『仰ぎみる』
「チキショー、」
奴ばっか、、、
ちやほやされて糞面白くねぇ~、
みんな奴の回りに集まって
嬉しそうに笑ってやがる、
「クソォ~!!!」
むかし、
オレが子どもだった頃
家族や親戚は、集団で暮らしていた。
父さんや母さんの足下には
いまの奴みたいに
たくさんのヒトたちが集まって、
痒いとこを掻いてくれたり、
脱いだ着物を拾って家に持ち帰ったり、
オレたちは大切に扱われて
ヒトと共存して来たんだ。
オレも大人になったら
父さんや母さんみたいに立派に、
ヒトの為に役に立ちたいと思った。
あれから何十年経っただろう………
オレの足下にも沢山ヒトの家ができた。
父さんや母さんは…
年をとって危ないからと、
ヒトの都合で処分された、
兄弟たちも
ひとり、またひとりと
ヒトの家を建てる邪魔になると、
処分されていった。
気がつくと、
山は切り開かれ
オレの兄弟や、
親戚のオジサンやオバサンや
隣の赤ん坊まで
根こそぎ引き抜かれ
山は平地になって
ヒトが住む家がバンバン建った、
町ができ、、、
オレがいたとこには公園ができ、
オレだけはかろうじて処分されなかった。
『悲しんでても仕方ねぇ、』
オレはヒトの役に立つことにした。
夏には子どもたちに日陰をつくり、
サラリーマンのオジサンたちは
こぞって、
オレの下で昼寝をした、
オレを亘る風は爽やかで気持ちいいと、
ヒトはオレを仰ぎみて口々に褒めてくれた。
公園には新しい友達も来て
淋しくはなくなったが、
あの冬、奴が来たんだ、
奴は丸裸で、
やっと立ってるような年寄りで
ボロボロだった
だから分からなかったんだ、、、
春、
蝶がサナギから変体するように
奴は奥の手を出して来やがった、
爪先から頭の先までピンクの衣装をまとい、
奴を亘る風はいい匂いがした。
咲く様も、
散る様も
それはそれは、美しいと、
ヒトは奴に群がり賛辞する。
オレを仰ぎみてたヒトは
みんな奴の虜だ、
嗚呼…
奴は華あるしなぁ~
しゃぁねぇーかぁ
あっ、自己紹介がまだやったね♪
オレ、ケヤキ。
宜しくな♪
(笑)
ちなみに奴は…
わかるよね?
(笑)