第九十七話 チャイムが鳴ったら一目散
前回に続いて、社員食堂の話題を一つご紹介します。
日本では、オフィスで朝・昼・晩の三食をとるということは、あまりありませんが、中国の工場では珍しいことではありません。
なぜなら、工場敷地内に大きな社員寮があり、住み込みで働いている社員が多いからです。
さすがに家族持ちは、社外にアパートを借りていますが、それでも夕食まで社食でとる人も少なくないです。味はそれほど美味しくなくても、経済的ですしね(^▽^)/
ちょっとした大きさの工場になると、敷地内に複数の社員食堂を設けています。私が長期研修していた広東省東莞市の工場にも、3ヶ所の食堂がありました。
1つは役員及び来客用(日本本社からの出張者を含む)、もう1つがホワイトカラー用、最後の1つがブルーカラー用です。
特に食事メニューに大きな違いはないようでしたが、あえて食堂を分けているのは、食事時まで上司の顔色をうかがいたくないという気持ちの表れなのでしょう。
さらに、中国ではホワイトカラーがブルーカラーをかなり下に見ているため、トラブルにならないように、2つのグループが接触する機会を避けるという意味合いがあるように思います。
工場内では、朝の始業時(8時)、昼休みの開始(12時)と終了時(13時半)、夕方の終業時(17時半)にチャイムが鳴ります。
日本人的感覚だと、チャイムが鳴ってから、手元の業務を片付けて食事に向かうという感じなのですが、中国人は違う!
チャイムが鳴った途端に、加工中の製品をパッと放り出し、たとえ上司が何か言っていようとも無視を決め込んで、食堂に向かって一目散に駆け出します。
なぜなら、社員食堂の食事は、必ずしも全員分用意されていないからです。
食堂側も、欠席や外食する人数を予測して食事を用意するため、食堂に着く時間が遅いと、お菜が何も残っていないということになりかねません。
食事を何よりも優先する中国人ですから、お菜が無いから食事を抜くなんて絶対にありえない(;^ω^)
チャイムが鳴って離席する際の、作業者のあまりのマナーの悪さに閉口した日本人工場長が、ある時、こんなルールを設けました。
①休憩のチャイムが鳴ったら、作業者は手を止めて、通路に整列して、ライン長の号令で、”今月の歌”を合唱しながら、その場で足踏みを始める。
②歌声に合わせて行進しながら、1番の生産ラインから順序よく工場棟出口に向かう。
③工場棟出口を出たら、行進と歌を止めて、食堂まで自由に移動してよい。(その場から駆け出してもOK)
何だか中学校の全体朝礼の入退場のようだと思いませんか?
チャイムが鳴ったとたん、あちこちから元気な歌声が聞こえてきたので、工場で研修を始めた当初、私は非常にびっくりしました。“今月の歌”というのが、いわゆる合唱曲ではなくて、流行しているポップスなので、軍隊式の行進と全く合わず、とても変な感じがしました。歌に合わせて、その場にいる全員が動くなんて、今流行りのフラッシュモブかっつーの。
ともかく、工場長の決めたルールは絶大な効果を収め、建物出口に人が殺到することによって発生していた転倒事故や喧嘩などが、ほとんどなくなりました。
中国で工場管理するって、細かなところにまで気を配らなければならないので、本当に大変ですよね……。