第九十二話 御意見無用の高速バス
私が中国東莞市に長期滞在していた時、何度か高速バスに乗る機会がありました。
特によく利用したのが、東莞⇔深圳、東莞⇔香港、東莞⇔珠海の路線です。
街中を走る路線バスより座席がちゃんとしており(路線バスは椅子が壊れて無いことも多い)、手荷物を持っていても移動が楽チンで、しかも料金が安いので愛用していました。
高速バスの最大の欠点は、所要時間が読めないことです。
東莞⇔深圳の所要時間は、高速で約50分なのですが、虎門大橋ジャンクション付近が渋滞している場合は、もっと時間がかかりました。
また、外国人、しかも女性が一人で移動していることが分かると、車内でスリに狙われやすいと言われています。これは、丸の内OLのような小奇麗な服装をしないこと、また日本語を口にしないことで、ある程度は回避可能です。
高速バスのチケットは、バスターミナルや車内で購入します。
チケットを買ってバスに乗り込むと、出発前になぜかバス会社の社員に一人一人顔写真を撮られます。これは、バス車内での盗難事件が相次いだため、万が一に備えて、乗客の記録を残しているからだそうです。
そして、シートベルトを締めるように運転手からしつこく注意されます。日本と大きく違うのは、その際、車内モニター画面に、『シートベルトをしないと、事故時の死亡率がXX%アップします』という字幕付きの、実際の交通事故の動画が、繰り返し放映されていることです。じっと見ていると、段々と不安に……(-_-;)
シートベルトも締めて、さぁ、出発。
香港に隣接する深圳市には経済特区があるため、区境には検問所があります。
普段は止まることなく、検問所をそのままバスで通過してしまうのですが、国慶節などの大型連休前後には、稀に検問を通らなければならないこともあります。
私も一度だけ検問所でパスポートチェックを受けました。外国人女性が一人で高速バスに乗って移動していることに、係官がやたら驚いていましたが。(;’∀’)
だんだん目的地のバスターミナルが近くなってきました。
突然、乗客の1人が運転手に、
「あっ、ここで停めて!後から来る××行きのバスに乗り換えるから。」
と言って、まだ高速道路の本線上で料金所を出ていないのに、バスを路肩に無理に止めさせて、悠然と降りていきました。日本じゃ、あり得ないよね~(◎_◎;)
中国では、高速道路の路肩や中央分離帯(緑地)に、このようなバス待ちの人達が座り込んで、トランプでポーカー博打をして遊んでいたりします。何ちゅうコワイ国や……。
高速道路上でも、お構いなしにバスを途中下車出来るということは、その”逆も真なり”で、目的地に着いていないのに、バス会社の都合で、強制的に下車させられるということもあります。
私は、珠海から東莞への帰り道に、料金所を出たところで、運転手に、
「お客さん、今日は厚街ターミナルには行かないことにしたから、ここで降りてくれる?」
と言われて、バスターミナルから数km離れた地点で降ろされてしまったことがあります。
真夏の炎天下、日差しを遮るものが何もないところを、宿泊先のホテルまでトボトボ歩いて帰ったので、もう少しで熱中症を起こすところでした。
翌日、日本人の同僚に、目的地ではないのに高速バスを降ろされたことを話すと、
「胖姐さん、中国にはルールなんて存在しないことをよく知っているでしょう?僕なんて、道路が渋滞しているという理由で、高速道路の本線上で降ろされたことが何度もあるよ。ホテルまで歩いて帰れる場所に降ろしてもらえただけ、僕よりマシだよ。」
と言われてしまいました。世の中、下には下がいるもんだね(;^ω^)




