第八十五話 嬢王の世界
中国は日本と同じように法律上は一夫一婦制をとっています。
しかしながら、法には抜け道があるらしく、二番目、三番目の奥さんがいる男性もいます。
いわゆるハーレム?ゲス不倫?
私が長期出張していた広東省東莞市には、街を通る国道沿いに高い塀を巡らせた大きなお屋敷がありました。
ちょっとした公園に隣接した、とても広いお屋敷です。敷地内には、2階建てのヨーロッパ風の建物が3棟建っています。残念ながら、高い塀のせいで、中の様子はほとんど分かりません。本当に住人が住んでいるのかしら……?ただ、2階の開いた窓にかかった白いレースのカーテンが、時折、気まぐれな風に揺れています。
「公園の隣にあるすごいお屋敷は、誰のお宅?」
と、私が中国人の同僚に訊ねると、
「うーん、あれはねぇ……。高速道路のインターチェンジ沿いに、すごく大きくて綺麗な総合病院があるのを知っている?あの病院を一代で興した院長さんのお宅だよ。もともと院長さんは、ここの街の出身で、実家を建て替えて住んでいるんだよね。
あまり大きな声では言えないけれど、院長さんには、今、3人奥さんがいて、敷地内の建物ごとに分かれて住んでいるらしいんだ。奥さんが増えるたびに、建物が新しく建つわけ。それで、3棟をつなぐ母屋に院長さんが1人で暮らしているらしい。用がある時に、それぞれの奥さんの家に行くってことさ。」
「えっ(◎_◎;) 中国の法律上、一夫多妻はダメでしょう?」
「建前上はね。実際は違うよ。お金があれば、何でも出来るってこと。お屋敷に隣接している公園はね、院長さんが私有地を整備して地元に寄付したの。地元に貢献している人には、政府も表立っては何にも言えませんよ。」
……すごいねぇ。(´Д`)ハァ…
東莞市は中国一の風俗街があるので有名でしたが、街の中心部にある高級分譲マンションには、若くて綺麗な子連れの女性がたくさん住んでいました。マンションの高級度に比例して、住んでいる女性の美しさもアップします。
これは、跡取り息子(儒教文化圏ではこれが肝心)がいない台湾や香港の企業経営者が、物価の安い中国国内に、愛人を囲って子供を産ませているからなのです。
生まれた子供は、当然、中国籍になりますが、何らかの抜け道があるらしく、最終的には香港や海外に移住していくようです。(一人っ子政策なのに、どうして罰せられないのか?)
東莞市に滞在中、休日に私が近所のネイルサロンに行くと、
「あのハゲじじぃがさぁ、月に2万元(約30万円)くれるって言ったけど、愛人になるのは断っちゃった。だって、たった2万元だよ。」
「当然だよねー。最低5万元(約75万円)はくれないと。あと、マンションと車は別だよね。子供を産むなら、別契約でボーナスもらわなくちゃ。」
という会話が、お客様同士で飛び交っていました。なんちゅうコワイ街や……。
そんな街ですから、当時、夜中と早朝のTV CMのメインスポンサーが、美容整形外科と産婦人科と薬物中毒治療施設ばかりでした。普通の大都市である上海市や北京市とは大違いです。
まさに欲望に生きる街、リアル『嬢王』の世界なのです。




