8―――幻想(3)
■家電情事(お題元Twitter@140onewrite様)
おんぼろヒーターは炊飯器に恋をした。
「ご飯をおいしく炊けるのは君だけだ!」と最新型の炊飯器を、徹夜で口説いた。
しかし炊飯器はもう、電子レンジと深い仲だった。そのうえ若気の至りで、冷蔵庫とも熱い夜を過ごした。
おんぼろヒーターだけが、炊飯器の純情を信じて疑わない。
■「怖くねえさ」
「家がみしみし鳴るのは湿気で柱が伸縮してる音だ。人魂は目の錯覚。夜中に庭が五月蠅いのは大抵、鼬か狸めの仕業だ。何も怖くねえさ」
紬の着物を召した老婆は笑うが、それが私のひいひい婆様で、着物の裾から白い尻尾が覗いていたことまであるので、私は依然として臆病者のままである。
■錆と瞬き(お題元Twitter@140onewrite様)
雪の降る夜。白猫は来客の毛色を見るなり、髭を立てて笑った。
「パーティーに参加できるのは美しい毛色だけ。汚いサビは抜き」
閉まる扉。
「やな感じ」
招かれなかったサビ猫は伸びをした。
まぁサビ色の良さがわからないならいい。
燭台の灯ではなく星の瞬きで、聖夜を過ごそう。
■師匠と僕(お題元Twitter@140onewrite様)
僕の魔法の師匠は、女が嫌い。
すすり泣く女性を一瞥し、香水をつけた女性が寄れば鼻をふさぐ。とんだ偏屈男だ。
だが師匠は国一番の魔術師で、何より僕の裸を見ても『心が男なら、お前は男だ』と認めてくれた。
僕は尊敬する彼と二人、同じ家で今日も、支障なく暮らしている。
■夢から覚めて(お題元Twitter@Tw300ss様)
キスで姫の呪いが解けました。
夢から覚めた姫が目にしたのは、朽ち果てた世界。
そして自分に口づけた、おぞましい異様の姿でした。
姫は異様を嫌いました。
ずっと美しい夢を見たいと嘆きました。
異様は悲しみに顔を歪め、眠り薬を運んできました。
「あなたは前も、この呪いの薬で眠っていた。だから次は僕の番だ」
異様は薬を飲み干しました。
異様が長い眠りにつくと姫は孤独でした。
話のできる者が他にいなかったからです。寂しくなりました。
彼の姿が己と違うからと、目も手足も二つしかないからと、冷たくしすぎた。
姫は異様に口づける決意をしました。目覚めた彼が夢を望もうと、次は向かい合うと。