36――現代(12) 夏空の章
■VHS
むかしの話だけどね。
TVの番組は「ビデオテープ」で録画していたんだ。
ビデオテープは最大360分までしか録画されない。
ビデオテープは「ツメ」を折らないと、録画した番組が家族に消されちゃう。
だからむかしの子は、泣く泣く自分のツメを折ったものさ。嘘なんかすこししかついてないよ。
■オフタイム
消灯時間を過ぎた病院は暗い。そして静かだ。リノリウムの廊下を歩けば、足音の残響に気を取られる。どんつきにある避難口の誘導標識が、緑の灯を落としている。どこか非現実的な光景に心が安らぐ。事故で負った傷が痛むけれど悪くない。
「大丈夫?」と見回りの看護師さん。大丈夫です。
■ゆっくり進め(お題元Twitter@140onewrite様)
休み時間は息をひそめて過ごし
集合写真は目立たない位置を選び
そんな自分にさよならしたくて
夏休みに髪を切った
なにも変わらなかった
整えた髪に似合うアレンジを覚えたら
すこしだけ変わった
もういいやって好きな道を散歩したら
やる気が戻ってきた
■雨雲の向こう(お題元Twitter@140onewrite様)
八月中旬。ペルセウス座流星群を観る予定だったが、大雨が降った。
「楽しみにしていたのに」
ソファーで天体観測アプリをいじる。CGの星座が私を癒してくれる。
「星……そういえば来月に、野外音楽会が」
母が言った。
秋の夜長。公園で音楽会が行われるらしい。
星と音楽か。悪くないな。来月こそ晴れて!




