでくる。

 それが肉眼ではっきり見える距離まで近づいた時、勇者は絶望した。

 それは迦楼羅、または金翅鳥とも呼ばれる神鳥。



 LV80 ガルーダ



(……ガルーダ!?)


 対する勇者は召喚されたばかりなのでLV1、勝ち目などあろうはずがない。

 けれど町の人が逃げる、ほんのわずかな時間を稼ごうと覚悟を決める。

 なまくらな剣を構え決死の行動に出ようとした時、それは起こった……。


 ドスドスドスドス!


 突如、ガルーダの身体に無数の矢が刺さりハリネズミ状態となった。


「クェエエエエ!!」


 悲痛な鳴き声をあげながらガルーダは落下し、そのまま息絶えてしまう。

 そして矢を放っていたのは、なんと城壁の上にいた兵士達だったのだ!


「スズメが飛んでくるのは、久しぶりだべ?」


「んだんだ」


 のんきにそんな事を言う兵士に、勇者のあごは外れそうになる。

 だが驚くべきなのはこれだけではない、 次は別の巨大なものが川を渡り、城に迫ってきた。



 LV85 グレイドラゴン



(今度はドラゴンだって!?)


 巨大なトカゲに見えるが、灰色の固い鱗に覆われ所々に黒い斑点も浮かんでいる。

 今から城壁を降りていては間に合わない、勇者は今度こそ諦めかけた。


 ドスッ!


 すると城門の前に居た兵士が、ドラゴンの喉元に竹やりを刺して倒してしまった!


「またヤモリが出おった、城壁を登っていたずらばかりしおって」


 豆腐に箸を刺すように、竹やりが軽く突き刺さるのを見て勇者は考えた。


(そうか、見た目は硬そうだけど実際は凄く柔らかいのか)


 城壁を下りて外に出た勇者は、横たわるドラゴンの死体に試しに剣を振り下ろす。



 カーン!



 剣は弾かれ、衝撃がそのまま手に伝わる。


「嘘だろ、めちゃくちゃ硬いじゃん!」


 痺れる手をおさえながら絶句する勇者、これまでの常識がもろくも崩れた。

 だが常識が通じてしまう事も、もちろん存在する。




「ぐはっ! やられた……」


 先ほどドラゴンを倒した兵士が背後で叫び声をあげるので、勇者が振り返るとなんとスライムの1度の体当たりで吹き飛ばされ、息絶えようとしていた……。


「おい、ちょっと待て。 おかしいだろ、それ!?」



 LV1 スライム



 とどめを刺そうとしているスライムに剣で応戦する勇者、何度か体当たりを喰らうが、死ぬようなものでは無い。

 拍子抜けするくらい簡単にスライムを倒すと、目の前にテロップが流れた。



【ゆうしゃは LV2 にレベルアップしました】



(一体、何が起きているんだ?)


 いつまでも唖然としている訳にいかない、勇者は瀕死の兵士のもとへ急ぐ。


「おい、大丈夫か。 しっかりしろ!」


「さ、さすが勇者だ。 あんなバケモノを簡単に倒してしまうなんて……」


(それは、こっちのセリフだ!)


 思わずツッコミそうになったが、言葉を飲み込む。


「魔王を倒し、この世界に平和を取り戻して…くれ。たのんだぞ……」


 言い終えると兵士は、そのまま息を引き取った。

 目の前で常識では考えられないことが次々と起き、勇者は心の底から思った。


(この世界はあきらかに、どこかおかしい)




 ちょうどその頃、屋上から様子を見ていた者が双眼鏡を床に叩きつけた!


「ちょっと何よあれ、何でドラゴンを倒す奴がスライムなんかに殺されるの!?」


 ヒステリックな声で叫んでいたのは、勇者と同じ新たな召喚魔王だった……。

 急ぎ玉座に戻ると、幹部の1人を呼び出した。


「先にこちらから出向いて勇者を倒してくるわ。 留守番をお願いね」


「なっ! お止めください、大変危険です」


「大丈夫、平気よ。 だって私はLV99の魔王様だから!」


 幹部の制止を振り切り、玉座の間から走り去ってゆく魔王。

 やれやれと首を振りながら、幹部は他に誰も居ない部屋で1人つぶやく。


「どうして新参の魔王様は、いつも自分から飛び出してゆくのか……。 また復活の準備をしておくか」


 玉座の後ろから黒い棺を引っ張り出しながら、幹部は再度つぶやいた。


「早くこの世界に慣れて頂かねばいけないな」


 そんな幹部の声が聞こえる筈も無く、魔王は背中から黒い翼を出すと城を飛び立つ。

 行く先は川の反対側にある小さな城下町、召喚されたばかりの勇者を葬る為である。


「ふふふ、見てなさい勇者。 魔王の恐怖を思い知らせてあげるわ!」


 数分後、勇者と魔王はこの世界のルールを思い知る事となった……。

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