第三話「長い終わり」
「でさーーがーーーーしてーーーーーーそれでさーーーーー」
「本当に!?」
「そうなんだよーーーーって本当にーーーーーーーーーーーー」
あいつはいい奴だった。
誰とでも話せて、仲良くなってしまう。
こんな人付き合いの下手な自分とも喋ってくれて。
俺の事を本当は嫌っている癖に。最初はそう思った。
けど、友人ができた。
それが本当に嬉しかった。
こんなに人と接する事って楽しかったのか!
楽しい!楽しい!
本当にーーー楽しかったーーーーー
友人だったんだ。
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コンビニにたどり着いて、入り口の前で背筋に悪寒が走った。
漠然とした違和感に襲われながらも足は止まらなかった。
「なんだ…これ…」
変な汗が出てくる。
暗闇にいて誰か知らない人が後ろにいるかもしれない、というような恐怖じゃない。
親に怒られる事を悟っての不快感じゃない。
それよりもっとぼんやりしていてーーーもっと根源的な何かがいる。
体が言うことを訊いてくれない。
逆らえない何かが。
定められた何かが。
この先に待ち構えている。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーあ。」
「いらっしゃいませ~」
コンビニに入ってから数秒、店員の挨拶が聞こえハッとした。
いや、店員じゃない。
あれは。あれは。あれは。
男だ。
ナイフを持った男が、死体の上に立つ男がこちらに向かってきてーーー
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自分が何をしていたのか思い出せない。
床に横たわって、考える。
そもそも何をしに来たんだったっけか。
何をしにここに来たのかを考え。
(ああ。お茶…。2Lの…。)
と思い出した。
冷蔵庫の飲料がなかったんだ。
買わなくちゃ。
すぐに用事を済まして帰ろう。
そう、もう帰ろう。
家に帰ろうーーーーーーーーーーーーーー
帰ーーーーーーろうーーーーー
帰ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーー帰れない。
自分が大きな血溜まりを作り床に伏せていることに気付いて
走馬灯が走った。
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「でさ、×××がボケッとして先生に注意されて、それでさエロ本見つかって晒されてさ!」
「本当に!?」
「そうなんだよ、早く登校して仕込んだかいがあったな。×××って本当にーーーー」
あいつが笑っている。
俺がはめられて笑い者にされたことを聞いて。
結局、そうなのか。
俺は、嫌われていたのか。
それ以降、人付き合いはそういうものだと、一応は割りきった。
そもそも友人が仕掛けたものではないし、
あそこでわざわざ友人が咎めて場を乱す大事な理由もあるわけではなかった。
たくさんいる友人の中の、たった一人、しかも、こんな俺を。
だから、そのあとは流れに身を任せた。
からかわれても、適当に笑って。
その後はなんだかんだカラオケで遊ぶような友人は増えた。
人の心を信用する事はなかったけど。
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「嫌だ…」
後悔がないなんて、嘘だ。
「嫌だ…!死にたくない……!」
なのに、終わりはすぐそこまで来てる。
人生の最期が。
「ぐ…ううう…!!」
このクソッタレな人生は、ここで終わる。クソッタレなままで。
「それでも……!」
「こんなふざけた終わり方、は、違う……!」
引き戻す。
遠退いた意識を。
立ち上がる。
先程に刺された腹から血を流して。
(こいつを生かしておけば…人は死ぬ)
正義感じゃない。
(こいつは…こいつだけは…)
ただ許せない。
不本意な、不条理な死を与えたこいつが。どうしようもなく、憎い!
痛みを無視して飛びかかり、男の頭にしがみつく!首を絞めて殺す!
殺す、殺す、殺す‼
殺す‼
自分の中に巣食う憎悪がただひとつの行為を成せと駆り立てる。
こいつは!
こいつだけは!
殺して、やる!!!
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男がピクリともしなくなった時ーーーー
ーーー抵抗され自分のあらゆる場所がナイフでめった刺しにされた事に気付き
ーーー意識が遠退いた。
今度こそ、意識が遠退く。
これで少しはましな終わり方になったと、思う。
自分がこうしたいと、心の底から思う事を、初めて成せた気がする。
首に掛けた手の力を抜く。ゆっくりと放す。
死に身を任せ、静かに、目を閉じる。
ヒトが生きていくための何かが零れ落ちていくのがわかる。
わかる。分かるから、恐い。
恐い。恐い。恐い。
早く死なせてくれ。
寒気に襲われ小刻みに震え出した身体。
恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。
恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。恐い。
恐ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自分が人殺しをしてしまった事を。自分が死ぬことを。謝りたかった。
母さん 父さん ごめん。