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37――金木犀と母娘
三歳の娘と散歩をしていると、金木犀の香りが漂ってきた。前を見れば、橙色の金木犀が、民家の垣根に咲いている。日差しに輝く秋の花は、離れたところまで香りを届けてくれる。
落ちていた小花を拾って、娘に手渡すと、娘はきゃっきゃと喜んだ。
やさしい気持ちになったところで、ふっと、実母の言葉を思い出す。
『金木犀? あれ、トイレの芳香剤の匂いだから、別に好きじゃないわ』
……台無し。母の世代だと、芳香剤として役立っていたようだから、しかたないけれど。
香りは記憶に残る。
私にとっての金木犀は、通学路の香り。それから、土遊びに夢中だったころの、庭の香り。
子供時代の、しあわせな思い出の香りだ。
「もうすぐ敬老の日か。じいちゃんばあちゃんに、お手紙を書かなきゃねぇ」
「けいろう?」
日向の金木犀が香り立つ。
手を引いている娘にとっても、この甘い香りは、しあわせな記憶と共に残るだろうか。




