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家の中にオニがいます  作者: 仙堂 ルリコ
4/6

●●ちゃん

「あ、ユウヤだ」

「ユウヤ君だ」

声と共に、ツバサとマツダが走ってきた。

「コウちゃんの写真見てきた」

マツダが顔をくっつけるように話す。


ユウヤは、母親を見上げた。

(団地のトモダチを教えなさい。そう、マツダは女でツバサは男なのね。フルネームわからないの?……何年生かも?  全く信じられない。家はどう? ……遊びに行ったんだよね?)

と、朝から何度も詰問されている。


お祖母ちゃんのトラックに乗れる楽しい予定が

 朝になって突然変わった。

 ユウヤはトラックで山道をドライブするのが大好きだった。

 いつも優しくて、美味しい料理を作ってくれる、お祖母ちゃんが大好きだった。


その上、コウちゃんが死んだと聞かされた。

これは、相当ショックだった。

コウちゃんは我が儘でバカだから嫌いだったけど、

コウちゃんの家は大好きだったから。

 

いつもなら一人で向かう団地への道を

黒い服着た母と、

大嫌いな母と

窮屈な制服で歩くのは鬱陶しい。


「確か、隣の1組のマツダさんよね。君も先生、知ってるわ。四年生だ」

母はトモダチ二人の肩を掴む。

「もう一人、一緒に遊んでる子がいるんでしょ? それは誰?」

二人は顔を見合わせ、困ったような顔になる。


「……●●ちゃん、だっけ」

マツダがぼそりと言った。

「もう一度、言いいなさい。先生今の聞き取れなかった」

母の顔は怖い。

マツダは救いを求めるようにユウヤの手を握る。

「分からない。違うかも知れない」


「一緒に遊んでたのに、名前も知らないの?」

母は三人に、怒りだした。

だが、そこでセレモニーが始まったので、

二人の子供は、それぞれの親の元に戻った。


ユウヤはコウちゃんに最後の別れをした。

母は、駄目だと言ったが、逆らった。

マツダとツバサに付いて行った。

花に囲まれた小さな顔は、顔の色が変で

コウちゃんではないように感じた。

コウちゃんでない、他の誰かに見えた。


「●●ちゃん?」

マツダが耳元で囁く。

「●●ちゃんに似てるけど、違うよ。コウちゃんなんだ」

ユウヤは、死んだコウちゃんが誰に似てるのか、気付いていた。

あの子に、●●に、似てる。そう言えばあの子はどこにいる?

コウちゃんの葬式だ。

来てるに違いない。


「●●、見た?」

ツバサに聞いてみる。

ツバサは集会場の外を指差す。

喪服の参列者が数十人立っている、真ん中を。


三人は、もう一人の仲間の側に行く。

そのまま四人、大人達の間をすり抜け、走った。

一番北の棟、その非常階段が遊び場の一つだった。

裏の山が近い。

雑木林が濃い影を落とし、どこからか涼しい風が降りてくる。


「すごーく、ショック。……ツバサのとこは、オジサン怖いし、私の家はゲームないし」

コウちゃんの家で遊べなくなった。

マツダは、遊び場を無くしたことがショックだという。

 それはユウヤも同じだった。

 コウちゃんの家は居心地が良かった。

 ゲームもマンガの本も沢山あった。

 お菓子もアイスクリームも、勝手に食べて良かった。

 自由な遊び場だった。


「●●、明日から、どこで遊ぼうか?」

 ツバサは、皆にでは無く、一人に、聞く。

 何かに迷ったり、困ったりしたとき、誰に聞くか、決まっていた。

 ユウヤは、爪が長い指が、自分を指差してるのを見た。


「僕の家か。そうなるよね。皆が良かったら、いいよ」

 ユウヤは、母は叱るだろうかと、ちょっと思う。

 でも、トモダチの事を知りたがっていたから、

 丁度いいかもと考え直した。


「ユウヤ、こんな所で何してるの」

 母が叫びながら走ってくる。

 どういう状況で母と離れたか、どうでもいいから忘れていた。


「あら? どこ行ったの、あの子。もう一人いたでしょ。ここに」

 母は非常階段の手すりの端を叩く。

「しゃがんでた子よ。帽子被って」

 辺りをウロウロして、誰かを捜している。


「今まで、一緒にいたでしょ、ユウヤ、あの子の名前を教えなさい」

 怒りのレベルが高い。

 ユウヤは●●、と言おうとした。

 でも、母親の顔をみたとたん、

 ●●を音声化できなくなってしまった。

 最初から知らないように、

 頭の中を捜しても、当てはまる文字がでてこないのだ。

「分からない」

 正直に言う。


「どうして? 名前を親に言うなと、口止めされてるの? 正直に言いなさい」

 今度は意味不明なことを責められる。


「センセイ、明日から、みんなでユウヤ君の家に行きまーす」

 マツダがユウヤの替わりに答えた。

 自分で本人に聞いたらいいと。


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