第六十話 草原の中のモンゴル人
強い相撲取りを輩出する国として知られるモンゴル共和国。
実は、中国にもモンゴルがあることをご存じですか?
モンゴル共和国と国境を接している部分に、中華人民共和国 内蒙古自治区があります。
この2つの地域に住んでいる民族は同じです。
まぁ、歴史的、政治的に色々あって、今では2つの国に分かれています。
住民が話す言葉も同じ。モンゴル語です。内蒙古自治区の場合は、中国語も母語となります。
第47話でもちょっと触れましたが、1995年に私は内蒙古自治区を訪れたことがあります。
当時留学していた中国の大学が、外国人留学生を対象とした”修学旅行”を企画したので、参加したのです。
夜行寝台列車で北京から呼和浩特に向かい、そこからバスに乗って、草原の中にある観光牧場で乗馬を楽しみ、パオ(遊牧民のテント)に一泊して、また夜行寝台列車で戻ってくるという、結構ハードなスケジュールでした。
片言の中国語でお互いのコミュニケーションをとっている欧米系、アフリカ系、ラテン系、アジア系の学生が揃った旅行ですので、もう一言で表すならば”動物園”状態。
北京駅で、留学生達が列車に乗り込む際、車掌さんが引率の先生に対して、
「……到底是哪一个国家的?(訳:いったいどこの国の人達ですか?)」
「……什么都有(訳:何でもありのグチャグチャです)……」(´Д`)ハァ…
とため息交じりに答えていたのですから、その混乱度は推して知るべし。
寝台列車で大騒ぎのまま(みんな寝ていない)、呼和浩特からバスに乗って、草原の中の牧場へ。
途中、草原の中の一本道で、バスがエンストしてしまう大アクシデント発生!
私達は全員バスから降ろされて、代わりのバスを待つことになりました。
普段は誰も外国人など通りかからない片田舎の街道に、突如として現れた異国人の大集団。やがて、どこからともなく付近の住人達がぞろぞろ現れ、私達を取り囲んで、”見物”し始めました。
あまりにも無遠慮な彼らの視線に、ちょっとキレ気味のアフリカ系や欧米系の留学生が、
「私達は動物じゃない!そんなにジロジロ見ないで!」(# ゜Д゜)
と言っても、ニヤニヤして知らん顔。動物園の檻の中でゴリラやライオンが吠えているくらいにしか思っていないのでしょう。
やがて、代わりのバスが到着し、私達はバスを乗り換えて目的地の観光牧場に向かいました。
ひたすら地平線まで何もない草原のド真ん中に、管理棟と宿泊用のパオが数棟建っています。
到着後、私達は数グループに分かれて、乗馬、草競馬、モンゴル相撲を体験することになりました。
南米から来ている留学生は、
「うぉっ、久しぶりに馬に乗るぜ~。ちょっと走ってくるわ(^^♪」
と言って、あっと言う間に地平線の向こうに、カッコよく馬で去っていきました。
どうやら第三諸国からの留学生達は、母国で豊富な乗馬経験があるらしく(セレブだから)、颯爽と馬を乗りこなしています。
一方、私は、牧場職員から、
「アンタはだめだ。絶対に手綱を渡せない。」
と言われて、日曜日の遊園地でメロディペット(人を乗せて歩くぬいぐるみ型の電動遊具)に乗る子供状態。なんか、カッコ悪い……( ;∀;)
そして、私達留学生の代表者と牧場職員が草競馬で対決することになりました。
土埃をあげて彼らが疾走しているのを遠目に眺めていたら、現地でのアテンドに付いて下さった内蒙古大学の先生(蒙古族)に、突然、”日本語で”声をかけられました。
「あの、すみません、日本からの留学生ですか?」
「は、はい。日本人です。」
「いやぁ~、懐かしいです。僕は一年前まで日本に留学していました。ずっと新小岩に住んでいたんですよ。」
「えっ、新小岩ですか?JR総武線のですか?」(◎_◎;)
「はい~♪黄色いラインのJR総武線に毎日乗っていました。元・葛飾区民の蒙古族です。」(*’▽’)
大草原の真ん中で、突如として始まる総武線トーク。
地平線まで続く大草原に腰を下ろして、ただ冷たい風に吹かれて、全力疾走する馬達をぼんやり眺めているという、はたから見たらとてもスケールの大きな景色なのに、お互いに話している内容は日本の関東ローカルという、何というみみっちさ(;^ω^)
実にシュールな経験をしたのでした。




