28――幻想(7) 化物の章
■唐傘(第6回54字の文学賞『#54字の物語』参加作品)
「忘れ物だよー!」
雨あがり。ごっごっと音を立てながら、私の傘が跳ねてきた。手に収まると喋らなくなった。便利。
■おそなえ野イチゴ(お題元Twitter@140onewrite様)
日照り続きのある日。
からからの田んぼ横で、熟した野イチゴを見つけた。つやつや光る野イチゴは、野原の宝石だ。
はりきって手を伸ばすと、大きな白ヘビと目があった。食べたいのか、尻尾で野イチゴを囲んでいる。
「お前はカエルかヘビイチゴでも食べてろ」とにらみあったが、結局、野イチゴは変な白ヘビに譲った。
翌日に雨が降ったのは、たぶんヘビからのお礼。
■見知らぬ足
こたつに入ると、誰かの足にぶつかった。
私はひとり暮らしだから、こたつの中で誰かと足がぶつかるのはおかしい。
……静かにこたつ布団をめくると、白い足だけが、宙に浮かんでいた。
「すみません」足が喋った。
「こたつ好きなんで、つい入ってしまって」
わかるけど。なにこの化物。
■見知らぬ足2
「百鬼夜行、ご存知ですか? あれキツいんです。拘束時間は長いし、体は冷えるし」
足だけの化物が、こたつにインしたまま愚痴ってくる。
近所のおばちゃんっぽい。
「百鬼夜行って、お化けがワーワー歩くやつ」
「そうそう。で、冷えた体を温めたくて、スッとこたつに」
野良猫っぽい。
■見知らぬ足3
こたつの中にいた化物は、体が温まると、私の家から出ていった。
化物が窓から出ていくとき、ふと、魑魅魍魎が街を闊歩するのが見えた。
おびただしい鬼や異形の群れ。あれが百鬼夜行だろう。
夜風が吹く。
百鬼夜行がビルの影に消えていく。
彼らがどこへ向かうか知らないけれど、そう寒くないといいな。




