第三十五話 あまり見たくない公開処刑
前回からグロい話が続いていますが、おまけでもう一つグロい話を。
中国では、日本と違って、犯罪者に人権がありません。
つい最近まで、死刑は銃殺刑のみで、しかも公開で行われていました。
1990年代に深セン市に駐在していた知人(日本人)から聞いたところによると、他の社員と一緒に現地政府のご招待を受けて、野外スタジアムで実施された公開死刑を見たことがあるそうです。
罪状は『汚職』。
死刑囚は、もともと現地の税関関係者だったのですが、地位を利用して、外資系企業から多額の献金や物品(=賄賂)を受け取っていたことが発覚し、死刑判決を受けたのだそうです。
幸いにして、私の知人の勤務先は不正献金をしていなかったそうなのですが、『お前たちも、むやみやたらに不正献金すれば、外国人でも末路はこうなるぞ~!』という脅しとして、めったに外国人には公開することのない銃殺刑の観覧に特別招待されたのだとか。
死刑囚は罪状を書いたプレートを下げて、トラックの荷台に乗せられて入場してきたそうです。そして、スタジアムの特設ステージに挙げられて、警察官二人かがりで腕を取られて跪かされました。(RADIO FISHの”パーフェクトヒューマン”の振付のような姿勢)
それから、バンッ!という軽い銃声ととともに、一発で頭を打ちぬかれて倒れたそうです。
死刑囚の身体が倒れた際に、片方の靴が脱げたのがとても印象的だった…と知人は語っていました。
中国では再審制度がなく、仮に執行猶予なしで死刑判決が下った場合、ほぼ即日で死刑執行となります。
中国にまつわる文化のなかで、私が一番受け入れられないのは、凶悪犯罪を犯した死刑囚について、判決から刑の執行までをTVのニュース番組で密着取材することです。
「あと10分で死刑執行ですが、最後のお気持ちは?」
「私の犯罪の犠牲となった方、そして私の家族に対して心からお詫び申し上げます。
次に生まれてくる時には、真人間になりたい……。本当にごめんなさい。」
いくら次の凶悪犯罪を未然に防ぐ効果があるとは言え、ここまで報道するのは、ちょっとやり過ぎなのではないでしょうか?
目隠しやボカシ無しの実名報道ですからね。手にも足にも逃亡と自殺を防止する鎖が付けられた状態だし。中国語ではこのような状態の死刑囚のことを、『活死人』というそうです。
正直言って、外国人からは、中国で死刑判決となる判断基準というのが分かりにくいです。
もちろん、殺人や人身売買やテロや麻薬販売など、誰が見ても死刑だと分かりやすい罪状もあるのですが、汚職などの経済犯に対しても、死刑が適用されたりします。
かつて、私の大学時代の恩師(日本人)が、中国政府の招きで訪中した際、日本から持って行った一眼レフカメラを、ホテルの部屋から盗まれたことがありました。
当時、私の恩師は国賓に準ずる待遇で招かれていたので、現地警察としては、賓客の安全に問題があったということになり、メンツが丸つぶれとなったわけです。
先生としては、旅行保険も掛けてあるし、盗難事件をそれほど大事にはしたくないと関係者に伝えて帰国したのですが、帰国後約2ヶ月して、盗まれたカメラが、現地警察からのお手紙付きで、ひょっこり戻ってきました。
手紙を読むと、宿泊先のホテルの従業員が、出来心で部屋からカメラを盗ったことを認めたため、盗品を回収するとともに、犯人を厳罰に処した、と書かれていたそうです。
当時は、”外賓”に危害を加えた中国人は、罪の重さが通常の2倍になる、と一般的に言われていましたので、おそらくこの場合の『厳罰』とは、死刑か無期懲役だと思われます。
先生は、たかがカメラ一台のことで、他人の一生を大きく狂わせるようなことになるとは……と非常に後味の悪い思いをしたそうです。
現在、中国では、死刑の方法が銃殺か薬殺かのどちらかになり、大都市では非公開で実施されるようになりました。ただし、まだ地方都市では、死刑が公開で行われることもあるのだそうです。
太古の昔から、中国では公開死刑が大衆の娯楽の一つとして考えられていたので、犯罪者が死にゆく様を公開することに、日本ほど心理的な抵抗がないのかもしれません。
しかし、今後、国際社会のトップに立とうとしている国がとるべき『王道』ではないように感じます。
小説のキーワードを少し見直しして、『グロ』も追加しました。当時は現地の雰囲気に慣れて平気だったことでも、今になって思い出して文章化すると、かなりグロい内容が多いので……。
今後はなるべくヒドイ内容は避けるように気を付けますね。




