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27――ケークシトロンをどうぞ

 係長はできる上司だけど、プライベートではバツイチ。たまに無口。

 調停を繰り返して「もう結婚はいい」と口にするようになった、ひとまわり上の男性だ。

 同僚は係長を「熟成された大人の魅力」と褒める。だけど係長はウィスキーが苦手で、お酒よりお菓子が好きな甘党。


 そんな係長が栄転するとき、私は餞別(せんべつ)にケークシトロンを選んだ。

 有名店ではなく、地元の名店のレモンケーキに、リボンをつけた。

「知らないお店のものが食べたいって、前におっしゃっていたので」

「そうなんだよ。ありがとう!」

 係長は子供みたいに喜んだ。

「……思えば若手の中では、きみに一番、仕事を頼んだな」


 そのひとことで十分だった。

 私は私を選ばない係長が、たぶん。

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