第五十八話 愛犬家という言葉が無かった時代
中国でカワイイ犬を見かけても、気軽になでたりしてはいけません。
なぜなら、日本と違って、狂犬病の予防注射が義務付けされていないからです。
今でも狂犬病にかかって亡くなる人がいる国なのです。
"君子危うきに近寄らず"。遠くからモフモフを愛でましょう。
2000年代以降、上海や北京などの大都市では市民の生活が豊かになってきて、犬をペットとして飼うという習慣が広まってきました。
それまで、”役に立たない動物を飼うなんて、ブルジョワジー的で共産主義にそぐわない。飼うなら、ネズミを捕ってくれる猫が良い”とされていました。
だから、街で犬を見かけることが非常に少なかったです。野良犬すらいませんでした。
住宅街で、外国人の駐在員が愛犬を散歩させているのを時々見かけるくらいでしょうか。
地元の中国人は犬にあまり馴染みがないので、街で犬を見かけると、大げさなくらいに怖がっていた印象があります。
上海の都市伝説で、『転勤シーズンになると、欧米人駐在員がペットの犬を捨てて帰国してしまうのに、街には野良犬が全くいない』というものがあります。
欧米人駐在員が捨てた犬は、野良犬になる前に、中国の田舎からきている出稼ぎ労働者に捕まえられて食べられてしまうのだそうです。元・ペットの犬は、人馴れしていて捕まえるのが簡単なうえ、大型犬種も多く、お肉たっぷりで出稼ぎ労働者は大喜び(;^ω^)…ホンマかいな(・・?
1997年に中国人の友人に連れられて、私が上海動物園に初めて遊びに行った時のことです。
パンダや金糸猴などの人気動物のコーナーを過ぎて、広い敷地をどんどん奥に進むと、”イヌ科の動物の展示コーナー”というものがありました。
“シベリア狼”、”ジャッカル”、”レッドフォックス”……そして”犬”。
「えっ、”犬”ぅ!?!?」
思わず私が二度見した大型飼育ゲージの中には、シェパード系の雑種犬が一匹、何となく気恥ずかしそうな顔で、ポツンと所在無さげにお座りしていました。
動物園で狼と一緒に展示されるくらい、犬って珍しいものだったんですね……。
ちなみに、当時の上海動物園に猫はいませんでした。なぜなんだろう?




