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25―― 週末だけど予定がないから断捨離をする

 ……そういえば「断捨離」って、いつからある言葉なんだろう。

 舞花(まいか)は掃除を中断して、スマートフォンに触った。


 検索すれば、1分もかからず情報にありつく。この現代社会の便利さと、ひとり暮らしであることが、土曜の掃除がすすまない理由だ。

 どうやら「断捨離」は2010年の流行語大賞らしい。10年前の流行語は、ぞっとするほどの死語もあれば、そうでないものもある。

「『リア充』もこの時代か」

 舞花はダークブラウンの髪を耳にかけ、ひとり呟いた。

 断捨離とリア充、どっちが死語? などと考えながら、表面が劣化したアクセサリーケースを開ける。ぼろぼろの合皮ケースの中には、クローバーモチーフのネックレスや、小粒の宝石がついたピンキーリングが眠っていた。

 30歳の舞花には、幼いデザインのものばかり。

 見るだけで胸が詰まった。


 アクセサリーを愛用していた10年前。舞花は「リア充」だった。

 大学に通い、友達と川辺で花火をあげて、恋人からアクセサリーをもらっていた。好きなひと達に囲まれれば、なんでもできる気がしていた。


 ……10年前の自分に教えてやりたい。隣のそいつと別れるよって。くっついたり離れたりを繰り返したあげく、破局するよって。

 舞花は黒ずんだシルバーアクセサリーを見つめ、ため息をついた。

 そして断捨離に戻った。

 交際はじめに(つづ)っていた日記帳は、地獄そのものだった。

「『10年後も20年後も一緒にいたい』て、なんだ私」と毒を吐きながら、シュレッダーにかけた。

 失恋直後に書いた非公開の日記アプリは、さらなる地獄だった。どうして恋はひとを冴えない詩人にするのか。目をつぶって削除するしかなかった。


 掃除は日曜の朝には終わりを迎えた。

 すっきり片づいた部屋に、ラベンダーオイルの香りが染みわたる。

 舞花がグラスにアイスコーヒーを注いでいると、スマートフォンが震えた。メッセージ。

《やっぱり未練があります》

 舞花が9年つきあった彼からだった。

 ……こういうとこだ。こういうとこがもう嫌だ。ひとが決心した矢先に、水を差してくるようなところ。

 コーヒーの中で氷が溶け、からんと音を立てた。

 

《私はもうありません》

 短いメッセージを返すのに10分もかかった。体感では、10年。

 

 もう思い出すだけでいい相手だ。

 この部屋には新しいひとを迎え入れるんだ。

 次の10年後も一緒にいられるひとを。

 

 まだ感傷的になっているなと思いつつ、舞花はコーヒーを飲み干した。

テーマ『10年前/10年後のキミへ』。エブリスタ10周年企画で書きました。

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