13――幻想(4) 隣人の章
■禁断の川
知っているよ。
君が何人も虐めていることも、
親から虐められていることも、
ボートから突き落とされて、今、川の淵で溺れていることもね。
生まれたときから水中で暮らしていると、色々わかるようになるんだ。
助かりたい?
僕はね、君をもっと、川底まで引きずりこみたい。
■物語が真実かどうか、それはまた別の話(お題元Twitter@140onewrite様)
「今の私はごく平凡なメイドですが、どこかの未来では『悪い子でもほめられる薬』を発明します。さ、続きを聞きたくば、お席に」
屋敷を走り回っていたご子息が、革張りの椅子に座った。
「……だれかの過去では、黒の魔術師」
「悪い子でもほめられる薬の、続き! 早く!」
ご子息に呪いをかけたいと思いつつ、私は彼に、紅茶と物語を与えた。
■在来種
「この、蝶の羽が生えてる人」
小さな子が僕の絵を覗いた。
「上手だね。どこで、見たの?」
「あ……この『妖精』は空想で描いたんだ」
「なんだ」
小さな子が紙の上で笑う。
「セイヨウの小人が近くにいるのかと、私、探しちゃった」
着物姿の小人は窓から庭に降りると、ツワブキの影に消えた。
■終の棲家
「竜なんて、とうに滅んでるよ」
中年の司書が顎髭をいじりつつ、笑った。
「いいや!」
若い男の声が、閉館前の図書館に響く。
「老年になると、強い竜は人間に化けるそうだ。古い東洋の文献に書いてあった」
「へえ」
「だから絶滅寸前……保護対象の竜は、どこかにいるはずだ」
日に焼けた若者は図書館を後にした。
「あいつ鋭いねぇ」
司書は、ひとり残る老紳士に寄った。
「肝が冷えたよ」
「……嗅ぎつけられる前に、出ていくか?」
「ま、様子見で」
司書は館内を見回した。
「それに、竜の肝が薬になると書いてやがる文献――あと、竜が人間に化けると記している文献も、燃やさないとね」
我々が図書館に棲めなくなってしまう。
司書が囁くと、老紳士もにっと笑った。




