2―――幻想(1)
■愛する臆病者 (お題元Twitter@memo_kiri様)
眼前の蝋燭の火は消せないと、彼女が震える声で言った。
「もう私の火を消して」
僕の命令を無視して、彼女が床に泣き崩れた。
真夜中の部屋。彼女と僕の間で揺らめくのは、命の灯火だ――彼女の、婚約者の。
これを消さなくばお前の命を奪う、と脅したけれど、無駄だったか。
「わかったよ」
死神の僕は愛する臆病者の為に、彼女の前の灯火を、一息で消した。
■嘘吐き、どの子? (お題元Twitter@memo_kiri様)
「嘘吐き、どの子?」
給食時間。教室に棘だらけの、喋る魚が現れた。
棘だらけの魚は宙から子供達を見おろした。
「指切るか拳万か針千本飲むか」
魚が光る物を滝のように吐き出した。針だ。
「罰を受ける子と罰を与える子、どこ」
悲鳴が響く中、一人の少女が魚に叫んだ。
「やめて。約束通り、牛乳全部飲んだから!」
魚も針もすぐ消えた。
※拳万……拳で一万回殴る事
■信号無視 (お題元Twitter@140onewrite様)
小型トラックに乗った男は、クラクションを鳴らした。
「こら姉ちゃん。歩行者信号は、まだ青じゃないぞ」
信号無視をした女は、驚いた顔で立ち止まった。肩が出たワンピースを着ている。
「ごめんなさい。最近は、信号を見てなくて」
女は謝りながら歩き去った。
男は運転に戻り、前方の山を見た。今は三月で、残雪がある。
女の服装と、言葉が気になった。
■少年と海月 (お題元Twitter@140onewrite様)
遺跡の側の海には、海月が浮かんでいた。
長旅の末に遺跡へ辿り着いた少年は、まず、その海月が虹色にきらめくのを見た。
少年は楽器ケースを横に置くと、ひび割れた床に膝をついた。そして遺跡に入りくんでいる、海を覗いた。
遺跡は海の中まで続いていて、暗い海底には古の城が沈んでいる。
滅びた国の為に、少年はホルンを吹いた。時が廻る。
「ありがとう」
虹色の海月が、幼い少女に姿を変えた。
「私は今日まで、この国の最期を伝える為に漂ってきたの」
亡国の姫は寂しそうに微笑んだ。
■inktober.day 9 ~Precious(貴重)~
青い小鳥はよつ葉のクローバーをむしり、くわえました。そしてつばさを広げて、たった一匹になったかもしれない竜のところまで、とんでいきました。
ちょんと、竜のツノにとまります。
「めずらしい葉っぱをみつけたよ。どうぞ」
「いいの? きみは、本当にいい友だちだね」
ふたりの時間がすぎていきます。
※十月の間、絵を投稿するインクトーバーに参加していました。添えものです。