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46――想いはお菓子言葉に込めて

 塾の自習室にシャーペンの音が響く。

 青い壁には『県内私立高校入学試験まであと2~4日』『公立高校前期選抜まであと7日』という、わかりきった事実が大きく貼りだされている。中三にとって差し迫った状況であるが、自習室には私と親友の彼女しかいない。降り続ける雪のせいだろうか。


 親友がふと、シャーペンの音を止めた。

「もうすぐさ、バレンタインだよね」

「…………」

 耳を疑った。

 確かに、あと一週間足らずで二月十四日だ。ただその日は公立高校前期選抜の前日にあたる――。私はバレンタインデーなんて、今の今まで頭になかった。

「まぁ、そうね」

 私もシャーペンを止めた。

「手作りしたいなぁ。お菓子言葉とかちゃんと調べて。なんかね、マカロンとかいいらしいよ」

 窓の向こうを見つめる親友の目は、充血している。いつもは思考と同じくらいふわふわしている髪も、最近は乱れがちだ。かく言う私もニキビが治らない。

「マカロンは『特別なひと』って意味があるんだって~」

「ドラマで観た。……渡すひといるの?」

「本命はいないよ。あんたとか、塾の女子男子に配っておしまい」

「友チョコを手作りとか、尊敬するわ」

 手作りのお菓子は優しい味がする。この子の手作りなんて食べたら、勉強疲れなんてふっとぶだろう。最高のブドウ糖だ。

 だけれど。

「……手作りは、やめといたら?」

 私は眼鏡のフレームをいじりながら言った。

 なんでぇ、と彼女が不満そうな声を出す。

「ひとの楽しみを奪う気っ」

「違うよ。受験生だからだよ。手作り欲しいけれど、あんた、試作までするタイプじゃん。もしも仮に志望校に落ちたら……悪いし」

「……まぁ、気を遣わせるよね」

「うん」

 自習室に深いため息が響く。

「覚えてろ。卒業式かホワイトデーには、ケーキ作ってやるかんな!」

「楽しみにしている」

 私たちは互いを見て笑ったあと、それぞれ問題集に向かい合った。

 あとで知ったことだが、ケーキには特にお菓子言葉はないらしい。


 二月十四日。親友が私立校の合格報告と共に、市販のロールケーキをくれた。のの字に巻かれた生クリームが眩い。

「ゲンかつぎに食べて。伊達巻に学業成就の意味があるなら、ロールケーキでもいけるはず!」

「まさかのおせち」

 私から親友には、最寄りの洋菓子店で買った、チョコレートチップ入りのカップケーキをプレゼントした。

 カップケーキのお菓子言葉は、マカロンと同じ『特別なひと』だ。

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