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42――猫神さまのご利益

 夜十時頃。三毛猫のあとを追って歩いていたら、いつのまにか町の神社についていた。鳥居の前で足を止める。三毛猫は音もなく鳥居をくぐり、お堂へと進んでいく。

「……大猫神(おおねこがみ)神社?」

 鳥居に書いてある文字を読み、わたしは首を傾げた。こんな名前の神社だったっけ。

 境内(けいだい)に入ると苔と土の香りがした。

 わたしは月明かりの下、のろのろと春色のお財布を取り出す。

 二礼二拍手のあと、鈴を鳴らし、ありったけの硬貨を土地神さまに奉納。

『人づきあいを楽にしてください』と、心から願った。


 お参りした翌日から、とんでもないご利益があった。

 わたしにだけ、人の頭に「猫」が見えるようになったのだ。

 ご近所に挨拶するお姉さんの頭には、小さな白猫。

 サラリーマンの頭には太ったハチワレ。

 市役所窓口の方々の頭には、かなり大きなキジ猫が乗っている。


 頭の「猫」はまるでアクセサリーみたいだ。

 この「猫」は生き物ではなく、人の心を表している超常現象っぽいもの。世渡りのために装いとしてつける、いわゆる「猫かぶり」の「猫」。

 乳幼児には猫がいなかったり、太鼓持ちをする人間の猫が大きかったりするので……なんとなく、わかってしまった。

 なお私には、私よりも大きい巨大猫が憑いている。三毛。


 頭の「猫」が見えるのは、ご利益と受け止めている。だけれどもしかすると、呪いなのかもしれない。

 ……あの大猫神神社にお礼参りに行こうとして、そんな名前の神社は、町に存在しないと気がついた。

 大猫神神社があった場所には「大田神(おおたがみ)神社」という、一文字違いの神社があった。

 そして大田神神社は朝六時~夕方六時までで、夜間はお堂を閉める。


 大猫は妖怪の一種。得体の知れない大きな猫や、飼い主を殺された恨みで化けて出た猫など、日本各地によって伝統は異なる。荒ぶる魂を鎮めるため、神さまとして祀られた大猫もいる。

 ……わたしが訪れた大猫神神社は本物で、本物だからこそ、猫好きのわたしを助けてくれたんじゃないかな……。


 わたしは、猫かぶりの猫が見えるようになって、人づきあいがぐんと楽になった。

 みんながみんな猫をかぶっていると知ったから。なにより、いつでも猫が視界に入るので、リラックスできる。

 

 わたしは大きな猫を頭に乗せたまま、神社に向かって『ありがとうございます』と、心からお礼を言った。

 お堂の中央で、あの三毛猫がにゃーおと鳴いた。

 (終)

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