第七十四話 タクシー狂騒曲 その①
日本はタクシー料金が高くて、あまり日常的に利用する交通機関ではないと思いますが、中国では料金が安いこともあり、住民にとって重要な交通機関の一つです。
北京や上海といった大都市では、『嘀嘀出行』というタクシー配車アプリが普及しており、現在地と目的地を入力すれば、登録しているタクシーが、ナビを利用して、すぐに駆けつけてくれます。(日本よりも便利かも)しかも支払いは電子マネー!
また、大手タクシー会社の中には、顧客満足度の向上に力を入れている会社もあり、整備された車両で制服を着た運転手さんによるサービスを"売り"にしています。
でも、こんな便利になってきたのは、2000年以降のことです。
2000年以前のタクシーは、車内が汚れているし、車自体が壊れていることも多く、けっこうトンでもない運転手さんにぶつかることもありました。
例えば………
エピソード① 『整備点検はきちんとしましょう』
1998年のある日、上海市内の自宅から上海虹橋空港に向かった時のことです。
私の乗ったタクシーはお世辞にもキレイといえない、ボロ車でした。
窓の開閉はもちろん手動式。しかもハンドルが取れて、ねじが剥き出しになっていました。
ガタガタ音をたてながら、タクシーは空港に向かって高架道路を走っていきます。
本当に乗り心地が悪い!あまりにも揺れるので車に酔いそう。そしてやたらに走行音が大きい。すれ違う車がなぜかこちらの車を指さしている?……はて???(・・?
空港に着いて、やっとその理由が分かりました。
私の乗ったタクシーは、高架道路を走行中にタイヤの1つが破裂して、無くなっていたのです。3輪だけで事故を起こさなかった運転テクニックが、無駄にスゴイ( ゜Д゜)
「お客さ~ん、タイヤがパンクしちゃったよ……。俺、これからどうやって市内に戻ったらいいの?」
やや涙目の運転手さん。
私は黙って、ちょっとだけ高めに料金を支払ってあげたのでした。
エピソード② 『ファイト~~!いっぱぁ~~つ!』
1994年の冬の日のことです。
北京市内の友人宅で夕食をご馳走になったあと、大学の留学生寮まで戻るためにタクシーを呼んでもらいました。
客待ちしていたのに近距離で嫌だったのか、私が運転手さんに行先を告げても、まともに返事がなく、黙って一つ頷いただけ。しかも、そんなに深夜でもないのに、直線道路を右に左に大きく蛇行しながら、スピードを上げたり緩めたり、おかしなスピードで走っていきます。
一緒に乗っている留学生仲間が、
「あれ?……ちょっとこの人ヤバいかも。バックミラーに映っている彼の目を見てごらん。私はここで降りて歩いて戻ったほうがいいと思う。」
と、突然言い出しました。
私がバックミラーを覗くと、そこには……
瞳孔が開ききった2つの眼が映っていました。しかも表情が陶酔したような、夢の中にいるような感じです。
『で、出たぁ~~!麻薬中毒患者!』(゜Д゜;)
気づかれないように内心で叫ぶと、私達はすぐに料金を支払って車から降り、夜の街道をトボトボと、かなりの距離を歩いて大学まで戻ったのでした。やっぱり、ラリっている人が運転する車には乗りたくないよね。
エピソード③ 『ココハドコ?ワタシハダレ?』
上海でタクシーに乗って目的地を告げる時、注意しなければならないのが、地名や建物名よりも、『××通りと○○通りの交差点』と言わなければならないことです。
運転手さんは、市内のランドマークとなる建物を除き、通常は道路名で走行ルートを判断します。
その数少ないランドマークとなっている建物の一つが、上海商城(通称:ポートマン)です。
リッツカールトンホテル、マンション、オフィス、ショッピングモール、劇場の複合コンプレックスビルで、イギリス領事館も入居しています。
1999年のある日の夕方、ポートマンに住んでいる友人宅に遊びに行くため、私は勤め先のある淮海路からタクシーに乗り込みました。
「ポートマンまで行って下さい。」
私が運転手さんに告げると、
「すみません、昨日、上海に出てきたばかりで、道が分からないんですよ。ポートマンって、どこですか?……お客さん、自分で道を説明できますか?」
「えっ??……まぁ、ここからポートマンまでなら、何とか説明できますけど……。」
「それじゃ、案内をお願いします。」
……偶にいるのです。このように『今日からタクシー始めました』な人が。
たいていが田舎から都会に出てきた”打工仔”で、タクシーの営業免許も、誰かにお金を払って名義だけを借りており、交通ルールすら知っているかどうか怪しいレベルです。
「昨日まで、トラックに乗っていたんだけど、タクシーの方が儲かるって聞いたから、転職したんですよ。トラックって高架道路の内側に入れないから、市内の道を知らなくて。」
今ならばカーナビがあるので、このような人でもやっていかれるでしょうが、当時はナビが普及していなかったので、道を知らない運転手さんに当たると、こちらがカーナビ代わりになるしかありませんでした。
何とか目的地にたどり着き、料金を払って、車から降りようとした時、
「ちょっと、お客さん、ここはどこですか?」
「……はぁ?(# ゜Д゜) ここが“ポートマン”ですけど。」
「え?ここが?嘘でしょ?ここは上海駅のはずですよ。いつからポートマンになったの?」
どうして中国人は知らないくせに、知ってるフリをするのでしょうね……。
ワタシニハ理解デキマセン(=_=)




