第四話 紙幣が廃止になった日
1993年の年末、中国滞在中の外国人を震撼させるニュースが突然発表されました。
"1994年1月1日を以て、外貨兌換券を廃止し、中国人民元に統一する"
今でこそ国際通貨の一つとして考えられるようになった中国人民元ですが、当時は国際通貨として認められていませんでした。と、いうよりも外貨に直接両替すら出来ませんでした。
外貨は、指定された金融機関(銀行の主要支店など)で、中国政府が発行している"FFC(外貨兌換券)"という特別な紙幣にしか両替出来なかったのです。
外貨兌換券だけが、出国時に外貨に再両替可能な通貨でした。(しかも再両替可能なのは、最初に両替した金額の2/3までだったような……)
外貨兌換券は、特殊な紙幣で一般にあまり出回っておらず、そこら辺の八百屋のおじちゃん達からみたらニセ札同様なので、街中でそのまま使えることが少なく、街角のタバコ屋などが兼業していたヤミ両替商(通称:チェンマネ屋)で人民元に再両替してもらう必要がありました。
当時のヤミレートでは、外貨兌換券は人民元の2倍の価値があったと記憶しています。
つまり、冒頭のニュースは、
『あなたの手持ちのお金は、あと×日で価値が半分に減っちゃいますから~』
という通告なのです。日本じゃあり得ませんよね。
このニュースが私の耳に入り、真偽の確認が取れたのが12月28日午前中。
つまり残された時間はあと4日間しかないわけです。
残された時間をフルに使って、少しでもレートの良いヤミ両替商を探し、手持ちの外貨兌換券のうち、額面の大きいものはすべて人民元に替えました。最終日のレートは、外貨兌換券1元に対し、人民元が1.3元までになってしまっていたと思います。また、手持ちの現金を最小に抑えました。
この頃には中国の主要銀行は外貨両替業務を一時停止していました。
そして運命の1994年1月1日。
それまで外貨兌換券で価格表示されていたホテルのコーヒーショップのメニューには、紙が貼られて、手書きで人民元の価格が記載されていました。
2016年現在、インドの高額紙幣廃止による混乱が色々と新聞報道されていますが、実は遠くない昔に、『すぐお隣の国でも同じようなことがあったんですよ~』と思いながら、遠い目をしてコーヒーをすすっている私なのでした。