19――現代(8) 暮秋の章
■ルームメイトの弱点(お題元Twitter@140onewrite様)
私のルームメイトは小説を書く。
けどキスシーンを書かない。
「ねえ、ちゅうしよ。させよ。このふたり、ホレタハレタの仲でしょ」
「いやだ。キスシーンなんて書いたら、次の行で世界を滅ぼしたくなる」
「フランス映画なら、濃厚に舌からめて手は服の下よ」
「黙れ」
照れ屋。
私のことも『ルームメイト』だしね。フランス映画してるのに。
■キャラメル味が好き
オータムカラーのブラウスを着ていった、デートの日。
キャラメルの香りにつられて映画館に寄ると、恋愛映画でも観ようかと、年上の彼に誘われた。
「この映画?」
「ああ」
私は、肩を抱き合う海外スターのポスターと、Tシャツ姿の彼とを、交互に見た。
「柄にもなくどうしたんですか? 今ならキッズ映画もやってますよ?」
「お前ひどいな。……このラインナップなら恋愛ものだろ」
ハロウィンの時期だからか、映画館はホラー映画やパニック映画のリバイバルが多い。
あとキッズ。休日の朝にやっているテレビ番組の、劇場版。
「キッズ観るか?」
「捨てがたいですが、甘いほうで」
一緒に観られるならどれでもいい。
そう言いたかったけど、怖いの無理。
「だよなあ」
ポスターのゾンビだけで顔がひきつる私を見て、彼が笑った。
■ダリアの褒美
下校中。4Mはある皇帝ダリアの花と話をした。
――学校はどうだった。
――逆あがりができました。
皇帝ダリアは褒美をくれると言った。
家に帰ったら「そんな空想にふけるから電柱にぶつかるんだ」って、お父さんに怒られた。
でも今晩は私が大好きなグラタンだから、たぶんそれが皇帝からの褒美。
全部が絵空事じゃない。
■楽しむ
雑念は波となって押し寄せる。
私は波に溺れぬよう、いつかの水泳選手の言葉を思い出す。
『多くはメダルが獲れたかどうかしか見ない。だからいかに成長したかは自分で楽しめ』
波は引いて泡となる。
私は一歩踏み出した。泡は消えてゆく。
理想に体がついてゆく瞬間を、楽しむだけ。




