第八十三話 受付嬢
受付嬢と言えば、会社の花。
彼女達の応対一つで、会社に対する印象が決まると言ってもよい、重要なポジション。
私が上海で最初に働いていた日系企業には受付嬢がいなかったのですが、その後転職した英系企業には受付嬢が2名働いていました。
彼女達は中国語のほかに英語を話せましたが、日本語は出来ませんでした。
会社の代表電話番号にかかってきた電話は、受付嬢がいったん応対して、それから各担当へ電話をつなぐのですが、私あてにかかってくる電話の件で、彼女達からクレームが出ました。
「胖姐さん、あなたの名前はいったいどれだけあるんですか!」
……実は、中国における日本人には、名前の読み方が複数あるのです。
①漢字表記した姓の日本語読み+敬称:さん (例:浜崎さん)
②漢字表記した姓の中国語読み+敬称:小姐/先生 (例:濱崎小姐)
③敬称:MS./MR.+漢字表記した姓の英語読み (例:MS.HAMASAKI)
④漢字表記した名前の日本語読み+敬称:さん (例:あゆみさん)
⑤漢字表記した名前の中国語読み+敬称:小姐/先生 (例:歩小姐)
⑥敬称:MS./MR.+漢字表記した名前の英語読み (例:MS.AYUMI)
一人について、名前の読み方が6通りもあるのでは、受付嬢が混乱するのも無理はありません。さらに複合技として、姓+名というのもあります。
私はやむなく、考えられるすべての呼称をリストにして、受付嬢に渡しました。受付嬢は予想外の多さに目を白黒させていました。スマン。(;^ω^)
日本人が思っている以上に、中国人は日本語独特の言い回しが苦手なようです。
私の知人のEさんが、上海にある日系商社に勤務していた時、日本の本社から一本の電話がかかってきました。
受付嬢が電話に出て、以下のように応対している声がEさんの耳に入ってきました。
「はい、××上海有限公司です。……えっ?総経理ですか?……えーっと……総経理は…いりません!……部長?……部長もいりません!」
驚きのあまり、飲みかけのお茶をぶほっと噴き出すEさん。
慌てて、受付嬢に、
「どうしたの?部長あての電話なの?」
と、訊ねました。受付嬢は、
「はい。総経理または部長を、とのことです。2人とも外出しているので、”他們都不在”と言いたかったのですが、日本のお客様に対しては礼儀正しくしなさいといつも言われているので、丁寧な表現にして、”いりません”と答えました。」
と、ドヤ顔で言ったそうです。どうやら、彼女の頭の中では、日本語の”要る”と”居る”がごっちゃになっているらしい……。(´-ω-`)
日本語では、必要であるという意味の”要る”に対して、不要の場合は、”要らない”と言う表現になるので、存在するという意味の”居る”も、不在の場合は”居らない”⇒⇒丁寧表現は”居りません”になると思っていたようです。
その後、Eさんの会社では、『××さんはいりません』という言い回しが、しばらく大流行したのでした。(;´д`)トホホ




