第十九話 セコムしてますか?
2000年頃まで、中国では外国人が居住できる住居が、政府から指定されていました。
『外銷房』(外国人購入可能住宅)と『僑滙房』(華僑購入可能住宅)の2種類です。
普通の中国人が住むのは、『内銷房』といいます。
日本に外国人登録証があるように、中国でも、外国籍を有する人が長期滞在するためには、外国人居留証の取得が必要ですが、以前は、警察に届け出している現住所が、『外銷房』と『僑滙房』でないと、許可が下りないとされていました。
(今ではこのルールは撤廃されているみたいですね)
中国に留学する場合、学生寮に暮らすならば、まず問題ありません。
就労する場合でも、駐在員としての赴任ならば、自分の会社の総務課が手配してくれる住宅は、たいていホテルか超高級マンション、もしくは日系メーカーが建てた一戸建て住宅になるので、こちらも問題がありません。
ビザ的に問題が無い代わりに、家賃がものすごく高いです。
当時、上海では、家具付きホテルマンション2LDKの家賃が、日本円で約20万円/月、なんていうのはザラにありました。
日本だと、"セコム"、"アルソック"のような会社が、遠隔操作で住宅を警備していますが、中国は余剰人員が多いので、実際の建物に人が住み込んで、住宅の24時間警備を行います。
特に、学生寮などになると、建物入口の"管理人"と"エレベーターおばさん"の2種類の監視の目が光っています。
このエレベーターおばさんというのは、昼間はエレベーターガール(?)として働き(日本のデパートと違って、椅子に座っていますが)、夜間は地上階にエレベーターを止めて、エレベーターの箱の中に組み立て式のベッドを持ち込んで、ぐーすか眠っています。普段でもエレベーターの中におばさんの私物が転がっているので、公共の施設というよりは、何だか人の家に無断で上がり込んだような変な気持ちがします。
おばさんの睡眠時間を確保するため、エレベーターには厳格に運行時間というものが決まっており、エレベーターの"終電"(!?)が存在します。(たいてい夜11時くらい)
終電のエレベーターを逃すと、高層階にある自室まで、非常階段をえっちらおっちら自分の足で登ることになるのです。
管理人さん、ガードマンさん、エレベーターおばさん、いずれも建物内の住民の家族構成や名前をすべて把握しており、住民の動向に一番詳しい『情報通』です。
以前に私が上海の外国人向け高層マンションに暮らしていた時、北京在住の友人達(日本人と中国人)が、前ぶれもなく突然遊びに来たことがありました。その時、あいにく私は、マンションに隣接しているスーパーにちょっと買い物に行っていました。
当時、友人達は携帯電話を持っておらず、私の部屋番号もハッキリ覚えていなかったので、普通なら連絡が取れずに、スゴスゴと帰らざるを得ないところなのですが、マンションのガードマンさんが、
「このマンションにもたくさん人が住んでいるけれど、あなたの探している人は、たぶんここの12階に住んでいる日本小姐だね。彼女は今出かけているけれど、エプロンにつっかけサンダル姿で、携帯電話と財布だけを持って出たようだっだったから、隣のスーパーにでも行ったんじゃないかな。きっとあと10分もしないで戻ってくると思うよ。マンションのエントランスでちょっと待ってみるかい?」
と、言ってくれたそうなのです。
そして、ほぼ10分後、買い物から戻ってきた私に向かって、ガードマンさんが、
「あなたのお友達が来ているよ。この人達を知ってるでしょう?」
と、友人達を引き合わせてくれました。
いきなり予告も無しに現れた友人に、本当にびっくりして固まる私(◎_◎;)。
友人達は、にこやかに私に向かって、
「いやー、ここのマンションのガードマンさんの観察力は鋭いねー。私達、胖姐さんの部屋番号も言えないし、服装も汚くてすっごく怪しかったのに、すぐに胖姐さんの友達だって当てられちゃった(;^_^A
あなたがエプロンにつっかけサンダル姿で出かけたから、絶対あと10分くらいで戻ってくるって言われたんだけど、本当に10分で戻ってきたんで、マジでビックリしちゃった。」
………ガードマンさん、本当に凄技です(;'∀') オドロイタ。