5―――現代(3) 10月の章
■inktober.day 3 『Roasted』
「ローストポーク?」
紙とペンを前に、男が唸った。
「夕飯に食べたいの?」側の妻が聞いた。
「いや、今日のインクトーバーで何を描こうかと」
「ああ10月中、絵をSNSに投稿するお祭りね」
「お題はロースト……魔女が、かまどで焼かれている絵でも描くか?」
「……食事前に見たくないわ」
妻は夫に、焙煎珈琲を煎れた。
■inktober.day 17 『Swollen(腫らす)』&day18 『Bottle(瓶)』
涙は入れない。泣き腫らした思い出だけを瓶に詰める。
そして花束の花びら、蜜柑の皮、木の実にキッチンハーブ。
乾燥させたら全部入れ、精油をかけて、瓶の蓋を閉める。
そうすれば秋の辛い日々も、クリスマスには香り良いポプリに変わる。
※十月の間、絵を投稿するインクトーバーに参加していました。
■ハッピー・ハロウィン
十月末日の夜。
一人暮らしの部屋で小説を読んでいると、大学の友人がインターホンを鳴らしてやって来た。
「飲もう」
「パス」
俺は誘いを断ろうとした。
「今日はハロウィンだぞ。トリック・オア・トリート!」
「それは仮装した子供の台詞だろ。普段着の野郎が、何を言ってやがる」
友人がいやらしく笑った。
「元はハロウィンにやって来る、悪霊の台詞だ。……『私をもてなさないとお前を困らせてやる』て意味な」
結局、悪霊のような友人と、部屋で朝まで飲んだ。
■実る (お題元Twitter@140onewrite様)
私は漫画雑誌を抱えて実家に向かった。黄色く染まった、イチョウ並木を歩いた。
思春期は親に反抗した。高校卒業後、夢を追って家を出た。
あれから十年。二十八歳の私の漫画が、全国誌に載った。
早熟ではないが晩熟でもないこの成果を手土産に、私は家に帰る。
■フィギュアスケート・シリーズ初戦
私の前の選手がプログラムを滑り終えた。
会場の拍手喝采を無視するべく、私は目をつむった。
コーチと手をつなぐ。
――足を腫らして練習した日々、勝利を連想させる調子いい音楽、プログラムの曲に技の構成――。
リンクの広さ、リカバリーもイメージした。
もう主導権は私にある。
「楽しんできて」頷く。
手を離して二分五十秒の舞台へ。氷を削る音が鳴る。